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第1話 魔法使いとの出会い

 日本のどこかにある町、水川町。この町にある学校、水川中学に通う一人の少女、源川未来。色々なことに一生懸命な彼女は、今日も元気に学校生活を過ごしていた。

「みくー」
「あ、おはー」
「今日で、3学期も終わりだねぇ」
「もう、来月から2年生だよ。私たちもとうとう上級生だよ! どうしよう!」
「はいはい。どうせ、部活や委員会に入ってないあんたは関係ないでしょ」
「うっ」

 痛い所を突かれたが、全く以てその通りなので何も言い返せなかった。正直なところ、部活動や委員会活動をしていなければ、下級生との絡みなどあるはずもない。
 未来は、部活にも委員会活動も生徒会活動すらしていないので、指摘された通り、下級生とは絡みなど発生するはずもない。

「ぶぅー」
「ぶーぶーぶーぶーうるさいなぁ。豚ですか、あんたは」
「豚じゃないもん! ぶー!」
「また言った」
「茅尋はいいよねー、運動神経抜群でいろんな部活から助っ人頼まれてさぁ」

 ぶーぶー文句を垂れながらも、未来は言った。
 糀谷茅尋。未来のクラスメイトで親友だ。幼馴染みな間柄で、2人は家が隣同士なこともあり、生まれた時から一緒だった。勉強は出来るが運動が得意ではない未来とは正反対で、運動は大得意だが、勉強はからっきしだ。

「あんたも、別に運動出来ないわけじゃないんだから、運動部入ればいいのに。そこそこいいところいけるんじゃない?」
「えー、だって疲れるじゃん。運動するよりも、私はゲームのがいいのだー」
「ゲーム部。あるんだから、入ればいいのに」
「私は、もっとカジュアルにライトに楽しみたいの。見学行ったらあそこ、1フレームが大事! 1フレームが大事! 1フレームが大事! って。どこの世界の人間ですか? 私の知ってるゲームと違う・・・・・・」
「あははー・・・・・・」

 セリフからも透けて見える通り、未来はライトでカジュアルなゲームを好む。言ってしまえば、京都に本社を構えるゲーム会社が出しているレーシングゲームや、パーティゲームなどが大好きな人間で、アメリカに本社を構えるゲーム会社のハードに出るゲームは、本人曰く暗いイメージがあってあんまり好きじゃないそうだ。

「あ、でも、剣と魔法の世界は好きだよ?」
「いきなりなんだ」
「魔法ってさ、憧れるじゃん?」
「んー。まぁ、使えたらいいなぁって思うことはあるけどね」
「だよね、だよね!」

 未来は、鉛筆を持ってブンブンと振り回していた。魔法の杖のつもりなのだろう。
 未来の席は窓際なので、窓のほうへどんなに振り回しても、誰かをケガさせる心配はない。

「あんたって、昔からそうだよね。マンガだって少女漫画じゃなくて、少年漫画ばっかり読んでてさ」
「だーって、少年漫画の方が面白いじゃん。夢! 希望! 未来! 友情! 努力! 勝利! みたいな」
「はいはい」
「ぶー! 茅尋だって、少年漫画ばっかり読んでたじゃん!」

 茅尋に適当にあしらわれた未来は、頬を膨らませて抗議した。それを見た茅尋は、未来の頬っぺたをツンツンとつついた。

「あたしの場合はさ。|あ兄《あにぃ》が買ってたから読んでただけで、別に少女漫画を読んでなかったわけじゃないよ?」
「ていうかそもそもさ、女の子なんだから少女漫画を、男の子なんだから少年漫画を読まないといけないっていうのは、おかしいんじゃない?」
「うちの|あ兄《あにぃ》は、あたしが買った少女漫画読んでたから、別にそれは人それぞれなんじゃない? ただまぁ、少女漫画は男の子ウケしにくいってのはあるかもね。絵柄的にも」

 未来は、そう言いながら、茅尋のツンツンとしてくる手をペシッとはたいた。茅尋は少し痛そうにしながらも、言葉を紡いだ。

「まぁ、男の子ウケするジャンルと、女の子ウケするジャンルって違うからね」
「えー、そうかなぁ」
「だって、龍の玉を七つ集めたりする漫画が、あのストーリーで少女雑誌に連載されると思う?」
「うっ」
「逆に、少女雑誌で良く見られるような、ハートフル恋愛ストーリーな漫画が少年雑誌で連載されると思う?」

 茅尋に言われて、未来は言葉に詰まってしまった。言われてみればその通りではある。龍の玉を7つ集めたり、麦わら帽子をかぶった不思議な能力を持った海賊が主役の漫画が、少女雑誌に載ってても誰も読まないし、逆に、生徒会長がメイド喫茶で働いていたところをイケメンにバレたり、ガール・ミーツ・ボーイな作品は、少年漫画に載ってても読まないだろう。

「おーい、静かにしろー」

 二人してそんな話をしていたら、担任の先生が教室に入ってきた。担任の先生は、謎の紙の束を持っていたので、恐らく通知表だろう。
 正直なところ、見たくないものの一つである。
 そんなこんなで修了式も終わり、通知表も渡されたところで、2人は帰宅の途へついた。

「でさぁ、さっきの話の続きだけどさぁ」
「ん?」
「男女問わずに人気のジャンルって、あると思うんだよね」
「ああ。あの話か。そりゃ、探せばあるだろうけど」
「ある意味で主人公が死神って言われてる見た目は小学生な某推理漫画とか、ああいうのは男女問わず人気なんじゃないかな」
「あれは、もはやアレで一つのジャンルみたいなものでしょ。青い猫が出てくる漫画だってそうじゃない?」

 確かに、見た目は小学生な高校生探偵が活躍する漫画は、ジャンルこそミステリーやラブコメだが、もはや、その漫画そのものがジャンルな気がしないでもない。未来から来た、青い猫が活躍する漫画も似たようなものだ。まぁ、青い猫に関しては、学年誌に連載していたので、少年少女漫画の枠には収まってない気がしないでもないが。

「んー、あ、ほら。異世界モノとか、今は人気じゃない?」
「まぁ、確かにね。異世界転生、異世界転移、純粋な異世界モノ。数え切れないほどたくさんあるわね」
「いいよね~、異世界。私も行ってみたいなぁ」
「どうせ、私たちのような凡人が異世界行ったところで何も出来ないわよ」
「えー、そんなことないよ。きっと、異世界チートとか出来るよ?」
「正直、異世界転生や転移はいいとしても、チートものはあんま好きじゃないから勘弁。成り上がりのが好き」
「まぁ、チート使って何が楽しいのって感じだもんねー」

 そんなこんな話ながら歩いていると、2人はそれぞれの家にたどり着いた。前述したが、2人の家は隣同士なので、着く時はほぼ同時である。

「あれ、誰か倒れてる」

 家の前に、見たことのない服を着た髪の長い人がうつ伏せで倒れていた。
 2人は急いで駆け寄って抱き起こすと、その人は目を見張るほどの美少女で、よくテレビで言われるような、千年や二千年に一度レベルの美少女とは比べものにならないほどの美少女だった。
 そして、この美少女との出会いが、2人の運命を変えることになるとは、まだ2人は知るよしもなかった。

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