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27.後始末

「無様に逃げよったか。追うか?」

「いや、()()いいよ」

「……了解じゃ」

「ふぅ~ さっすがに疲れたな」

 俺はその場で尻餅をついた。
 傷も治るし死んでも復活する身体だけど、受けた痛みや精神疲労は消せないんだ。

「怪我はないか?」

「うっ……ごめんなさい……ごめんなさい」

「謝るなよ。お前を助けたのは俺の勝手だ。怖かったろ? よく耐えたな」

「うぅ……っ――」

「おっと」

 ルリアは泣きながら俺に抱きついてきた。
 強い言葉を使い、ふてぶてしい態度をとっていても、心は幼い少女なのだ。
 恐怖を感じないわけがなく、安堵し涙を流すことも当然と言えるだろう。

「ありがとう……うぅ……」

 何だ、可愛いところもあるじゃないか。
 少女の力で一生懸命抱きつきながら感謝する姿は、とても愛おしくて微笑ましかった。

「どういたしまして」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 日の光は暖かく、そして眩しくい。
 穏やかに吹き抜ける風が、一瞬だけ強くなって髪を揺らし、眠っていた少女が目を覚ました。

「ん……あれ、ここは?」

「おっ、やっと起きたのか」

 ルリアは俺におんぶされながら眠っていた。
 目を覚ました彼女の視界に飛び込んできたのは、草原を裂くように続く長い道だった。

「歩けそうか?」

「うん」

 俺は彼女をそっとおろした。
 そして彼女の質問に答える。

「ここはグロールから続いてる街道だよ。今は次の街に向かってる途中。お前はあの後、疲れてすぐに寝ちゃったから今までおぶってたわけだ」

 出発したのはほんの数時間前だ。
 まだ日が昇ってない頃で、彼女が目を覚ます数分前に、ようやく東の空から太陽が昇り始めた。

「そうだったんだ……街の人たちはどうなったの?」

「ん? あー放っておいたよ」

「えっ、大丈夫なの?」

「大丈夫だろ。もう魔王軍はいないし、あとは勝手にしろって感じだ」

「そ、そうなのかな……」

「そうそう。お前が気にすることじゃないから」

 そうだ。
 ルリアが気にすることじゃない。
 彼女は知る必要はない。
 あの後、俺が彼らに何をしたのか――

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 涙を流すルリアは疲れているようで今にも眠ってしまいそうだ。

「プラム」

「うむ」

 そんな彼女の頭に、プラムがつんと軽く指で触れた。
 すると、疲れで閉じかけていた瞼がすっと閉じて、穏やかな寝息をたてながら眠りについた。

「ありがと、ついにルリアを任せていいか?」

「初めからそのつもりじゃよ。行くのじゃろう?」

「ああ。これは俺がやるべきことだからな」

「うむ。ならば任せるが良い」

 プラムは小さな身体でルリアを抱きかかえ、そのまま窓の外へと飛んでいった。
 俺はその様子を見届けてから、奴が逃げ込んだ扉の先へと進む。
 魔王軍との戦いは終わった。
 だけど、俺にはまだやるべきことが残っている。
 それが終わるまで、俺の戦いは終わらない。

 屋敷の中を捜索すると、地下へ続く道を見つけた。
 無用心に扉は開いたままになっていて、慌てて入った感じがよく出ている。
 おそらく彼は、彼らはこの先にいるのだろう。
 階段を降り、さびた鉄の扉を押し開けると――

「ようやく見つけた」

 暗い牢屋のような空間に、大量の人間が隠れていた。
 彼らはこの街の住人だ。
 夕方、到着して歩き回った街で見かけた顔がチラホラ見受けられる。
 そして、領主の恐怖した顔もその中にあった。

「ひ、ひぃ!」

「さてお前ら……覚悟はできてるんだろうな?」

「ま、まま待ってくれ! 待ってください! 私たちは脅されていただけなんだ!」

「へぇ~ そうだったんだ~ 全然気が付かなかったよ~」

 俺は白々しい口調でそう言った。

「わ、私たちだって本当はこんなことしたくなかったんだ! だが従わなければ殺されてしまう!」

「そっか、だから仕方なく俺たちを騙したんだな?」

 俺はニッコリと微笑みながら尋ねた。
 この笑顔を見た時点で、すでに何人かは察したようだ。
 察していない領主は、俺が許してくれそうだと勘違いした。

「そ、そうなのだ! 本当にすまなかったと思っている。許してもらえるなら何でもするつもりだ」

「何でも?」

「そうだ。金が必要なら出資しよう! 私の持っているものでいいなら譲ろう」

「ふぅ~ん。じゃあ死んでくれ」

「えっ……」

 少しだけ希望を持ちかけていた表情が、今の一言で消え去った。
 唖然として、驚愕して、俺を見て汗を流している。

「おいおい、まさか許してもらえると思ってたのか?」

「ど、どうして……私たちは脅されて」

「だから自分たちは悪くないって? ふざけるのも大概にしろよ」

 俺が発した殺意に、領主は震えて一歩下がった。

「お前たちは、俺たちを殺そうとしたんだぜ? どんな理由があれ、刃を向けた時点でお前たちは敵でしかないんだよ」

「そ、そんな……私たちは人間だぞ!」

「知ってるよ。お前たちは人間だ。醜く生にしがみ付き、己のためなら平気で他人を犠牲にして、自分は悪くない、仕方が無かったんだと罪を肯定しようとする――愚かしいほどに人間だよ」

 そして俺は、そんな人間まで助けたいとは思わない。

「だから殺す――『無間闇(むけんあん)』」

 暗い部屋の壁や天井から大量の虫が発生する。
 鋼すらも突き破るほど鋭い嘴を持つ虫が、街の人々を骨の髄まで食い尽くす。
 痛みと苦しみを全身で感じながら、悶え叫び倒れていく人間たち。
 その様子を、俺はただ無表情で眺めている。

「な、なんでこんなことができるんだ……お前は人間じゃないのか」

「その通りだよ。俺は人間じゃない、人でなしだぜ」

 敵に対する慈悲はない。
 たとえ相手が人間だろうと子供だろうと、俺の敵になるなら消すだけだ。
 俺が守りたいものは極僅か。
 それ以外は、心底どうでもいい。

 これも全部――ただの後始末だ。

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