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第19話 森

 合計6つのルートから森へ突入した二次試験参加者たちはそれぞれが地図を用いて森の中心へと向かっていた。
 我らがイクトたちは樹海の中を灯を灯しながら進んでいた。特製ランタンの種火に火をつけて進む。
 二次試験は、魔法の地図と信号弾は渡されるが、それ以外のものは自由に持ち込みをしてもいいことになっている。例えば、いまイクトが持ち込んだランタンもそのうちのひとつである。

「ランタン持ってたなら最初から出しとけよな」
「すまん、忘れてた」
「つかよー、そのカバンなんだ?」
「ん? まーなんつーか、念のためってやつだ」
「念のためってなんだよ……」

 イクトは大きめのいわゆるボストンバッグを持ってきていた。イクト謹製のバッグで、普段から持ち歩いている。

「しっかしまぁ、こう木ばっかりだとおもしろくねーな」
「まさに樹海だな。学院の裏手にこんな森があるなんてな」
「普段は見張りが奥へと迷いこまないように見張ってるの」
「確かに、この森は迂闊に入り込むとすぐに右も左もわからなくなるな」

 すでにイクトたちは森に入ってから3分の1の距離まで来ている。その為か、右を見ても左を見ても360度見回してもそこには木しかない。文字通り樹の海、樹海である。

「しっ!」
「なんだ…もがっ!」

 喋りだそうとしたローグの口をイクトはふさいで、物陰に隠れるように指示を出した。

「なんだよ、イクト」
「しっ、静かに!」

 物陰から少し顔を出してさっきまでいたところから少し離れたところをみると、モンスターがいた。一つ目の巨大なモンスターである。

「あれは……」
「サイクロプスだ」
「サイクロプス?」
「一つ目の巨人、サイクロプス。その圧倒的な力で木々をも薙ぎ倒すという」
「あれって、伝説かと思ってた」
「伝説や神話ってのは、過去に起きた事実から作られる御伽噺のことだ。存在しているのはあり得ないことじゃない」

 サイクロプスはイクトたちが先程までいた場所までやってくると、辺りをキョロキョロと見回し始めた。イクトたちを探しているのである。その後ろから、一人の男がやってきた。

「あれは……人間か? 何か話してるな」
「ローグ、聞き取れないか?」
「さすがに無理だ」

 男はサイクロプスに対して何か話している様子で、サイクロプスもその言葉を理解しているようだった。

「しかし、あそこに居られちゃ先に進めないな」
「何とかした気を逸らせれば」
「よし、俺に任せろ! 土の鷲(ランドイーグル)!」

 前回も説明したが、魔法にはコントロール出来る距離というものがある。しかし、コントロールする必要がない場合、例えば相手の気を逸らすためだったり、気を引くために使う場合は関係ない。木々が鬱蒼と生い茂っているとはいえ、木と木は隣り合って生える場合でもある程度の隙間は生じる。その隙間を縫って土の鷲(ランドイーグル)を飛ばせばいいし、範囲外を飛ばし続けていると魔力も切れてただの土くれに戻る。

「グルルルル」

 その鷲にサイクロプスが反応して、追いかけていった。そのあとをやれやれといった感じで男もついていった。

「行ったか?」
「見える範囲にはいないな」
「なんだったんだ、あいつらは」
「うちの関係者って感じでもなかったもんね」

 さっきまで男たちがいたところへ戻る。当然だが、そこには何も残っていなかった。仮にここを出てからシルバーやマーベラスたちに知らせたところで二度とここには戻ってこれないし、仮にこの場所に戻ってこれたとしても、痕跡が何もないのなら調査のしようもない。

「あいつらのことは気になるけど、今は先へ進もう」
「そうね」

 再びイクトたちは歩を進めた。行けども行けども木ばかりである。モンスターはもちろん、他のチームとも鉢合わせがなかった。

「地図だともう少しなんだが」
「あ、あれじゃないか? 祠って」

 ローグが指差した先には、いかにもといった感じの祠がそこにはあった。
 参加しているチーム分の札があるはずだが、そこには残り一つしかなかった。それはつまり、イクトたちが最後に祠へ辿り着いたということを意味していた。

「6位で中間突破かー」
「他のチームがどこまで進んでるのかわからないけど、まだ挽回の余地はあるよねっ!」
「ああ。ある」
「よーし、ラストスパート頑張るぞー!」

 折り返し地点に辿り着いた段階でイクトたちは最下位であった。しかし、この折り返した後の後半がこの試験の中で最も波瀾万丈であることをまだイクトたちも他の参加者たちも知るよしもなかった。

「そろそろ夕刻か」
「日が暮れそうだな」
「ただでさえ暗い森がさらに暗くなるな」
「心配か?」
「特には。この森に危険なモンスターは棲んでいませんし、迷子になるくらいですかね」
「その為に地図を渡したはずなんだがな」

 シルバーは心の中で一抹の不安を抱えていた。そのシルバーの不安はある意味、最悪の形で現実となるのであった。

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