バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第46話 ベストヒットUSO

 ごく最近、すぐそばの街角で……

ダークスター編 エピソード5「新たなる希望へのカウントダウン」

 世界を凍りつかせた凶悪な侵略者・冬将軍に対し、地球側の反撃部隊・J隊は軍事境界線CBA48度線を越え、大反撃を開始するも、冬将軍が操る人工ブリザードとアイスウォーカー等の恐るべき氷結兵器群の前に敗退する。
 激しい戦闘の一方で、白井雪絵を救うべく雪原を追った金沢時夫は、キタキツネを見かけて「ル~ルルル……」と呼びかけるだけだったが、ありのままの姿を取り戻して<雪の女王>にパワーアップした雪絵と再会した。二人は「ハーグワン」作戦によって、古城ありすらとの秘密通信に成功する。さらに二人は、「ダークスター」の秘密を暴き、最後の希望であるありす達に託そうとする。それは、地球を一瞬で凍りつかせる最大出力の氷結光線を放つ最終兵器だった。と、たいそうな話だが、すべては時夫ん家の近所で起こっている出来事である。近所こそ、人類のラスト・フロンティア。
 かくて、古城ありす率いるJ隊による地球側の大反撃がいよいよ幕を切って落とされようとしていた……。

ロイヤル・ハーグワン

 時夫は、自分が来た南側の地平線を振り返った。さっきまで激しい戦闘による爆音が鳴り響き、黒煙や雪煙が吹き上がっていた。だが、今は静寂が支配している。CBA48(シービーエーフォーティーエイト)度線を越えて、J隊が反撃を開始したのは確実だったが、結局、彼らがここへ到達していない事を考えると、地球人側の反撃は失敗に終わったらしい。ありす達はどうなったのか。途中、何度も雪絵とのハグによって、雪原を氷解させつつ凍死を避けながら、今、二人は氷結城の前まで来ていた。1ダースベイゴマは前線に出ていて不在だった。ここには、あの金太郎飴のような行動を取るだけのダークトゥルーパーこと、黒蟻たちしか残されていないはずである。
 見上げるとまさにそれは、1ダースベイゴマの頭部に尖塔が生えた異様な氷の城だ。唯一使える武器を持つ雪絵を先頭に、城内に侵入することを情けなく思う時夫だったが、ライトセーバー誘導棒は、未だ使えていないのだから仕方がない。今は、「雪の女王」として覚醒した雪絵のポップコーン機関銃に頼るしかないのだ。だが城は、雪絵によると、脱走した時よりもさらに分厚い警備兵たちによって護られていた。
「ここは私に任せてください……」
 平気な顔つきで雪絵は突然ダッシュした。警備のダークトゥルーパーたちの前に躍り出た。兵士達に緊張が走り、一斉に氷結銃の銃口が彼女に向けられる。
「蟻の~~、ままに~~ッ!」
 ガチャ! ズドドドドドド!!
 雪絵の構えるポップコーン機関銃が火を吹いた。絶えることなく繰り出されるアツアツ出来たてのポップコーンの雨霰。それらに眼を奪われ、ダークトゥーパーたちは銃を放って飛び掛らん勢いで食べ始める。あっという間に連中はバターか何かのように溶け出して、二人の足元をチョロチョロと蟻んこが這っている。あぁ! 腹減った……。俺も食いたい。
「『ゲートルーム』を探そう。そこに、ダークスターに関わる秘密がきっと何かあるはずだ」
 時夫は空腹を我慢しながら、敵基地には必ず「ゲートルーム」というものがあることを思い出していた。
「はい。私に心当たりがあります」
「それは?」
「『白っぽい恋人』のお菓子工場が怪しいです。『白彩』の方も、今考えると工場内にゲートルームがあったと思います」
 雪絵の白い顔がにっこりと笑う。
「本当か」
 二人が氷で出来た回廊を走り抜けると、時夫の予想を遥かに超えた巨大な工場空間が目の前に出現した。無数に走るベルトコンベアー群、完全自動化された無人の工場内で、「白っぽい恋人」が、続々と箱詰めされている。時夫はその一箱をコンベアーから取った。
「成分表示は……エ~ト読めんな」
 箱には、バンバン人の文字が記されている。それはそうだろう。だが雪絵は白魚のような手でそれを取り、少し考えてから云った。
「ショゴロースって書いてあります」
「ショゴロース? それは、何だ」
「砂糖の一種です。おそらく……バンバン用語で和四盆のことだと思います」
 雪絵は直観のみで答えている。だが、その雪絵はサリー女王のロイヤルゼリーで出来た、砂糖人間。その言葉は無視できない。
「本当に? じゃ白彩の」
「はい」
 雪絵の確信めいた言葉は、それ以外に根拠など要らないのだ。雪絵自身が「和四盆」そのものを成分として出来ているからだ。その時、時夫はそう確信していた。ショゴロースとは、バンバン用語で「和四盆」のことに違いない。つまり白彩の砂糖がここでも使われている、という事である。そしてこれほどの量が製造されている「白っぽい恋人」、その意味はただ一つだろう。古城ありすもどっかでお土産として買ってきた。やはりバンバン人は白彩の手先であり、世界中にショゴロースの、「和四盆」の菓子をバラまこうとしているのだ。時夫は一箱食べて空腹を抑えたい気分になるのを、グッと我慢する。
「時夫さん、コレです!」
 工場の中心まで歩いてくると、雪絵はホログラフィで映し出された上空のダークスターを指差した。雪絵は端末を直観だけで操作を開始した。すると、眼前に浮かんだダークスターの内部が映し出された。そこには、無数のダークトゥルーパーたちが蠢き、まさに蟻んこの巣穴の中のようだ。どうやら彼らは、ダークスターの内部で生み出されているようだった。
「これは……バンバン人たちが生まれる巣穴の農場です。つまり、ダークスターがバンバン人そのものといっていい。これが、ダークスターの秘密なんです。バンバン人こそがダークスターなんです」
「……」
「つまり、両者は連動しているって事ですね」
 雪絵がダークスターの映像を見ながら思案していると、隣の時夫は凍死寸前になっていた。
「あっ。ご、ゴメンなさい!」
 雪絵は自分が寒さに平気であるため、つい推理に夢中になった。時夫の体調を忘れかけた自分を恥じる。慌ててハグをすると、二人はたちまち体温が上昇し、そのまま城内を温め始めていく。氷が溶けて軋み始める。
『バフンウニ♪ バフンウニ♪ バフンウニマンヂュウ♪』
 ザザザザザザ……ザッザッザッザッザッ!!
「やつらだッ。城の異変をかぎつけて駆けつけてきやがった!」
 雪絵とハグしたままの時夫は、周囲のベルトコンベアーを溶かしつつあることに気づいた。この工場もまた、コンベアーから何から何まで氷でできているのだ。
 工場の四方の出入り口から、ダークトゥルーパー軍団が群れをなして続々と入ってくる。ハンパな数ではなかった。いや、それだけではない。天井や、ちょっとした床の穴からも、ダークトゥルーパー達が次から次へと這い出ている。まるで「スターシップ・トゥルーパーズ」の一シーンだ。一体どれだけの数が居るのか、数える気が失せるが、途切れることがない。雪絵は時夫を手放すと、ポップコーン機関銃を構えて、目の前の敵に撃ち放った。しかし、雪絵が打倒できる相手の数は限られていた。倒された敵兵の後ろから、新たな敵が押し寄せてくる。ヘルメット下の黒いガスマスクの顔が迫ってくる。じわじわと二人は黒蟻たちに取り囲まれていった。ここはいわば侵略地に出来た新たな蟻の巣穴の中枢であり、しかもその中心に立っている二人は、完全に脱出経路を失っていた。
 敵が掴みかからんと一斉に襲ってきた瞬間、雪絵はガシャン!とポップコーン機関銃を床に落とした。再び雪絵は時夫とハグをした。すると今度は、爆発的な気温上昇が起こり、工場内に上昇気流が起こった。ダークトゥルーパー達は明らかにひるんでいる。工場は再び、二人の居る中心部分から溶け始めた。パニック化した蟻たちだったが、後ろから押せ押せで、二人にぶつかると、今度はハグを阻止しようと必死に引き離しにかかった。時夫はダークトゥルーパー達の洪水にもまれて押し流され、雪絵を見失った。
「あっ雪絵!」
 もはや彼女の姿は見えない。
「くそっ」
 時夫はとっさに誘導棒を抜いた。ビシュンと電光音が鳴り響き、眩き光の剣が出現する。遂に、遂に時夫はジェダイとして覚醒した。時夫は目の前の敵を斬って斬って斬っていく。だが、幾ら斬っても雪絵には近づけなかった。
「時夫さぁん! 思い出して、唄って、唄ってください」
「何を? ……なんだって、雪絵?」
「ハグを、ハグの瞬間を思い出してください! そして唄ってください」
「蟻の~~、ままに~~ッ!」
「蟻の~~、ままに~~ッ!」
 雪絵を信じるんだ。すでに百メートル以上引き離され、さらに距離が開いていく最中の二人は、声を合わせて唄った。
 ビリリリリ……バチバチバチ……!
 突然の青白い閃光が、工場内を眩く照らし出した。光源はなんと時夫と雪絵……の間にある空間だ。時夫と雪絵は、距離を隔てて+極と-極となって、「ハーグワン」のエネルギーを作り出していた! 今、二人の間には青白い電撃が生じ、ダークトゥルーパー達を黒こげにしていっている。ハーグワンのボルテージがアップして、プラズマが発生した瞬間だった。これぞ、「ロイヤル・ハーグワン」。いいや、その電撃は二人の間だけではなく、その周辺にまで及んでいた。しかもこの人間電池、決してエネルギーが尽きることがない。その結果、城内の気温はさらに急上昇した。乱気流が発生し、亀裂が生じた氷結城は、軋みながら崩れ始めた。
(俺氏、科術を……)
「早く、ダークスターの秘密をありすさん達に伝えないと」
 雪絵は直ちに戦闘機を見つけると、時夫とハグしながら通信を開始した。
「……ダメです。大気中を強力なジャミングが通信を妨害している。おそらく、上のダークスターが動き始めたんです」
 二人は上空のダークスターを見上げた。もはや、直接ありす達と合流するしかない。

ベストヒットUSO ホットマスターフード・カウントダウン

「そっちはどう?」
「万事快調よ!」
 無線で前方の戦車のありすに連絡を取って、後方のJ隊のフードコンボイのウーと小林カツヲが料理を作り、ウーが岡持ちを持って二台の連結を走り回り、戦車に料理を運び込む。ウーは一旦恋文町に戻ると、時夫の部屋や、ウー自身のお店から食材を運び込んでいた。
「じゃあ始めてくれる? ……カツヲ~、ゴハンよぉ~!!」
 どんな掛け声だ。
『ザ・ベストヒットUSO! HOT DISH MADE ON EARTH COUNTDOWN! コンバンハ、小林カツヲです。いよいよ始まりました。ホットな料理をお届けするカウントダウン!』
 小林店長は厨房で手を動かしながらDJもこなし、マイクに向かっていた。
(昼なのに……)
 「ベストヒットUSOオン・エアー」を聴きながら、戦車を操縦するありすは、
「さすがの美声ね。バリトンボイスのカツヲ店長が演(や)ると、俄然深夜放送みたいな雰囲気になるわね……。科術は素人だけど、DJはまさにプロ。イイカンジ!!」
 と、モチベーションが一気に上がった。きっとこの科術のために、小林店長は意味もなくオサレだったのだ。前方の地平線を埋め尽くした敵バンバン軍を目視しながら、「この戦は勝てる」という確信が、ありすの握るハンドルにも篭っている。雪原のあっちこっちに、黒い日の丸の旗、すなわちダークスター国の旗が立ち並んでいる。
「まず一発目は当然カツ丼からですな! 君はどう思う?」
 と、一応意見を訊きながらもカツ丼しか作った事がない小林店長に、ウーは釘を刺す。
「ちょい待ち。イキナリは重いんじゃないの。もしもはじかれたらオシマイじゃん。そうなったら大変、カウントダウンの後が続かない」
「そ、そーかもしれませんね……」
 店長は少し肩を落とした。とはいえ、カツ丼しかレパートリーがないのだから、他に提案しようがないのだが。
「だからそーいうのは後で大事にとっとくのよ!」
 厨房内は、すでに石川ウーの指示通りに、様々な料理を下処理しており、一部はほぼ完成している。だから、店長は仕上げのみで速やかに次の料理を出すことが出来るのだった。同時に大量の音源を搭載したアンプ類もあって操作する。壁には、外の様子を映す4Kテレビまで掛かっている。全く、何でもアリのトラックである。ウーは厨房を見渡した。ついでに巨大冷蔵庫も開ける。
「食材だけは揃ってるからね。あたしが運び込んだものも大分あるけど」
「はぁ。なるほど……では一発目は?」
「あ、いいのがあるじゃん。やつらは寒い国から来てるから、きっとお腹を壊しているはず。やさしいものを食べさせないと。徐々に行くわよ。最初はお粥!」
 それはウー個人の体験だろうが、根拠なき確信でも何でも、今は本物の科術使いの石川ウーのいう事に、小林店長はとにかく従うしかない。
 冷蔵庫にはJ隊戦闘飯のレトルト食品がずらりと揃っていた。ウーはその中からお粥を取り出して店長に渡した。
『それでは行きまshow。ホットマスターフード・カウントダウン!! ナンバー10、マスター『お粥』! フィーチャリング・デビー・ギブソン『オンリー・イン・マイ・ドリームス』……』
 店長がゆでると、ウーはお粥を岡持ちに入れて走行中のトラックのドアをバンと開けた。ウーはさらに、連結した前方のシャーマン戦車までつなげた橋を渡ってハッチを開ける。
「お待ち!」
 ウーは岡持ちをガシャンと開け、お粥の入った碗をありすに差し出した。
「あいよ」
 ありすは一口食べて(やさしさに包まれるなぁ)と頷いてから、大砲にお粥を流し込んだ。(※良い子は真似しないでね)
 するとそのタイミングでカツヲDJ店長の放送が雪原に鳴り響く。
『……風邪や胃腸がお疲れのとき、なんといってもマスターお粥! なーんて、絶対に……食べてはいけマセン! まして梅干と一緒に食べたりなんかしたら、食べあわせサイアク! 消化に悪いことこの上なし! お腹壊しますからね! 残念ですけど!!』
 デビー・ギプソンのポップな曲に載せて、DJ小林カツヲの美声が嘘を言い放つ。
「発射!」
 ドガンッ! ありすのシャーマン戦車が正面に向けて砲撃を開始する。敵陣に向かって無数に散らばってゆく光の玉。その一つ一つが米粒だ。それは光のシャワーとなって、およそ数キロ先の敵の口の中へと吸い込まれていった。正確にはガスマスクの口が開いて吸い込んでいく。奴らは常に風邪気味だった。ダークトゥルーパー達は、キラキラとした優しい輝きに包まれ、やがてバターのように溶け出していく。
「よし成功だね。次よろぴく!」
『ナンバー9、マスター『トン汁』! フィーチャリング・マドンナ『ライク・ア・ヴァージン』! マドンナが実は毎朝味噌汁を食べてない事は、秘密でもなんでもないんですが、しかるにトン汁は、豚肉と根野菜を味噌汁で煮込んだ日本の庶民の代表的汁物。もしもこんなものを寒い冬に食べたら、頭の天辺から足の先まで身体が冷えること間違いありません!!』
 ウーが運び込んだアツアツのトン汁を、ありすは大砲に仕込んでいく。(※良い子は(略))
「チャ~~~、シュ~~~メ~~~ン!!」
 ドカン! 第二撃が炸裂した。(もはや、「砲手徹甲」云々でもない。トン汁を撃つのに、なぜ「チャーシュー・メン」なのだ)
「しまった。食べてるけど、熱すぎたみたい。猫舌だわ。やつ等、全然食べない……」
 ありすの通信を受け、すでにトラックに戻っているウーは腕を組んで考え込む。
「そっか。大丈夫だと思ったのに、イキナリすぎたか? 消化不良を起こしたかも。もし、ここで敵が警戒して食べるのをやめてしまったら」
「まずいですな」
「……とにかく、何でもいいから地球製のものを食べさせないと。よし、ここはブルーな揚げドーナッツで決まり」
「まぁ! どんな?」
 ウーは科術を仕込んだ真っ青なドーナッツを、店長と共にせっせと油で揚げた。ウーは人差し指でくるくる回して油にダイブさせる。すると、真っ青なドーナッツが続々揚がっていく。
『ナンバー8、シスター『ドーナッツ』! フィーチャリング・ブライアン・アダムス『ヘヴン』』
 「ヘブン」を聴いたウーが、「甘いわぁ……とろけそう」とほとんどトロけている。
「食べたッ! 次第に色を変えていくぞ」
 小林店長は、敵軍の様子をモニターを見て驚いている。
「ふふふ。そこが科術ドーナツの恐るべし、なトコロ! 最初は青いドーナツだった。と・こ・ろ・が、途中から鮮やかなピンクに変わっていってしまう。つまり実はホットなドーナッツだったって訳よ! まさに嘘八百、フェイクなドーナッツ! うふふふふ」
 ウーと小林店長は笑ってハイタッチした。これで次にいける。
『ナンバー7、マスター『三文カレー』! ……ところで、このネーミングなんとかなりませんかね? J隊(ウチ)のカレーは別に、三文カレーじゃないんですが』
「いいのよこの名前で、店長。嘘を放送中なんだから」!(←おっと「!」が外に出ちった)
『と、いうことで『三文カレー』……フィーチャリング・スターシップ『セーラ』! どんな熱い国でも食べられない、知られざるカレー。スパイスが効かず食欲を減退させ、高い遅い不味いの三拍子!! これぞ三文カレー。決して食べない事!』
 ……なるほど、こういう使い方か?! ベストヒットUSOでは全てがひっくり返るのだ。小林もつい忘れてしまう。三文カレーはバカ売れだった。この少女、さすが科術使いいでいらっしゃるぜェ!!
『ナンバー6、マスター『ポトフ』! フィーチャリング・ア・ハ『クライ・ウルフ』!』
 また熱い料理にチャレンジ。すでに下処理を終えて、だいぶ煮込んであったのを温め直す。
「わおっびっくりした!!」
 戦車にハッチから入ってきたのは、狼の被り物をつけたウーだった。「クライ・ウルフ」に合わせているのだろうが、首から下はデビー・ギプソン衣装のままなので、急いで被り物をつけた感じ。
『フランス家庭料理代表格。『火に掛けた鍋』の意を持つ、牛肉・ソーセージ・ニンジン・たまねぎ・カブ・セロリをじっくり煮込んだ、寒くて寒くて冷たい料理。イヤー背筋が凍る』
「よーし喰ってる喰ってる。……アオー!!」
 ウーが横からマイクに吼えた。
『吼えたところで次いってみましょう。ナンバー5、マスター『グラタン』! フィーチャリング・ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース『パワー・オブ・ラブ』!』
 次第に小林店長と石川ウーのリズムがぴったり合ってきた。もともと「薔薇喫茶」のウェイトレスなのだから、まさにうってつけの仕事だ。
『グラタン。それはオーブンで焼いたフランス語で『オコゲ』という意味の料理である。もし食べたら実際に身体を焼いて焦がしてしまいます。文字通り丸焦げです。もしも焦げたくなければ食べないこと!』
 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも有名なこの曲は、ウーもありすも聴いたことがあった。
「あたし、八十年代って生まれてないから知らないけど、めちゃくちゃポップでキャッチーな曲が多いね。誰でも受け入れられる」
「はい」
 ウーはノリノリ。ローラースケート族のウーこそエイティーズ文化にぴったりの女の子だ。一方で黒ゴスロリのありすは二千年以降、現代風である。
「いい時代だったんですよ。まさに音楽の黄金時代です」
 小林カツヲはニカッと笑った。
『ナンバー4、マスター『トマト・クリーム・スープ・パスタ』! フィーチャリング・ボン・ジョヴィ『リヴィング・オン・ア・プレイヤー』!』
 ウーが時間を掛けて下ごしらえした、いきなり凝った料理の出現。クリーミーなパスタ料理である。ところが、いつまでも時間が掛かっている。ありすはイライラしてウーに無線で問いただすと、何と、やり直してるらしい。
「だってアルデンテじゃないんだもん」
「あーもう! 急いでんだからアルデンテだろうがナイデンテだろうがどっちでもいいじゃない!」
「それ面白いの?」
 むっとしたまま無線を握り締め、ありすの顔が赤くなる。
 現在、ありすのシャーマン戦車は敵陣を突破し、さらに奥へと突っ切っていた。今までのカウントダウンで登場したHOTな料理の力で、敵軍は翻弄され、ダークトゥルーパー達はバタバタとバター化していたが、もはや猶予は許されない。決して、耐えることなき科術の攻撃を仕掛けなければならないのだ。
『文字通りスープとパスタの禁断の恋、禁断過ぎて禁断症状、食べるな危険! 恋に落ちてもオチはなし!!』
 なんとか完成したアルデンテのクリームパスタを、ありすは大砲に仕込んだ。ワイルドでゴキゲンなハードロックのリズムと共に、大砲から、シャワーのような光に増幅されたパスタが飛んでいった。これまでで最大の影響力を及ぼした。破壊力抜群。侵略者どもはもはや、地球のHOT料理の虜だ。
『ナンバー3、マスター『鶏肉と白菜の豆乳スープ』! フィーチャリング・ヴァン・ヘイレン『ジャンプ』! 鳥のように大空へと飛び上がって! 白菜のように包み込み、飛び跳ねる豆乳!』
「店長……『嘘』になってないよ」
 ウーが心配げに覗き込む。か・ら・の……
『ついでにサンダーバードも飛び跳ねる!』
「嘘っ」
 ウーと無線で聴いてたありすが真っ青になる。
「嘘でーす」
 黒眼鏡越しの小林店長が笑っている。なんつー高等戦術!
「次がカツ丼ね。店長、準備に入って」
 それにしても厨房に入った石川ウーの働きぶり。ウーの両手は千手観音か十得ナイフか。戦車まで岡持ちの出前までして八面六臂の大活躍。
「え? ナンバー1じゃないんですか?」
 小林店長の手から、菜ばしがポロッと落ちた。
「最初から決めてたわ。最後に<冬将軍>に止めを刺すのはこのあたし、<鍋奉行>だってね!」
 くっ。このセリフには誰も反論できん! 店長は歯軋りした。これが、意味論を縦横無尽に操る科術使いというものか。
『ナンバー2、マスター『カツ丼』! フィーチャリング・ヨーロッパ『ファイナル・カウントダウン』! 割り下で煮て調理し、鶏卵で閉じてオン・ザ・ライス!! 地域によってはソースで味付けすることもあるHOTな料理。フランスではワイン入りのマデラソースで味付けし、さらには、テキーラやウォッカでソースを味付けする地域もあるとかないとか』
 またしても高等戦術。……ホントにあったとしたら喰えんわ。
 進撃する、ありすとJ隊の壮大な炊き出し。「ベストヒットUSO」のオン・エアーで、もはや戦場は、口を開けた鳥の巣の雛状態のダークトゥルーパー達だらけだった。そこへありすの科術砲がぶっ放されると、連中は面白いように喰らいつていく。
「準備OKよ。……煮立ってきたわ」
 石川ウーは店長に合図しつつ、鍋の灰汁を取る。
『それではいよいよナンバー1の発表ですッ、マスター『すき焼き』。フィーチャリング・TOTO『アフリカ』! 決して、灰汁を取ってはイケマセン。内包する悪を喰ってエネルギーに!』
 なるほど、さすがの「ベストヒットUSO」の小林カツヲのDJぶり、確実に「嘘の意味論」をマスターしている。これまでも全てHOTな曲ばかりだったが、最後が暑い国「アフリカ」とは、さらに肉(ニク)い選曲だ。Stay tuned!

しおり