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初デートと、仲の良かった姉妹・4

 旅館の屋上に、長黒衣で目元を覆面で覆った男がいた。
 その傍らには大きな籠があり、その中には大量の蝶が入っていた。
 この世界の蝶は人間の手のひらサイズ、ちょうど遊精と同じか若干小さいかくらいの体長まで成長する。

 覆面男が籠から蝶を一匹取り出し、手にした棒で触れると、その蝶は先程の水木朋そっくりの遊精の姿に変化した。さらに男はその遊精に首輪のようなものを装着し……

「なるほど、実際に飛行する生物を別の姿に变化させる神具なのね」

 工場長が、わざと男に聞こえるような大声でそう口を開く。
 確かに、それなら遊精そのものを神具として操るより消費する精神力は少ない。
 そして爆発させる神具は取り付けた生物そのものの精神力で作動させ、歌のサビを合図に爆発させるようにすれば操作する必要すらない、と。

「お、お前ら!?」

 作業に没頭していた覆面男が、その声でようやくボクらの存在に気づく。
 男は慌てながらも慣れた動作で懐に手を入れて、こちらを振り向いた。
 その手には飛び神具、いわゆる拳銃が握られていた。

 おいおい、危険神具法違反って言葉知ってるか?著しく重症を負わせる神具は所持が制限されてる筈なんだけど。

「たとえ相手が虫とは言え、爆発させる神具を持たせるなんて見てて気持ちが良いものじゃないわね」
「黙れっ!それ以上余計な事を話すと……なっ?!」

 飛び神具で勢いづいた男が、覆面から見えている口元を歪ませる。

「お馬鹿さん、こっちには神具を消せる能力持ちがいるの。拳銃なんて何の脅しにもならないわよ?」
「なっ、なめるな!」

 というが早いか、今度は小刀を持って工場長に突進する、が。
 彼女は小刀が突き出されたその腕を掴んで勢いのままに、男を投げ飛ばした。

「なめているのはどっちかしら。
 私柔道四段で、学生時代は全国大会まで行ったことあるのよね」
 
 工場長は涼しい顔だが、いや、今さらっととんでもない事言ったよこの人。

「さて、ナマリちゃん。この男の覆面を剥いでしまいなさい。
 その正体は、我々会ったことがある人よ」
「お、本当だべか?どれどれ……」
「やっ、やめろっ!」

 男の抵抗も虚しく、ナマリさんががその男の正体を顕にする。

「お、こいつは……って誰だべ?」
「んー、知らない顔っスね」
「……ええと工場長、どちら様ですかっ?」

 ナマリさん、メッキくん、スズちゃんが声をあげる。 
 ああそうか、一応会社には来てるんだけど製造や倉庫担当の皆はちゃんと顔を見てないから分からないか。
 ボクとユーさん、そして工場長の三人は昨日事務所で顔を合わせてたばかりだから覚えてるけど。

「確か、ケドコの部長を名乗った男で御座るな?」

 はい、解説ありがとう。相棒の遊精、ジュラが言う通り彼は昨日、ユーさんが考えた新型遊精の技術を、こともあろうに盗んだとイチャモンをつけに来た男だった。

「そして”遊精の風”の構成員でもある。まあ、計画の杜撰さから下っ端なんだと思うけど」

 工場長が補足説明する。

「何のことか分からん」
「まぁ、ケドコと遊精の風が繋がってるなんて世間に知られたら、大スキャンダルですものね
。ま、私ごときに捕まる時点で、どちらからも尻尾を切られるのは確実でしょうけど?」
「か、関係ないと言ってるだろう。ワタシが独断でやったことだ」
「……って言っておかないと、命すらヤバイでしょうからね。
 ああ大丈夫、多分クソ馬鹿ネオンに問い詰めても同じ事言いそうよ。
 そんな奴は知らない、って」
「代表の悪口を言うなッ!!」
「あらあらっ?
 何故”遊精の風”と関係ないはずのあなたが、その関係者しか知らないはずの代表者尼岸音音(ニキシネオン)の名前をご存知で、しかも憤慨なさってるのかしら?」
「あっ……」

 「問うに落ちず、語るに落ちる」という言葉があるが、工場長のまさに誘導尋問のようなやり取りで、ケドコの部長は自分が”遊精の風”の所属であることを、あっさりとバラしてしまっていた。

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