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第22話

 ようやく誕生日祝いの料理を作り終えたのは十九時半――いつもより、一時間遅い時間だった。

「すみません、澄人さん。こんな時間まで待たせてしまって……」
「いや、全然! 大丈夫! 待ってなんかいないよ!」

 澄人はそう言ったが、彼は料理ができるまでずっと座っていた。しかも落ち着かない様子で。
きっと、お腹が空いているのを悟られないようにしているのだろうと思ったはるは、作った料理を次々にテーブルの上へ並べ、最後に巨大なケーキを置いた。

 そして更に、はるはロウソクの絵が書かれた箱を手にした。

「ロウソク……?」
「はい。誕生日には、やっぱりケーキにロウソクはかかせませんから」
「あ……そっか。そうだよね」

 澄人は思い出したかのように言った。

 はるは、巨大なケーキの一段目にロウソクを十六本刺すと、それに火をつけ、部屋のライトを遠隔操作し消した。

「それじゃあ、誕生日のお祝いの歌を歌わせていただきますね」
 ロウソクの灯りが照らす中、はるはイスに座ると歌を歌い始めた。
「ハッピバースデートゥーユー……ハッピバースデートゥーユー……ハッピーバースデーディア、澄人さ~ん……ハッピバースデートゥーユー」
「フー……!」

 はるが歌を歌い終わると、澄人は息を吹きかけ、ケーキに刺さった十六本のロウソクを消した。

「澄人さん。お誕生日おめでとうございます」
「あ……ありがとう」
「澄人さん。これ、プレゼントです」
「プレゼント? は、はるが……ぼぼ、僕に?」

 はるは、エドワードから渡された――ウェアラブル端末が入っている箱を澄人に手渡した。

「えっと……開けても良いかな?」
「もちろんです」

 澄人は深呼吸を何度かしてから、箱を開けた。

「ウェアラブル端末……?」
「アーティナル・レイスが、登録者の健康管理をするためのものなんです。もちろんそれだけじゃなくて、澄人さんがそれをつけていれば、もし何かあった時に、わたしと連絡を取ることができます。仮に話せない状況であっても、脳波で会話ができるんですよ」

 澄人は箱からウェアラブル端末を取り出し、説明書を数秒眺めた後、

「た、試して見ても良い?」
「はい」

 彼はウェアラブル端末を右腕につけ、電源を入れた。

 そしてすぐに、はるの頭に声が聞こえてきた。

「(これでいいのかな……? はる、聞こえる?)」
「(聞こえますよ。澄人さん)」
「(えっ!? これって……はるの声も聞こえるの?)」
「(そのウェアラブル端末が、わたしの思考を声に変換して、脳に信号を送っているんです)」
「(じゃあ、これでいつでもはると話せるってことなんだね!)」

 口で話すよりも活き活きとした感じの澄人。

 そして電源を一旦切ると、

「あ、ありがとう、はる。すごく嬉しいよ!」

 澄人は口で、はるにお礼を言った。

――よかった。澄人さん、喜んでくれて。

 喜ぶ澄人を見て安心したはるは、ひとまず澄人の分のケーキを取り分けることにした。このままの状態だと、食事の妨げとなってしまう。

「それにしても、このケーキ……近くにあると、さっきよりも大きく見えるね」
「そ、そうですね」

 澄人が食べるのは、多くてもせいぜい二人前。残りの三十人前以上の分については、そのほとんどをはるが夕食で食べなければならない。

 人間であれば、よほどの大食いでなければそれは無理だが、はるの体は機械。しかも、ケーキは彼女の大好物。食べきることは可能であるが……。

――うぅ~……これだけの量、澄人さんの前で食べると思うと、なんだか恥ずかしくなってきちゃう……。

 しかし、冷蔵庫に入れられるのはせいぜい五人前程度。食べなければ捨てることになってしまうので、やはり食べるしかない。

 そうしてはるがちょっと顔を赤くしながら、ケーキを切っていると、

「そういえばこのケーキ。なんだか、ウェディングケーキみたいだね」

 澄人が、ふとそんなことを言い出した。

「ウェディングケーキ……?」

 確かに、そんなふうに見えないこともない。

――ウェディングケーキ……結婚式……。

 はるの脳裏に、澄人の結婚式が想像され、同時に澄人が恋愛感情を抱いている相手のことが気になりだした彼女は、

「あの……澄人さん。澄人さんが恋愛感情を抱いている人って、どんな人なんですか?」

と、聞いてしまっていた。

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