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五章

[プリーズ、ヘルプミープリーズ! シュートザットドラゴン! シュートザットドラゴンプリーズ! お願いだ、助けてくれ、あのドラゴンを撃ってくれ!]
「な、何を言ってるんだトモヤ?」
 クダが戸惑い、ケントが叫んだ。
「竜が来るぞ!」
「皆、伏せろ!」
 俺は彼らを信じてそこに伏せた。
 彼ら……。合同演習をしていたらしき、自衛隊と米兵達を。
『なんだ、あの扉は!?』
『エイリアンか!?』
『化け物が子どもを襲っているぞ!』
『上官、応戦を』
『全員、実弾に変えろ、応戦する!』
『『『『『了解!』』』』』
 英語で米兵達が交わし合う。意味はなんとなく聞き取れた。
[上官、私達も応戦を!]
[今、許可を取るが時間が掛かる! お前達はまずあの人々を保護しろ!]
[[[[[了解!]]]]]
 どうやら、自衛官が助けに来てくれるようだ。
 米兵達が銃を構え、太鼓を連続で叩くような音が響く。
 撃たれた竜が火を軍人たちに向けて吹いた。
 伏せていたケントが立ち上がり、パラメーターを使って斬り上げる。
 竜が仰け反り、炎が外れる。
「あいつら、なんて言ってるんだ!?」
「俺達を助けようって!」
「なんですか、あの馬の無い大きな乗り物は!」
 ごつい印象を持つ車が何台か走ってくる。
 俺はしっかりと王子と王女を抱き上げた。
 そこで武官達が追いつき、扉を見て呆然とした。
 そこで目ざとい武官が見つける。
「見ろ! 書物だ! マジックポーションもある」
「まさか、これがマゼランの財宝!? とりあえず、これらを全部持って帰るぞ。扉の事は後だ!」
「待て! それは俺の……もご」
「諦めろ! まずは逃げるのが先だろーが。お前しか言葉わかんねーんだからしっかり通訳しろよ。ほら、来たぞ」
「扉を閉めてしまいましょう。花嫁誘拐はさすがに即処刑です」
 クダが俺の襟元を引っ張る。ブール―が扉を閉めているあいだに、車がブレーキ音を響かせて俺達の目の前に止まった。
[俺達を乗っけてくれ、後ろの武官達は別口だ、乗せなくていい]
[わかった、早く乗りなさい。君と子供達とそこの綺麗な銀髪の子はこっちに。残りはもう一つの車に]
「なんて言っているのです?」
「早く乗れって。バーク様とアンティ様とクダと俺はこっち。後はそっちだ」
「わかりました。バーク様とアンティ様を頼みます。ケント! こちらへ」
 俺達が車に乗り込むと、竜が車を狙って炎を吐こうとしてきた。
『こっちだ、お嬢ちゃん!』
 米兵が叫ぶ。あれはバズーカ?
 続く轟音。
 腕をもがれた竜は一声鳴いて、空へと消えた。
[取り逃がしたな……]
「逃げたか。腕が落ちてるな。竜のスープはうまいんだよな……」
「あれって知恵あるんだろ? なんで食べるって発想が出るんだよ、気持ち悪い」
「獣よりちょっと賢い程度だよ。旅の最中では食べ物でえり好み出来なかったし」
[何を話しているんですか? 君達は、一体……]
 話しかけてくる自衛隊の人に、俺は答えた。
[別に、竜のスープは格別にうまいって言ったら知恵あるものを食べるなよって。別に共食いしてるわけじゃないし、知恵って言っても獣より少し賢い程度なんですが。ああ、俺の名は鈴丘智也。夢追市の流星病院に入院している鈴丘美咲に会いに来ました。入国手続きをお願いします。俺は就労、こいつらは一時滞在で。空港じゃないけど、しょうがないですよね?]
[鈴丘智也……日本人みたいな名前ですね。同じ名字のようですが、ご家族がこちらに?]
[似たようなものです。用がすんだら観光をしてこいつらを返して、俺はこちらに住もうと思っています。入管に行った後は、質屋に行きたいんですがいいでしょうか? それと、ドラゴンの事すみません。追われていて、どうしようもなくて]
 本当はこっそりと溶け込みたかったが、もうしょうがない。
 俺は開き直る事にした。
[もしかして、旅券もありますか? もしくは身分証明出来るような物は]
[帝国には旅券みたいなものは存在しませんし、特に何も……]
[あるぞ! 余の王族の紋章のついた……もごもご]
 バーク様が腕に巻いたスカーフを取ると、そこに不思議に輝く腕輪が現れる。
「黙れバーク様! 貴方はもう王族じゃないでしょう」
 日本語!? 精神融合で覚えたか! 俺は王子の腕に巻いてあるスカーフを急いでつけなおした。
[お……王族の方ですか?]
[子供だから妙な事を言うんですよ]
 自衛官は疑わしげな眼で俺を見た。
 しかし、異世界移動呪文を使えるのは俺だけだから、向こうに問い合わせる事は出来まい。
[とにかく、俺は美咲に会いたいだけなんです。入国が許されないようなら、美咲に会ったらすぐに帰ります。時間が無いんです。美咲の奴、大怪我してて……]
[上に伝えてみよう。ところで竜のスープってどんな味なのか聞いていいですか?]
[いいですよ。それはもうコクがあってまろやかで、肉と骨を煮込めばそれで一つの料理になるんです。魔王退治の旅の最中で、調味料が用意できなかったのが残念ですね。あれを普通に料理出来ていたらどんな美味しい料理が食べられるのか……。焼くとちょっと味が濃すぎるんですよ。だから少ない水で煮込んで……]
 自衛隊のテントへと向かうと、すぐにブール―とケント、アトルとアトラが来た。
 アトラが、抱きついてくる。
「トモヤ! 会いたかった、会いたかった、会いたかった! 四年間、ずっとトモヤの事を考えていたよ。トモヤが助けに来てくれて、あたし、嬉しい……。トモヤ、もう離れない」
 アトラのささやかだった胸が人並みに大きくなっている事に、感触で気づく。
「ア、 アトラ……」
 これはプロポーズなのだろうか? 俺の補助呪文を引き継いだアトラ。
 ずっと俺なんかを慕ってくれたアトラ。けれど俺はトモヤとして、一人で生きていくと決めた。巻き込みたくなんかない。
「アトラ……」
 口を開いた時、こほんと自衛官の一人が咳払いをした。
「今、入管の人が来るから。美咲さんについても探してもらっています。それまでの間、色々質問していいでしょうか?」
 そこで、米兵の一人が自衛官の腕を引いた。
『おい、金本。こんな大事件、日本だけで処理しようって言うんじゃないだろうな。なんでさっさとこいつらの荷物検査をしない?』
『彼らは我が国を訪ねて来たのだから、入管はこちらの処理になります』
『そりゃないだろ。ぜひアメリカにもご招待するよう話が来てる。それとドラゴンについてなんだが、倒したのは俺達なんだからサンプルは俺達が貰うぞ』
 そこで、俺達を送ってくれた自衛官が口をはさんだ。
『あ、ちょっと肉を分けて貰っていいですか? 竜のスープは格別にうまいって聞いたもので、ちょっとだけ味見を……』
『食うのかよ!』
 米兵が急に自衛官を小突いた。
『知恵あるものってのはちょっと抵抗がありますが、スープが絶品らしいんです。コクがあってまろやかで少ない水で煮込むだけで料理になるとか』
『…………』
『よだれを垂らすな!』
 自衛官の一人が涎をたらし、米兵がその自衛官も小突く。
「な、何やってるんだ?」
 ケントが呆然と呟く。サンプルとかドラゴンとかイートとかいう単語は俺にも聞き取れたので説明した。
「多分、ドラゴンの肉の取り合い。研究用に取っておくか食べるかで悩んでるんだと思う。こっちではドラゴンはちょっと貴重だから」
「ああ、少し採取してあるぞ。魔物の肉は美味いのが多いから」
 ケントがカバンから各種魔物の肉を取り出す。
「命のやり取りしているときにそんな事をしていたのですか」
「ブール―だって、俺のお土産を楽しみにしてたくせに。まあいいか。腹も減ったし、食事にしようぜ。それで俺達が食事に誘えば、問題なく食えるんだろ?」
「わかった」
[俺達、これから外で食事を作ろうと思うのですが、一緒に食べませんか?]
[え、わけてくれるんですか!?]
[こら、お客人に食事をねだるな。……いいんですか?]
 俺達は外に出て、まず火を起こす。炎砂を小さな臼でゴリゴリとやって、白く光り始めたら土の上に撒く。炎が燃えて、おお、と周囲から声が漏れた。鍋を火にかけ、水袋から水を入れる。小さなまな板の上で竜肉を細かく切り、鍋に入れた。
「食料は手に入るんだよな?」
「入る入る」
 俺の言葉を聞き、ケントは全部のパンを薄く切った。アトラが雑穀を炒め、別の鍋に入れておかゆを作る。アトルが魔物の肉を炙った。
[お皿持ってきてー]
[わ、わかった]
 用意されたお皿に盛っていく。
[出来ればそっちの食事も分けて欲しいんですが。俺は自衛隊の食事って食べた事無いし、こいつら本物の日本料理食べた事無いんで。後、こっちの肉は全部魔王が生み出した、魔物って言うゲームに出てくるモンスターみたいなのなんで、一応言っておきますね]
[任せろ、美味しいカレーを御馳走してやる! 子供にはお菓子だな、少しあるから待ってろ]
俺達にカレーが配られ、お皿にはパンや魔物の肉、果物が並べられる。
 鍋にはお粥や竜のスープが入っており、各々がお椀を持った。
「頂きます、んー。やっぱり竜のスープは美味しいな。それに久々のカレー……格別だ。こっちの缶詰は何かな」
「一人で楽しむなよ、トモヤ。この金属の塊はどうやって食べるんだ?」
『あああ、サンプルが……もったいない……』
『まあまあ、もともとこの人達のものじゃないか』
[美味いっす! 美味いっす!]
[こら、一人でいっぱい食べるな!]
「はぅぅー。これ、凄く甘いな! 余は満足だ!」
「まんぞくだ」
「こぼしてますよ、バーク様」
 わいわいと食事を楽しむ。いつの間にか入管の人や外務大臣も混じっていたのにはびっくりした。
 食べ終わった後、入管の人が書類を用意する。
[いやー、美味しかった。ごちそうさまでした。とりあえず、日本政府からの招待という事にしたのでこの書類をなくさないようにして下さい。後、危険なものがないか荷物検査を行いますね]
[刀がありますが、神様から頂いたものなので手放すわけにはいきません。どうせしばらく監視はつけるんでしょう? なんとかなりませんか]
[神様から頂いたもの……ですか、宗教は困りましたね。しかし規約に外れるわけには……]
[許可しましょう。私が責任を持ちます]
 外務大臣が横から口を出す。俺は安堵のため息をついた。
[他に爆発物、麻薬等は持っていませんか?]
[痛め止めがあるんですが、まずいでしょうか。後は燃える砂の炎砂があります]
[では、そちらは国を出るまでこちらでお預かりします]
[お願いします]
 スムーズに税関がすみ、就労ビザが取れてしまう。
 こんなに簡単でいいのだろうか。
 その後、外務大臣と握手している所を写真に取られて、俺は解放された。
 と言っても、監視されている事に代わりはない。
 その後、ホテルのスイートルームに招待、もとい監禁された。
 美咲の事は、すぐに調べるから待ってくれと言われた。
 まだ、美咲が事故にあってから二日だ。期限は七日。まだ時間はある。
「トイレはこう使うんだよ。わかったか?」
「う、うん。お風呂が使い方難しそうだね。使えるかな……」
 アトラが心配そうに言う。
「大丈夫だろう。温度調節は俺がしたし。バーク様達は俺が風呂に入れるから。クダ、手伝えよ。」
「おう、わかった」
 順番にお風呂に入る。泡風呂を楽しめる事が出来、王子王女は大喜びだった。
 クダも、こっそりはしゃいでいる。
 その後、ニュースを見た。最初は皆びっくりしていたが、すぐに慣れてテレビの前に集まる。
 やはり、俺達の事はニュースになっていた。ドラゴンが大写しになっていて、防衛大臣が演説していた。
[大丈夫です! こんな事もあろうかと、自衛隊は宇宙怪獣が現れた際の緊急プランを用意してあります。いや、役だって本当に良かった。現在も衛星から常に位置を見張っており、近隣住民には避難勧告を出しています。米軍との協力関係も確立されており、十日以内には倒す事ができるでしょう]
 緊急プランあるのかよ。
[大臣はこのような事を言っていますが、ドラゴンは貴重な動物であり、保護すべきではないかという意見も出ています。現地人曰く、魔王が生み出した魔物。その実態とは。実際に竜を目撃した自衛官に話を聞いてみましょう]
[銃は全然通じないし、火を吐くしで大変でした。M202ロケットランチャーでようやく腕をちぎる事が出来て。しかし、魔物の肉はうまかった……。噛むと肉汁がじゅうっと染み出て、焼いただけで何もつけてないのに美味いんです。あれは、地球上じゃありえない味ですね。竜のスープがまた、格別にうまい。信じられますか? 水で煮ただけで、立派な料理になるんですよ。コクがあって、美味しいなんてもんじゃない。言葉にできないね、あれは。あんな美味しいものを食べられるなんて、自衛官になって本当に良かった。それとお粥がね。これまたうまい。いろんな味をブレンドしていて……]
 クダが、心配そうにテレビを見る。
「ドラゴンの事、怒ってるか?」
「大丈夫じゃないか? なんか竜肉美味いが大半を占めてるし」
 クダに答え、俺はテレビに注意を戻す。
[ほうほう、それで、倒した竜はどうするのですか?]
[サンプルを取って解剖した後、そのまま腐らせるのも勿体ないので、料理して希望者だけで食べますよ。いやー、最適な料理法を見つけてやるって佐々木の奴、張り切ってましてねー。陸海空そろい踏みどころか、一般の知り合いのコックにも声掛けて、腐らないうちに一斉に料理するって。解剖するって言ってもあの巨体ですし、食べるのは肉ですからね。倒した即日から肉が食べられる予定です]
[竜には知恵がある、との噂も聞いていますが]
[獣より少し上の程度と聞いていますが。ただ、魔王の生み出した生き物とかで、和解はほぼ不可能だそうです]
[そもそも魔王とはなんですか?]
[ゲームのような、と言っていました。詳しくはわかりません]
[そんなに、竜のスープ、美味しかったんですか?]
[いままで食べた中で一番美味しかったです]
[以上、基地からお送りしました]
[いやー、聞いているだけで涎が出てきましたが、どうなんですかね、人道的問題は]
[食文化はそれぞれの国で違いますから、竜を食べる国があっても問題ないと思います。竜肉は全部自衛隊が食べるんですか? それはちょっと国民感情を考えていないのでは。速報が入りました。竜が民家に近づいたため、航空自衛隊が急遽出撃したそうです。無事郊外に撃ち落としたようですね]
「クダ、竜が倒されたって。被害も出なかったようだし、これで安心だな」
 俺はノックの音を聞き、テレビを消した。
[失礼します。所持品を売りたいとの事で、やってきました]
[ああ、入ってくれ]
「誰ですか?」
「ああ、質屋を呼んだんだ。この国のお金を手に入れないとな」
 大きなトランクを持った数人の人間が現れる。あれ、外国人も混じってる。
[貴方達の所持品は全て日米政府が共同で買い取らせてもらいます]
[いや、さすがに全部は売らないから。観光する分だけあればいいんだし]
 俺は持っている全ての硬貨や果物、雑穀、着替え、アクセサリーを渡す。
「あたしも出すよ、トモヤ」
 アトラが、身に着けていた装飾品を渡した。
「いいのか? アトラ」
「いいの。私が一緒になりたいのは陛下じゃないから」
[出来たら炎を出す砂のような不思議な品を頂きたいのですが]
[あー、ライトの代わりになる石だったらあるぜ。俺の分はこれな]
[おお、これは珍しい]
「トモヤ、こっちからは何か買えないのか?」
[早速貰ったお金を使って買い物に行きたいんだが、駄目か? このままじゃ目立ち過ぎだ]
[そう言われると思いまして、色々取り揃えてきましたよ] 
男がトランクを開けると色んな服が出てきて、アトラとクダが歓声を上げた。
しっかり子供服やパジャマも入っていたので、それを買い取る。
他のトランクにはお菓子や携帯食料がたっぷりと入っていた。これは助かる。
俺達は買い物を楽しんだ後、ぐっすりと眠った。


「鈴丘美咲の居場所が突き止められました。交通事故で入院していて、虫の息です」
 ほの暗い部屋、男が美しい女の子の写真をテーブルに置いて言う。
「鈴丘美咲には双子の兄がいて、鈴丘智也と言います。扉を通って現れた男と同じ名前です。そして、その男は美咲の病室で不審視しています。膝立ちに両手を掲げた状態で死後硬直している所を看護婦が見つけました。また、美咲の周囲には魔法陣らしき焦げ跡があったそうです。二人の間に、何らかの関係があるとみて間違いありません」
「鈴丘美咲は、智也はどんな人物だ」
「二人は対照的と言っていいでしょう。片やなんでもできる人気者、片や努力家で知られている割に成績が悪く友人も持たない人間。美咲を憎んでいたと見られる言動も確認されております。ただ、美咲が事故にあったのは智也を庇う為、智也が事故にあいかけたのは子供を救う為でした。両者とも優しさは持っているようです」
「そうか……美咲はどんな状態だ」
「いつ命を落とすかわからない状態です」
「絶対に死なせるな。どんな手を使ってもだ。明後日には美咲と会わせる。両親から出来るだけ情報を絞り取れ。それと、一行に王子が混じっているというのは本当か」
「兄妹二人だけ、名前が長いのです。情報の信頼性は高いと思います」
「二人の情報も出来るだけ集めろ。いいな」
「は」
 男は、書類を持って部屋を出ていった。


 朝、起きてニュースを見ると料理大会が始まっていた。お椀やカメラを持った近隣住民が現地に押し掛けて、自衛隊から竜肉を貰っている。
 自衛官も心得たもので、出店を出してしっかりお金を取っていた。
 美味しい美味しいと言って喜んでいる姿が映る。
 それに、世界各国から学者と料理人とドラゴン愛好家が集まってくるという。
 チャンネルを変えると、学術的価値についてどうこうと話している学者がいた。
 俺達の事は全く話題に……おっと。
[しかし、竜肉を持ってきてくれた現地人とはどんな人なのでしょうか。エイリアン? パラレルワールドの住人? 他にも雑穀や果物、他の魔物の肉などが美味しかったという情報があり、僅か一日ながら、国交に期待が高まっています]
 ドアがノックされ、俺は振りむいた。
[入ってくれ]
[おはようございます。美咲さんが見つかりました。明日、会う事が出来るよう手配をしておきました。観光もしたいという事で、勝手ながらこちらでスケジュールを組ませていただきました。ご確認ください]
 俺はスケジュールに目を通す。何故かアメリカ観光も予定に入っている。
 偉い人との会談が目白押しで、俺はめまいがした。
[俺達は美咲に会いに来ただけの、個人の旅行者なんだ。国交とか、そういうのを期待されても困るぞ]
[それですが、美咲さんは妹さんですか? 貴方は死んだ鈴丘智也さんなのですか?]
 死んだ、と言われ俺は改めて衝撃を受けた。やっぱり、死体が残ってたんだな……。
[……そうであって、そうではない。なぁ、俺は会談とか国交の為の協力とか全然する気はないんだよ。俺は美咲に会いたいだけなんだ]
[美咲さんに会ってどうするのですか?]
[会って異世界の治療法を試す、それだけだ]
[そうですか……。そう言えば、そちらの男の子は王子だという話を聞きましたが]
 あ、やばい。
[うむ、もう王子ではないのだ。政争で敗れ、今は逃亡のむ―]
「なんかやばい事を言っているのはわかるぞ、バーク様」
クダがバーク様の口を塞ぐ。
[……亡命の件でも話を聞いてみます。その辺の事情も詳しく聞かせて下さい]
[関係ないだろ。扉は俺しか開けない。この世界ではMP回復が出来なくて魔術師には良くないから、亡命する気もない。魔王も倒さないとならないしな。バーク様達は帰るし、キストラン帝国の奴らが日本に迷惑を賭ける事はない]
[扉は、貴方しか開けない……。とにかく、朝食は外交官とアメリカ合衆国大使、農水副大臣と一緒に食べて頂く事になってます。そう硬くならないでください。あくまでも個人として来ているという事はわかりました。お三方とも楽しい方ですから、会話を楽しんで頂けたら幸いです。朝食は八時からです]
 俺はクダ達を呼んで、朝食に向かった。
 

 朝食には竜肉の野菜スープが出ていた。
[ごきげんよう、バークレイ王子殿下。アンティセルト王女殿下、ごきげんよう、智也さん、クダさん、ブール―さん、アトルさん、アトラさん]
 外交官たちは、まず王子王女に礼をしてから俺達に挨拶をした。互いの自己紹介が終わり、席に着く。
 俺はまず竜肉のスープを飲んだ。美味しい。
[素晴らしい味ですね、竜肉のスープは! 竜は貴方の国では多いのですか?]
[それほど多くはないな。魔王領の所にはいっぱいいると思うけど]
[魔王領とはどんな存在なのですか?]
[ゲームの魔王と同じだよ、破壊の限りを尽くす]
[ほほぅ。現地の人と敵対しているわけですね]
[アトラさん、服が良く似合っておいでです。それにあうアクセサリーを用意したのですが、受け取って頂けますか]
「アトラ、服が似合ってるって。後プレゼントくれるってよ」
 アトラは笑顔になって礼を言う。
[クダさん、貴方は本当に美しい。美神のようです]
「褒められているのはわかるぜ、サンキュな」
 外交官は全員に等しく話しかけてくる。農水副大臣は食事についてと農法について根掘り葉掘り聞いてくる。俺はすぐに通訳と会話で手いっぱいになった。
[王子殿下は政争で敗れたと聞きましたが、どのような事が起こったのですか?]
[うむ、余の母上は第二妃なのだが、身分が低くてな。第三妃がちょうど身ごもり、第三妃は余の命を奪おうとした。そこを、ケントとクダに助けられたのだ。しかし、その後正妃が身ごもり、正妃暗殺の嫌疑を掛けられてな。複雑な陰謀の兼ね合いでわが母と第三妃は処刑され、余とアンティも殺される所をそこのトモヤに助けられたのだ。トモヤは世界一優秀な魔法使いなのだ。特殊呪文に限定されるがな]
[それはそれは。では、バーク様はもしかして……]
[第一王子だ。まあ、処刑しようとされるのも仕方あるまい。侍女上がりの第二妃がまさか国を継ぐわけにもいかぬからな]
[魔法使いという事は、何か魔法を使えるのですか?]
[色々できるぞ。移動の術、精神融合、神々の加護であるパラメーターを操る術を操る事が出来るのだ]
[パラメーター?]
[この国にはないのだったな、例えば料理にパラメーターを振ると格段に料理がうまくなり、美味しいご飯が作れるようになる。ケントはケンドーにパラメーターを振っていてな。竜にダメージを与えていたろう?]
[話は聞いています。神々から直接のご加護を得られるとは……にわかには信じられません。羨ましい話ですな]
[その代り、パラメーターが無いと何もできん。余は精神融合を使ったからか、パラメーターを使わずともこうして賢くいられるが、トモヤは努力しても努力しても何一つ報われなかったそうだ。パラメーターを魔術に振っていたから]
[ようするに、才能を自分で決められるという話ですな。どの程度与えられるのですか?]
[生まれてから二十年間の間に一万ポイント配られる。ただし、赤ちゃんの時に言葉習得やハイハイに使ってしまう者が多くてな、トモヤのパラメーター制御の術を使わないと何かを極めるのは不可能だ]
[いちまんぽいんとでつかえるじゅつ、おおいもんねー]
[振り直しが出来るのですか?]
[神であろうと、それは無理だろう。トモヤが出来るのは五歳までパラメーター振りを禁ずる事だけだ]
[扉を扱う術は?]
[異世界間は一万ポイントだ。それゆえ、今までもこれからも異世界移動を出来るのはトモヤ一人だけであろ。余も魔術師になりたいのだが、魔術にも色々あってな。どれに振るか悩みどころだ。何しろ、振り直しが出来ないのだからな。いっそ全てに均等振りするのもいいかと思ってる。振り方によってはボーナスも入るしな]
[政権を取り戻すおつもりはないのですか?]
[四歳に何を言っておる。大体、王子になれば賢さや政治や礼儀作法や陰謀にパラメーターを振らねばならないだろう。それが余は辛いのだ]
[パラメーターに頼らずとも、勉強すればいいではないですか]
[パラメーターを持つ者に無きものが勝つ事は出来ない。特に我らの世界の人間は、こちらの世界の人間が持つ才が無い]
[なるほど……。神と会話する事は出来るのですか?]
[クダが祈りのパラメーターを持っているから、クダが神と話す事は出来るぞ。神の気が向けばの話だがな]
[なるほど……キーは智也さんと王子殿下、クダさんというわけですね]
「トモヤ、部屋に帰ったら逃げましょう。アースザゲートは使えますか?」
「急にどうした、ブール―」
 ブール―に話しかけられ、農水省副大臣に押され危うく協力を申し出かねなかった俺は注意をブール―に向ける。
「襲撃を考えられています。保護下で安全が得られないなら逃げた方がいい。私達の観光は考えなくていいですから」
[わかった]
[え、襲われるのか?]
 王子―――――! 日本語で言っちゃ駄目だ!
[誰が襲うのですか?]
[ブール―は陰謀が使えるから、余はいかなる企みにも掛からぬのだ。ブール―に見えぬ隠し事など無い]
 王子が胸を張る。
[なんですって! それは素晴らしい能力だ]
[リチャードさん? どういう事ですか?]
[わ、私は何も知らないぞ。そちらの思い違いだろう]
[殿下、ご安心ください。日本は万全の警備態勢で臨みます]
[うむっそなた達はお菓子をいっぱいくれるから、余はもう少しここに滞在したいぞ]
 お菓子に釣られて、わかっててリークしたな、王子。
 これは気を引き締めて置かないと……。
[そうだ、智也さんの移動の術、見せて頂いてもいいですか?]
[MPがここじゃあ回復されないからな……。あれ、少し回復している。そうか、竜肉か。うーん……一回、位なら……ただ、俺は特殊呪文適正にパラメーターを全振りしていて、命中率は0だぞ。出る場所は完全ランダムになる。魔王の真ん前の可能性だってある。それでもいいなら、扉を開くけど]
[自衛隊の護衛を用意させます。今日の午後にしましょう。それと、現地人に会えた時の為に何が喜ばれるか教えてもらえますか?]
 問われて、俺は考えた。
[宝石や金は向こうでも喜ばれてる。工芸品の類は向こうの匠はパラメーター使ってて凄いから、原料の方が喜ばれるんじゃないかな。後、こっちの食べ物とか]
[わかりました。午後までに用意しておきます]
 それから、護衛を増やした後、食堂を貸し切りにして色々な事を聞かれた。
 おやつや昼食ももちろん出される。
 皆、話が上手くて、中々飽きない。やはり中でも魔物やパラメーター制度に興味を持ったようだった。それが一番の違いだもんな。
[ほほう、全パラメーターが一万で三千でプロフェッショナルですか。となると智也さんは全振りしているから、その道のスペシャリストというわけですな]
 俺は若干胸を張った。
[事実上世界一だ。けど、あんまりパラメーターの事を根ほり葉ほり聞くのはマナー違反だぞ。皆細かいパラメーターの値は隠したがるからな。その人を超えたければ教えられたポイントより一上昇させればいいだけだから]
[なるほど。クダさんはやはり美貌に?]
[そうだ。クダは上の下ってとこか]
[凄いですね。これよりも上がいるとは。しかし、勿体なくないですか? せっかくのパラメーターを美貌に振ってしまうのは]
[小さい頃にも容赦なくパラメーターは振られるからな。考えてみてくれ。十歳で将来の半分が決まるんだ。それに、俺の住んでた孤児院では可愛い子は褒められまくっていたし、美と礼儀作法を推奨して貴族に買い取ってもらってたからな。それは仕方ない]
[それは……人身売買では?]
[孤児がそう簡単に職を見つけられるほど世の中は楽じゃない。強制してたわけじゃないし、人は選んでくれていたよ。美にパラメーターを振らなかった俺にも、洗濯屋の手伝いって仕事を見つけてくれた。シスターには感謝してるよ]
[なるほど。さて、用意が出来たようです]
 外交官が連絡を受け、俺は広場へと向かった。
 自衛官と米兵が並び、物々しい雰囲気に包まれる。
 俺は呪文を唱えた。広がる魔法陣。
「――ゲートザゲート」
 俺が言葉を放つと、扉が現れ、開く。
 それは、一つの店の前だった。道行く人が驚いてこちらを見ている。
「これ……私がバイトしてたとこだ」
[料理店に繋がったみたいだ。ここからだと城も遠いし、何にも出来ないと思うけど]
[見た所店が立ち並んでいるようですね。買い物をして今日は良しとしましょう。智也さん、通訳をお願いします]
 俺は渋々と扉を通る。農水省副大臣は、まず果物屋に行って言った。
[ここの品を全部ください。この金貨で十分ですか?]
[全部!? ま、まあいいけど……。これだったら金貨三枚かな]
「すいません、ここの商品全部ください」
「全部!? 豪儀だねお兄ちゃん……ってトモヤじゃないか!」
「久しぶりだな。この人、他国人なんだ。全部が珍しいみたいで」
「はぁ……。バーク様は元気かい? いいのかい、こんな所にいて。商品だけど、全部売っちゃうとお得意様がねぇ。少し残させてもらうよ」
「わかった。代金はこれで。すぐ扉を通って帰るから問題ないよ。バーク様は元気にしてる」
 自衛官達と米兵は荷物をキビキビと扉へと運んでいく。
[これ、炎砂とかいう奴ですね。日用品売り場でしょうか? 全部買いで]
「ココノ品ヲ全部クダサイ。コノ金貨デ十分デスカ?」
あちらこちらで全部買いをしていく一行。俺の言葉を真似して、片言で交渉する人も出始めた。
荷物を運び終わると、最後に料理店へと行く。
「料理長っ久しぶり」
「おー! トモヤ! アトラ! 心配してたぞ、元気か!」
「外国の要人を連れて来たから、美味しい料理を御馳走してやってくれませんか。これが代金です」
「よしっ二人が無事だった祝いだ、パラメーター全開で作ってやるよ! 料理は何にする?」
「帝国料理を全種類、お願いします。俺にはハンバーガーを一つ」
「よし来た!」
[今、料理長がパラメーターを使って料理を作ってくれるそうです。どうぞ食べて下さい。俺は念の為扉の所に戻って扉を維持しているので、料理が出来たら持ってきて下さいね]
 待つ事二時間、俺はようやくハンバーガーにありついた。
 料理長の料理に、皆大満足したようで、テイクアウトでいっぱい料理を運び込んでいた。
 全員戻り、扉を閉めようとした時だった。
 最高司祭様が武官を引き連れて走ってきた。
「げ。早く扉を閉めないと……」
「お待ち下さい、マゼラン様! 王子と王女を助命します! ですから、どうかお力をお貸しください」
「俺の秘宝を手に入れたんだろう? スクロールはあるんだし、これ以上どうしろって言うんだ。一生を掛けて呪文を編み出した身としては、せめて解読くらいは自力でやって欲しいものだが」
「有能な若手の学者一人を使い潰して、解読はしました……」
 最高司祭は痛ましそうな顔で言う。使い潰すってなんだ。有効活用って言えよ。そんなに解読作業は無駄だっていうのかよ。俺の研究をなんだと思ってるんだ。
「けれど、駄目なのです。スクロールを使う為には該当する魔術適性が半分、もしくは他の魔術適性が一万ポイント無いとならないのです。更に、命中率が無ければいけません」
「三千五百ポイントから五千ポイントなら大したことないだろ。命中率なら、新パラメーターだから俺も調べた。俺の補助呪文を研究すれば命中率一時アップの呪文は出来るはずだし、距離が近ければなんの問題もなく使えるはずだ。アトラとアトルも、戦闘で回復呪文と補助呪文を外さなかったろ?」
 最高司祭様はため息をつく。
「貴方は何もわかっておられない」
 俺は、ムッとする。
「何をわかって無いというんだ」
「王国の歴史上、パラメーター四千越えの人間はいないのです。闇武官は剣術重視で育てられる。巫女は祈りのみが出来ればいいと言って育てられる。にも関わらず、少なくとも自己申告で四千越えだと言ってきた者はいません。皆、三千を超えたと自慢顔で言ってくるのですよ。ましてや、一つの魔術適性に数千も振るなど狂気の沙汰。そして、貴方の術は多くのポイントを使用する術ばかりだ。五歳までパラメーターを振る事を禁じる? そんなもの、殆ど意味がない! 五歳になってパラメーターが振れるようになったとたん、嬉々として様々な事にパラメーターを振るのが目に見えている」
 最高司祭は、一息吐く。
「全振りするなど、正しく狂人の所業。幼い頃から偏執的で、粘着質で、極端でなければならない。精神異常者でもなければ無理なのですよ! 何故貴方は、そこまで壊れていたのです!? どうやって育てられたというのです!? いえ、そのような事よりも。ぜひ、次世代の育成をして欲しいのです。貴方はブール―やケント、アトラやアトルといった人材にさえも、偏執的なまでの極振りをさせる事に成功した。孤児院は既に用意してあります、ぜひ!」
「放っといて下さい」
 俺は扉を閉めようとする。農水省副大臣が、それを止めた。
[智也さん、見た所相当の身分の方とお見受けしましたが、なんのお話です?]
[この国の最高司祭様です。宰相のようなものだと思ってくれて構いません。魔王退治に力を貸せとか何とか……貴方方には関係の無い話です]
[お貸ししましょう!]
[え?]
[魔王が生む魔物の間引きをお手伝いするので、この場で協定を結んで欲しいと言って下さい。おい君、正式文書を持ってこい]
「えーと……異世界の奴らが、魔王の産む魔物の間引きを手伝うって言ってる。魔物の肉目当てだと思う。一応、竜は倒せる力を持ってる」
「魔物の肉を? しかし、それほどの力を持つなら侵略行為をしないと何故言えます」
「俺しか行き来できないじゃん。命中率ないから、出る所もランダムだし。これで他国を支配するってのが無理だと思うけど。上手く扉が繋がったら手伝える時に手伝うって感じじゃないか?」
「それで、マゼラン様は……」
「俺は関係ない。……ケントとアトラは魔王を退治するって言ってるけど」
 最高司祭は、目を見開き、崩れ落ちた。
「驚きました……そうですね、マゼラン様は最初からご自分で無く弟子を向かわせるおつもりだったのですね。私はてっきり見捨てられているものかと……」
「いや、俺は別に……」
「わかりました、私の責任で条約を結びましょう」
「……まあいいか」
[あの、条約を結ぶそうです]
[それは良かった! こんな事もあろうかと、輸出入に関する細かい条約を用意してあります。約して下さい]
[待って下さい! 私達も条約を用意してあります]
[我がアメリカも用意してある、検討して欲しい]
 俺は条文を約し、最高司祭と農水省副大臣と外務省とアメリカ大使の調整をした。
[このバーク様を次の王にしてアメリカの役人を宰相にしろってのは最高司祭様に伝えるまでもなく没で]
[しかし……]
[没で]
 条約の内容は大体、売り買いと出入国、魔物と戦って、倒した魔物を持ち帰る事を許すというものだった。
 この功績により、後日農水省副大臣は英雄に祭り上げられる事になる。
 そして俺は、間引き作戦には結局の所俺が必要だと気付き、膝を折るのだった。


 その後、自衛官もアメリカ大使も、買い取った物を分け合って分類分けし、俺に用途を聞いて整理するのに忙しそうだった。
 俺は用途を全て説明した後は、SPを引き連れてホテル内の買い物へと繰り出した。
 クダ達は喜んでくれた。王子と王女はぬいぐるみを買ってもらい、ご満悦だ。
 その後、ニュースを見た。大変な事になっていた。
[調査団からキストラン帝国は美味かった! という報告が上がっていますが、どういう事でしょう、外務大臣と農水省副大臣、防衛大臣にお越しいただいてます]
[まず、異世界の神々とパラメーターについて説明せねばなりませんね]
 外務大臣が、キビキビと図解をしながらパラメーターについて説明していく。早速新たな神をお祭りする神社を作るという事だった。そして、話は農水省副大臣に移った。
[副大臣は直接異世界に乗り込んだとの事ですが]
[重要な日本の食料を手に入れる為ですからね。当然の事です]
[異世界はどうでしたか?]
[いや、言葉に出来ないほどの美味さでした。料理にパラメーターを極振りしたというコックの料理を食べましたが、あれはなるほど、神の加護が無ければ作れるはずがない。竜肉を持っていかなかったのは迂闊でした、あのコックならさぞ美味しい料理を作ってくれたでしょうに。魚料理がまた絶品でしてな]
 農水省副大臣は切々と食事の美味さについて語る。他にいう事はないのか。
[まあ、話を聞いていてもわからないでしょう。本日は特別に、買い取った果物と竜肉を持ってきてあります。切ってありますから、一つどうぞ]
 そしてラジュの実と竜肉が配られる。あれは高級な果実だ。瑞々しくて甘い果物。
[美味しい! 竜肉の濃い味の後に、果物のさっぱりとした甘みが最高ですね。こんな食べ物がいっぱいあるんですか!?]
[いっぱいありました]
[しかし、ただ一つ、魔物を狩りに行くに当たって問題が……]
 防衛省大臣が暗い顔で言う。
[何か問題が?]
[予算が無いのです。竜クラスの魔物が闊歩する場所となると、当然自衛隊以外にはできません。そして、自衛隊でもそれ相応の装備で無くてはなりません。しかも、智也さんが扉を魔力で開いている、ごく短い間に魔物を倒し、運び出さなくてはならないのです。それに必要な装備はいくつかピックアップしているのですが、どう考えても予算が足りなくて……]
[ある程度は農水省からも出します。それよりも問題は、扉がどこに開くかわからない事でしょう]
[問題は山積みのようですが、国交が開けるといいですね。では、次の話題です。世界中から、なんで竜を食べちゃったのという質問が来ています]
[食文化は国それぞれで違います。互いの伝統は尊重しあわねばなりません]
 竜を食うのは伝統じゃないだろ。俺は無駄と知りつつテレビに突っ込んだ。
[しかし、もう少し研究してからでも良かったのではないでしょうか。疑問は募ります。竜肉現場に繋ぎます。小酒井さーん]
[はーい、小酒井です。竜が倒れてから丸一日が経過しています。解剖学者の解体は順調に進んでいます。竜の肉は三分の一ほどが無くなったでしょうか。各地から人が訪れては竜肉を買っていっています。あ、料理人らしき人が大量に買ってトラックに積んでいますね。ではインタビューをしてみましょう]
[竜肉、すっごく美味しいです。信じられない!]
[異世界の人達ってこんな美味しいものを食べてるんですか?]
[国交が開いたら食べ歩きをしたいです]
[以上、現場からお送りしました]
 ……竜肉がおいしいって、教えない方が良かったのかな。
 俺はテレビを消して、天を仰いだ。明日は、美咲に会いに行く。
 その時俺は、全部をふっきる事が出来るだろうか。
 俺はベッドに入り、目を閉じた。


 今日は美咲を助けに行く日だ。
 不思議に心は落ち着いていた。
「……よし」
 身支度を整え、美咲を迎えに行く。テレビはつけない。
 アトラが、俺の手をそっと包んでくれた。
 クダまで少し、緊張しているようだった。
 王子と王女が俺の服の裾を両側からつかむ。
 ケントとブール―が両脇を固め、アトルが俺の後をついてくる。
[おはようございます。今日は美咲さんとの面会ですが……準備は、いいですか?]
 俺は頷き、車へと乗った。
 猛スピードで流れていく景色。かつて、俺は病院に行きたくないと思った。
 今はただ静かな気持ちだった。俺は美咲を超えに行く。大丈夫、俺は美咲より優れている。これが終われば、俺はこれからも歩いていける。
 長かった。ここまで来るのに二十年掛かった。
 アトラとアトルの笑顔。書物を読むブールー。木の棒を只管振るケント。殴ってくるクダ。布に包まれて眠っていた王子と王女。走馬灯のように過去は駆け廻る。
 当たり前だ。俺はマゼランをも終わらせに行くのだから。そして、俺はトモヤとして生きる。
 病院についた。病室は昨日の事のように覚えてる。俺は歩く。病室に向かって。
 病室の前につき、一つ息を吐いて扉を開ける。
 母と父が、待っていた。
[なんなの、貴方。智也の名前を名乗って、美咲に何をしようというの。美咲に触らないで! いいえ、智也は悪魔の子だったのよ。得体のしれない死に方……美咲に、私の美咲に何か悪い事をしようとしてたに違いないわ。もう放っておいてよ。美咲に触らないで! お願い、お願い……]
[お前、相手は美咲を救って下さると言ってるんだ。このままでも死ぬ確率は高いと先生が言ってる。任せてみよう]
 俺はぺこりと頭を下げる。王子がぎゅうっと服の裾を掴み、アトラが俺の手を強く握る。
 美咲の元へと、進む。美咲は更に痛々しい格好になっていた。
 機械に繋がれ、点滴をいくつも打たれ、人工呼吸器をつけている。
「じゃあ……」
「いい、アトル。俺がこの手で癒したいんだ」
 そして俺は医師に告げた。
[あの、機械を全部取り外して下さい]
「しかし……」
「大丈夫です」
 医師は、戸惑いながらも一つずつ機械を、点滴を外していく。
 その間、俺は荷物の中からマジックポーションを取り出し、一息に飲んだ。
 湧き上がる、魔力。
 俺は癒しのスクロールを取り出す。
「――ラグルピース」
 美咲の周囲に魔法陣が光る。
「美咲!」
 母さんが叫んだ。
 光が美咲を包み、美咲は目を見開いた。当たり前だ、俺の呪文に不備はない。
 美咲は俺を見て、一切の躊躇なく言う。
「トモヤ……ううん、マゼラン……長い、長い夢を見ていたよ……」
「ああ」
 母さんが、後ろで美咲、と声を上げた。美咲に駆け寄ろうとして、ケントに取り押さえられる。俺と美咲の邂逅を邪魔する者は誰もいない。
「ふふ……トモヤ、自信と呪文を取り戻したんだね……。おめでとう……」
「ああ」
 俺は、差し出された美咲の手を握った。
「これで、俺とおまえは対等だ」
 勝利宣言をする予定だったのだが、口から飛び出したのは違う言葉だった。
 アトラとクダが、俺の横に寄り添う。
「トモヤ、良かったね……ようやく、会えたんだね……」
「トモヤ、この人が勇者様か? 俺が憧れていた……」
 二人が、俺に囁いた。
「……その人達は?」
 美咲が、静かな声で聞く。若干のトーンの変化。それを感じた王子と王女は、正しく行動した。
 王子はアトラにくっつき、王女はクダにくっつく。俺の裾も握ったままだ。
 そうして、二人は叫んだ。
[[ママ―、おばさんのお怪我治ったよー]]
[そう……トモヤそっくりの黒髪とその金髪の女の子にそっくりの緑の眼……そちらのトモヤそっくりの黒眼とそこの綺麗な銀髪の女の子にそっくりの銀髪の子は……トモヤの子なの……?]
[ち、違うんだ美咲。この子達の悪戯だ。ほら、クダは男だろう?]
[魔法ってすっごいね、ね、パパ!]
「そう……ふふ……そう……ふーん……」
 俺はじりじりと後ずさりする。空気を読まず、アトラとクダは王子と王女を出してそれぞれ俺の耳元に囁いた。
「紹介してくれる? トモヤ」
「紹介してくれよ、トモヤ」
「なんの紹介かしら。いつの間に向こうでは一夫多妻制になったの?」
 美咲が起き上って、淀みない向こうの言葉で話す。
「マゼランの……マゼランの……マゼランの……」
 美咲が、絞り出すような声で言う。
「浮気者―――――――――――――――――――――!!」
 美咲が思い切り振りぬいた足は、俺の大事な所を直撃した。
 アトルが慌てて回復呪文を使う。アトラが俺を問い詰める。クダが悲鳴を上げる。
 美咲が般若の形相で俺の胸ぐらを掴む。
 ブール―がため息をつき、ケントが動揺し、王子王女がパチパチと拍手をする。
 政府の人達は回復呪文について問い詰めてくる。
 俺の中のマゼランは美咲に言い訳を繰り返し、俺は痛みに悶絶する。
 キュロスの笑い声がどこからか聞こえ、俺は心の中でキュロスを殴った。

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