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宴の終わり

「そっか……。じゃあ、魔力暴走は最初から皆受け入れてくれたんだ」
「はい、村の人には暴走見られて怯えられた時ありましたけど、知り合いは全然。凄いって褒めてもらえた事ありましたし」

 ロビーやハヤトの武器の事を隠して、出来うる限りの事を話しおえた風太は、疲れたのか懐から飴を出して舐めた。ラキにも一つ分けると、ラキはそれをころころと口で転がし、呟いた。

「ラキ、愛されてないのかなぁ……」
「普通だと思います。僕が、僕にあったらやっぱり化け物って怖がると思いますし」
「風太さん、いいなぁ…」

 風太は、じっとラキを見つめる。

「良かったら、ラキさんも魔力暴走を抑えたり力を逸らす練習をしますか?妖魔と人だと勝手が違うのかもしれませんけど……僕は、タケル師匠に出会って魔力暴走を別の形にする事を覚えました。ディーンは、この力で魔物を追い払うと喜んでくれます」

 ラキは風太の案を聞いて笑った。

「ふふ。それをするのが、魔術なんだよ」
「あ…そうか…」
「ねぇ、術の教えあいっこしない?私、受け入れてもらえるように、頑張ってみる。風太さんのお話聞いてて、やっぱり私は魔力過多も含めて私なんだ、って思うし。風太さんが妖魔の本能を抑えられたなら、私だって魔力暴走を抑えてみせる」
「いいですね。魔術は僕も興味深く思っています」

 二人は手を取り合って走る。ラキは、笑顔を取り戻していた。






「ハヤト師匠、師匠の番です」
 
 ディーンはハヤト師匠に手を伸ばす。その手を取って、ハヤトはゆっくりと段を上った。
 ディーンたちが着ていた派手な服を、ハヤトは着ていない。
 どこにでもいる、中年の叔父さんという風情だった。

「さて、まずは鳩でも出そうかな」

 ディーンに渡された帽子を無造作に一旦被り、その後帽子を取って深々と礼をする。
 もう一度帽子を被り、ハヤトはゆったりとした口調で言う。

「では、私が帽子を振った時に鳩が出れば拍手を!」

 ハヤトは帽子を取って、勢い良く振る。帽子から鳩は出ない。
代わりに、ちょこんとハヤトの頭の上に鳩が乗っていた。会場がどよめく。

「おや?出ない?」

 ハヤトは帽子を振ったり覗いてみたりしてから、言った。

「失礼しました。ではもう一度!」

 また、一旦帽子を被ってその帽子を取り、勢い良く振る。
ハヤトの頭の上の鳩は2段になって誇らしげに羽を広げていた。
この段階になって、ハヤトがわざとしているのだとわかり、笑いが起こった。

「失礼しました。ではもう一度!」

 ハヤトは同じ動作を繰り返す。鳩は3段になっていた。

「あれ!?帽子が被れない!」

 3段になった鳩が突っかかってきちんと被れないらしい。
無理やりハヤトが帽子を被ると、帽子の天辺から鳩が旗の連なった糸を持って飛んでいった。

「帽子は調子が悪いようですな。お詫びにいきなり難易度が高い手品行ってみようか」

 ディーンが台の上に載った細長い大きな箱を持ってくると、ハヤトはタケルに言った。

「お前入れ」
「ええ!?」

 タケルは驚くが、ディーンの期待の眼差しに負けて箱に入る。

「さて!今から鋸でこの箱を切断し、見事元に戻して見せましょう!じゃあディーン、切れ!」
「はい、師匠!この切り目の所ですね?えいっ」

 うつ伏せになって、箱から首と足だけ出ている状態のタケルが、悲鳴をあげ始めた。

「ぐ!?痛い!痛いですよハヤト!これ本当に切ってぐはぁ」
「なんか手ごたえあるぜ!?大丈夫!?大丈夫なのかこれ!!?」
「大丈夫大丈夫、わしを信じろディーン!」

 箱からはなにやら赤いものが溢れていく。切断が終わると、ハヤトは箱を放し、中央から二つの箱の切断面を見て…

「しまった。失敗。わしを信じなくていいよディーン」
「わーーーーーーー!?タケル師匠ーーーー!???」
「とりあえず中身公開ー」

 箱の切断面を向けると、血まみれの内臓が見えた。
ざわめきが頂点に達しつつあった会場が阿鼻叫喚に陥る。

「タケル師匠が、タケル師匠が!?」

 泣き出したディーンの肩を叩いて、ハヤトは言った。

「大丈夫!のりでくっつけておけばなおる!」

 ハヤトはやけにでっかいのりと書かれた瓶から刷毛を取り出し、ぺたぺたと切断面に張ってくっつけた。

「よし、これで問題なし!無事手品終了!皆さん拍手を!!」

 すると、タケルがゆっくりと箱から起き上がる。

「ハーヤートー……」
「うわ、蘇った!?」
「死ね!」

 ハヤトがタケルの振り下ろした刀を両手で受け止めると、刀の先が花へと変わる。
舞台をハヤトが逃げ回り、躓くたびに小さな手品をしていく。
最後にディーンを引っ張り、ハヤトは言った。

「それでは私はこれにて失礼。締めは弟子に任せたぁ!」

 あるものは箱の中から、あるものは観客席から、あるものは床から、舞台の端々から、出演していた手品師が登場する。
飛び立つ鳩の群れ、散じる紙ふぶき、術で出した虹に飾り立てられ、手品師達はうやうやしく礼をした。
最後に、もう一度名前を名乗って思い思いの方法で舞台を降りていく。
盛況に終わった舞台裏では、タケルが本気でハヤトを揺さぶっていた。

「恥ずかしかったじゃないですか、だから嫌だって言ったのに」
「ワシだって恥ずかしかったわ!ワシプロじゃないし!お前も道連れだ!」
「でも、凄かったぜハヤト師匠。魔法陣すら飛んでこなかったし」

 ディーンが褒めると、ハヤトは笑った。

「真に迫ってただろう、あの作り物は。トリックは簡単だがな」

 もちろん、本当にタケルの体を切断したわけではない。
あの箱の底が開いていて、足を箱の下の台の中に入れられるようになっていたのだ。
箱から出ていた足は箱の中に入っていた人形の足だった。

「いや、盛況でしたな」

 ザイルが、タケルの腰の辺りをちらちらと見ながら歩いてくる。

「触ってみますか」

 タケルは、内臓の作り物の入った箱を押し出した。

「おお、トリックはこれか。これは…見事な……」

 ザイルはそれに触れてため息をついた。

「私はハヤトに一生勝てそうも無いな」

 技術だけの話ではなかった。この一回の手品の為に、これだけの手間をかける。
その無駄にかける情熱こそを、ザイルは羨んだ。

「ワシには魔力をどうこうする道具は作れんよ」

 ハヤトはきっぱりと言う。自らに誇りを持てと、叱咤された気がしてザイルは苦笑して頷いた。誇り。情熱。それがザイルに足りない事はもうずっと昔からわかっていた。だが、頭で理解したからといって、手に入れられるかどうかは別の問題だ。
今、ようやく手に入れた火種を大切に心の中にしまう。
ザイルも魔術師だ。魔術師ですらないハヤトに、負けたままでいるわけにはいかない。

「ディーン先生、トリック見せてよ!」

 手品をしている者の中で一番若い少年が、駆けてきた。
ハヤトも手品師達も、練習時間をずらしていた為、互いの手品を見たのはこのショーが初めてだったのだ。
それに、ハヤトがやったものと似たものはディーンのノートにあったが、大分差異があった。
元となるトリックに予想はつくが、調べておきたいところだろう。

「おお、テリー。良かったな。一番乗りの人にハヤト師匠が全部あげるって」

 ディーンが言うと、テリーの後ろからゆったりと歩いていた手品師達が走った。
ミシェルが細長い箱に覆いかぶさる。ディーンの驚いた顔を見て、ミシェルは恥ずかしげに笑った。

「鳩とったー!」

 手品師の一人、ガストンが鳩を掲げる。テリーはがっくりした顔でタケルの花を仕込んだ刀を拾った。

「ディーン、ワシはもう休むから、皆と後片付けが終わったら食事にでも行っておいで。
学院の案内は明日でいいから」
「ハヤト師匠、疲れた?」

 心配そうにディーンが言うと、ハヤトは笑った。

「もう年だからな。心配するな、まだ時間はある」
「うん……」
「今日の夜は久々に本を読んでくれないか?ディーンの教科書の内容が知りたいしな」
「約束だからな、ハヤト師匠!」

 ディーンは念押しして、後片付けに向かう。
タケルはそれを見守った。

「ディーン、もう一人前でしたね。夢の半分は、既に立派に叶えているようです」
「もう半分の夢なんぞいらんわ。魔物退治の旅など……危険すぎる」
「最近は、ハヤトの病気を治すというのも夢に入っているようですよ」
「ディーンは出来た子だからな」

 二人は眩しげにディーンを見つめる。立派な手品師として活躍していたのをみて、
親代わりの二人としては感無量だった。
ザイルは静かに下がった。今の二人には、話しかけてはいけない気がした。
ディーンは魔術師としては卵だが、手品師としてはとうに飛び立っていたのだ。
ザイルも教師として、ハヤトとタケルの気持ちはわかるつもりだった。



その晩、一行はハヤトの寝室に集まっていた。

「「風よ…我が祈りに答えて吹け!」」
「おおー」
「凄いですよ、ディーン、風太」

 ハヤトとタケルは二人の勇姿に拍手をする。

「あー、やっぱり風太の方が紙ふぶき良く飛んでる…」

 はしゃぐ風太、がっくりするディーン。
ハヤトはお茶を啜ると、教科書をめくった。

「しかし、不思議だな。魔術と言うものは」
「私やハヤトがやっても全く発動しないんですけどね」

 タケルが、ディーンがやったように魔法陣を指で描く。
しかし、空中から魔法陣が浮き上がるような事はない。

「移動の術は見たが、他にどんな事ができるんだ?これは初級なんだろう」
「色々できるぜ!調査とか、攻撃とか…治療とか」
「攻撃呪文とか見たいな。どの程度まで出来るんだ?」

 ハヤトは興味深げに言った。

「それは、一定以上強力な術は極秘扱いだから、一概にどの程度とまでは言えないけど…魔術の披露として師匠の病気の治療ぐらいだったらいいって」
「そうか。極秘か……とすると戦争にも使えるのかな」

 ディーンは、ハヤトの方に徐々に擦り寄る。

「うん、もちろん戦争にも使うけど、医療系でもすっごく役立ってるぜ」
「そうかー。さぞ凄いんだろうなー。見たいなー」

 極力ディーンの方向を見ないようにして、ハヤトは言い募る。

「治療の術なら見せてくれるって」

 ディーンは更に擦り寄って、がしっとハヤトの腕を掴む。

「嫌だ!ワシは医者になんか掛からんぞ!痛いの痛いのとんでゆけぐらいだったらまだしも、下手に効果ありそうだから余計怖いわ!」
「まあまあいいじゃないですか。どうせ老い先短いんですから試せるものは試してみても」

 タケルはディーンに味方する。

「タケル!?お前もみたろう、こちらの医療を!医療ってレベルじゃないぞ!
なんか呪術っぽいし!傷を縫う時にもショウドクどころか洗ってすらいないし!
あれはあきらかに紐医者のレベルだ!掛かったら確実に死ぬ!」
「でも、薬草の本を見て素晴らしいって言いましたよね?」

 風太もディーンと反対側のハヤトの腕を掴んだ。

「いーやーだー!ワシは安らかな最後を迎えたいんだ!」

 そこで、きいっとドアが開く。ディーンの顔は一気に青ざめた。

「ディーンの師の体調が悪いと聞いて診に来たんだが……」

 そこには、青筋を立てた治癒学の教授、オーギュストがいた。

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