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再び七ツ釜へ

2月17日に行われた番組収録が無事終わり、明くる2月18日はオフとなった幽鬼はオカルト研究家の仲間達を集めて、幽鬼がYouTubeやTikTok、ニコニコ動画で動画を生配信している幽鬼の怪談日和の撮影を行うことにした。

幽鬼と共に東京で放映されていた心霊番組で共にレギュラーを務めていた心霊現象研究家の鬼塚彰をはじめ、都市伝説研究家の五月雨緑、超常現象研究家の吉井竜之進とともに七ツ釜へと向かう。

「久しぶりだな、このメンバーが集まるのは、何だか関東ローカルで深夜の時間帯に放映されていたにも関わらず伝説的な視聴率20%越えを叩き出した心霊検証バラエティーの”閲覧注意~絶対に行ってはならない~”を思い出させられるなあ。」

幽鬼が運転するMINIのクロスオーバーの車中で鬼塚が語り始めた。

鬼塚の思い出話を聞いて、たまらず吉井が「あの番組では色んなことをやらされたからなあ。UFOを目撃したから見に行ってこい!ってプロデューサーから言われて一日ひたすらUFOが現れるまでをじっと待つ仕事もあったり、あるいはツチノコが出たかもしれないという投稿があって真偽を確かめるために行ってこいって行った結果ヒルに噛まれ続けて大変な目に遇ったこともありましたからね。あの番組程、我々出演する側が体当たりして実践する番組なんてないですよ。おまけに危険な目に遇うかもしれないと分かっていることであってもスタント無しですからね。」と語った。

2人の話を笑いながら聞く五月雨。

「五月雨は都市伝説の研究家として、犬鳴村や杉沢村の伝説が真実なのかということをやっていたぐらいじゃあ、俺たちの苦労はわからないよな。」

吉井が五月雨に話しかけると、五月雨は「わたしだって、大変なことは勿論あったわよ。特に、犬鳴村の存在を実証するために、あのトンネルの前に積み上げられたコンクリートブロックを掴んで、ロッククライミングの要領で登って入ってこいって言われたときは正気の沙汰じゃないと思ったけどでも与えられた仕事だからと思って目の前に積まれたブロックを必死になって掴んで上って、足元は懐中電灯を照らしながら入っていったのを今でも覚えているわ。」と話し出した。

五月雨の苦労話を聞いた幽鬼は「旧犬鳴隧道のあのコンクリートブロックが積み上げられているのには訳があるんだよ。トンネルの老朽化も理由の一つとしてはあるが、もう一つ理由がある。西口彰による連続殺人事件の被害者が仲哀峠に差し掛かる旧仲哀隧道の付近で殺されてから有名になった旧仲哀隧道と全く理由が同じだ。旧仲哀隧道も老朽化を理由にガードレールやフェンスで封鎖されているが、そのほかにあるのが怖いもの見たさで不良どもが集まって騒音やゴミ問題などで悪さをすることでも知られていて、その関係で近隣住民からのクレーム等を無視できないと判断した行政が動いたって形だね。地元の人でも、心霊現象が知られているから近づくのは怖いのではなく、不良たちが集う場所として有名な場所だから、絡まれたくないので近付きたくないが正解なのさ。まあそんな場所でもあるんで、犬鳴村に関しては信じる人には申し訳ないが、佐賀県民としては存在しないと断じて言える。」

幽鬼の解説を聞いた鬼塚は「お酒が一滴も飲めない九州男児がお届けしました。あっそういえば山口県と佐賀県のハーフだったな。九州男児じゃないな!」と嫌味を言うと、幽鬼はたまらず「間に福岡があるだけで、俺みたいな人は佐賀県や山口県に一体どれだけいると思っているんだよ!」とすかさず突っ込んだ。

車内が大いに盛り上がる中、幽鬼が運転するクロスオーバーは七ツ釜の駐車場に到着した。

「ここが七ツ釜だ。さっそくカメラや音響マイクといった撮影用の機材、それから三脚等も用意してきたから、早速幽鬼の怪談日和をYouTubeやTikTok、ニコニコ動画でライブ配信するための準備に取り掛かろう。」

幽鬼が話すと、車の後ろに積んでいた機材を取り始めた。

「俺はカメラマンになってカメラの撮影をするから、鬼塚はマイクを、吉井は三脚を持って移動してほしい。」

幽鬼の指示に対して、鬼塚と吉井は「わかったよ。」といって、マイクと三脚をそれぞれ持って七ツ釜園地へと歩き始めた。五月雨から「わたしは何もしなくていいの?」と聞かれた幽鬼は「いや、あとは俺たちで何とかするから大丈夫だよ。五月雨さんにはリポーターをしてほしい。それぐらいだね。」と語ると、五月雨は「わかったよ。」と返事をした後、幽鬼と並ぶような形で歩き始めた。

幽鬼があまりにも大きな旅行バッグを持っているのが気がかりになった五月雨が「どれか一つ持とうか?」と気遣うも、幽鬼は「いいよ。女性が持てるようなものじゃない。中にはスキューバダイビングが出来るウェットスーツとゴーグルが入っている。重たいものは持たせたくない。」と話すと、五月雨が思わず「案外レディーファーストなのね、幽鬼君は。そんな正確ならすぐにでも結婚相手なんて見つかりそうなのにどうして結婚しないの?」と聞かれると幽鬼は答えた。

「この仕事上、祟られたり、或いは取り憑かれて自分が自分じゃなくなりそうになった時だってしばしあるんだ。これは体験した人じゃないと分からない話でもあるが、色んな人が思う日常の当たり前というのは、いかに有難いものなのか、この世に怨みの念を抱きながらお亡くなりになられた御霊と多く接触してきただけに、俺は結婚相手にそんな自分の姿なんか見せられたくない。」

幽鬼がそう語ると、五月雨はこう答えた。

「結婚はいつかはしたほうがいいわよ。わたしは今の旦那と結婚をして損したと思うこともあるけど、でも弱みなんてものはいつかは一緒にいればいるほどお互いぼろが出てしまいやすいものよ。所詮は他人同士だからね。戸籍上で家族になっただけだから、あとはどこまでお互いを妥協し合えるかに限るわね。」

五月雨の話を聞いた幽鬼は「そうだね。その通りだよ。俺も真剣に考えないといけないなあ。」と話し出した。

そして、鬼塚と吉井が先に乙姫大明神の像の前まで辿り着くと、遅れて幽鬼と五月雨が到着した。

「ここが望月樹、最期の地か。」

吉井が語りだすと早速持ってきたデジタルの一眼レフカメラで周囲を何枚も撮影し始めた。「Amebaブログの”竜之進の超常現象記録”に是非とも樹の都市伝説が真実なのか、超常現象研究家として暴き出したい。」

無我夢中になって写真を撮り続ける姿を見た幽鬼は吉井に「待ってよ。今日は俺の番組の撮影に手伝ってくれたんじゃなかったのか?」と聞き出すと、吉井は「それももちろんあるが、やはりAmebaブログで日々綴っている自分の研究議題でもあるから検証をしないまま帰るわけにはいかない。」と熱弁をすると、鬼塚は静かに海辺を眺めて霊視をし始めた。

黙々と黙り込んで、ときたま御経のようなことを呟き始めた鬼塚が、幽鬼に話し始めた。

「俺が霊視をした結果、この地には数多の自殺者の霊が取り囲んでいることが分かった。海は特に覗き込まないほうがいい。夥しい数の、無数の手が誘い込むようにして我々命あるものをおびき寄せている。中には、相当な、強い負のパワーを感じるものがあった。それがひょっとすると樹なのかもしれない。」

鬼塚がそう話すと、幽鬼は「樹のオーラを感じるというのか?もし感じたのなら、その地をカメラで撮影してほしい!」といってカメラを渡すと、鬼塚からある指摘を受けた。

「幽鬼。悪いことは言わないが、樹にそんなことをしたら刺激をするだけでかえって祟られたりする可能性が高い。そっとしておいたほうがいい。」と話すと幽鬼は「それじゃあ樹の都市伝説の真偽の否かが問われないじゃないか!」と勢いよく話すと、鬼塚は理由を話し始めた。

「よく殺人現場なんかで、霊が集まりやすいという話は聞いたことはあるか?人がいざ死ぬ前だったり、あるいは死んだときというのは、魂はその人の肉体から離れ昇天をして行くんだけど、殺されたときはその殺された人の魂に寄り添うようにして霊が集まってきやすいんだ。悲しみに同情して、呼び寄せてしまいやすいんだ。樹にも同じ要素を感じざるを得ない。樹がこの地で自殺を図ったのは間違いない。七ツ釜を選んだのには理由があるようだ。」

鬼塚が話すと、持ち前の透視能力で透視し始めた。

じっと動かぬまま、海を見ながら小声でぼそぼそとつぶやき始めた。

「望月樹さん、教えてください。あなたは、今僕に何かを伝えようとしていますよね。僕たちにしか出来ないことがあれば、伝えてほしい。あなたの力になってあげたいです。」

鬼塚がそう話すと、その場にいた吉井や五月雨、そして幽鬼が思わず、急に寒気に襲われると、何かの気配を感じてしまった。

「何か、いるのか。海風しか吹いてこないはずなのに、冷蔵庫の中にいるような空気が、超常現象研究家として説明しがたい出来事が起きている。」

吉井が説明すると、やがて辺りは不気味な物音に襲われた。

「ズル、ズル、ズル、ズル・・・・。」
濡れた何かが岩を這い上がってくるような音が聞こえてきたと同時に、鬼塚の前にいてはならぬものが立っていた。

五月雨が思わず悲鳴を上げそうになった。

たまらず吉井が「見るな!」と言って五月雨の前まで来て庇うと、幽鬼はこの目ではっきりと見てしまった。

「海岸沿いの岩にぶつけたのだろうか、顔面を激しく損傷して左の半分が陥没している何者かががそこにいる。」

幽鬼がそう思うと、鬼塚がたまらずその御霊に話をし始める。

鬼塚が粘り強く話をしてくれたおかげで、襲われずに済んだ。

鬼塚が幽鬼たちの前に現れるとあることを説明した。

「幽鬼、そういえば今日はウェットスーツとゴーグルを持って来ていたよな?」

鬼塚がそう話すと、「ああ3着分のウェットスーツとゴーグルは持ってきたよ。」と話すと、鬼塚は続けて指示を出した。「ダイビング経験があり、かつ潜水士の資格を持つ俺と幽鬼、吉井の3人で七ツ釜の洞窟を探ろう。樹は訴えている。”僕の亡骸はまだこの地で眠り続けている。亡骸には秘密が隠されている。公にして僕が受けるべき裁きを受けるように世に広めてほしい。”と言っている。」

その言葉を聞いた五月雨は耳を疑った。

「どうして犯罪者の家族なのに、受けるべき裁きを受ける?」

五月雨の質問には、鬼塚が冷静に答えた。

「恐らくだが、兄の裕の事件は無理心中じゃなかったかもしれない。同年7月23日に発生した戦友でありまた親友の染澤潤一郎の無理心中事件を受けショックを隠し切れなかった裕が潤一郎につられるようにして凶行に走ったであろうというのは、後の幽幽というYouTuberがアップロードをした動画にあった”自滅の瞬間”や”望月の最期”の動画の内容を改めて見てみる必要がある。」と語りだすと、幽鬼が用意してきたウェットスーツを手に取り、松林へと姿を消した。

幽鬼と吉井は鬼塚に続けて松林のほうへと向かっていくと同時に、取り残される形となった五月雨に「何かあったときのことを考え、カメラだけはずっと撮り続けてほしい。俺たちは、鬼塚の透視をもとに樹の亡骸を探してくる。」と話すと、五月雨は先程見てしまった恐怖を振り返り、「嫌!ここに一人だけいろっていうのは怖い!」といって納得しなかったが、吉井は「都市伝説研究家が樹ごときで怖がっていたら仕事にならないだろ!」と一喝すると、その言葉に後押しされたのかふと我に返った五月雨は「わかった。検証すべきことをこちらでも行う。」といって3人が釣り場となっているスポットへと降りてくると同時に海へ潜り始めた。

その間に五月雨は可能な限り、予め持参してきたポラロイドカメラを手に気になったところがあれば撮影をするのと同時に幽鬼から渡されたカメラで撮影をし始めた。

そして海へ潜り始めた鬼塚、幽鬼、吉井の3人は鬼塚の後を追うようについていく。

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