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第9話

 楽しい時間というのは、本当にスグに過ぎてしまう。
 なんとなく部屋が暗くなってきたなぁって思ったら、もう夕飯の支度をする時間だ。
 ボクはシュウイチに慌ててお別れを言って、階段を駆け降りた。
 今日はパパに「黙って息子のフィアンセとコッソリ逢っていた」事についてゲンキュウしなきゃいけないんだから、パパより出遅れてはマズイのだ。
 そういう時に限って早くに帰ってきてたりするから、アブナイって思ったんだけど。
 家に駆け込むと、中はシンと静まりかえっていて、パパはまだ帰っていなかった。
 ああ、良かった!
 ウチのパパと来たら、イザとなると大人のズルさをイカンなく発揮して、ボクの真剣な質問にさえ答えなくなる。
 もしも自分が帰ってきた時にゴハンの支度がして無くて、しかもそれがボクが外で遊んでいて遅くなったから…なんて理由だったら、100年先まで続きそうなお説教の嵐になってしまう。
 そりゃあ確かに、ギムを果たさなきゃケンリはシュチョウ出来ない…ってルールは解るけど。
 時々、パパのいってる事の方がリフジンだと思うのって、そんなにボクがワガママなのかなぁ?
 冷蔵庫の中を漁って、昨日の残り物をテーブルに並べる。
 新しいおかずが無いとパパはブウブウ言うから、冷凍庫にあったお魚を焼いておこう。
 夕食の支度を簡単に済ませてから、ボクは今度自分の部屋に駆け込んだ。
 先刻シュウイチの所にプレステを持っていこうとして、部屋の中をグチャグチャにしておいたのを思い出したからだ。
 コードの類を引っこ抜くのに結構乱暴にしちゃったから、絡んでいた別のコードが転げ出ていて足元がアブナイ。
 パパは自分が片付け嫌いのクセに、ボクが部屋を散らかしているとイロイロ言ってくるのだ。
 しかも、寄りに寄って散らかっている時に限って部屋に来るんだもの。
 コードをまとめてテレビの裏側に押し込んで、カバンの中身を取りだして明日の用意をする。
 せっかくやった宿題を忘れていったりしたら、つまらないモンね。
 時間割を照らし合わせて、教科書をカバンに詰め込んで。
 そうだ、お風呂を沸かしておかなくちゃ。
 ゴハンを食べて、ちょっとテレビを見て。
 お風呂に入って部屋に戻っても、パパはまだ帰ってこない。
 今日はずいぶん遅いなぁ…。
 普段ならテレビが一番良いところで帰ってきて、イロイロうるさくされて話がワケ分かんなくなっちゃったりするんだけど、今日はそれがない。
 そーいう事がないのは、ものすごく嬉しいんだけど。
 でも、ないはないで、なんてゆーのか拍子抜けしちゃうよ。
 またいつもの「トクベツザンギョウ」してるのかな…?
 パパが言うところの「ザンギョウ」ってのをしてくると、いつもその日はお酒臭いし、一歩まかり間違うと「せっくすふれんど」を連れて帰ってくる。
 ボクが寝てしまった後に友達を連れて帰ってくるのは良いけど、起きている時間に帰ってこられるとオンナノヒトの面倒までボクが見なくちゃならなくなるから、もう「ただメーワク」なんだよなぁ。
 今日はプレステをシュウイチに貸してしまったから、ドラクエは出来ないし。
 仕方がないからカバンに入っているゲームボーイを取りだして電源を入れたけど、出遅れのボクのパーティはますますみんなに遅れを取ってしまうなぁ…と思った。
 でも、みんなに遅れてしまっても、シュウイチとゲームを進める方が全然楽しい。
 あ、そうだ。
 明日はあのゲームだけじゃなくて、他のも持っていってあげよう。
 昼間ボクの居ない間に遊ぶのに、もっとシュウイチが面白いって思うヤツの方がイイモンね。
 明日帰ってきた時に、ウチに寄ってスグに持って行けるように、ゲームを選んでおこう。
 それにしても、やっぱりパパが遅くなる時は、連絡を貰えるようにした方がイイかもしれない。
 だって、こんなに遅いなら、あんなに慌てて帰ってくる必要なかったよ。
 パパがウチでゴハンを食べる必要がないなら、ボクはわざわざ帰ってくるコトなかったんだ。
 シュウイチはいつだって、ボクに一緒にゴハンを食べて行かないか? って言ってくれる。
 ボクが家で一人でゴハンを食べているって知ったら、「俺も一人でメシにするから、それなら一人同士で一緒に食ってかねェ?」って言うんだ。
 ホントはスッゴクそのお誘いに応じたい…。
 と言うか、アレって絶対シュウイチが寂しいんだよ。
 今日パパが帰ってきたら、その事もちゃんと話さなくっちゃ。
 ああ、それにしても、ホンットに遅い!
 いつもなら少々遅くても別に構わないんだけど、今日はパパと話をしなくちゃって思っているから、先に寝ちゃうワケにもいかないんだよな。

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