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第48話 お披露目パーティー

 先代聖女マナや先々代聖女ヌミアやその夫エニスも殺したあの人が処刑された後、ウリッツァは今代聖女ヴィーシニャに告白され、それを承諾し、めでたく正式に付き合うことになった。
 モンス島で冬と一年がもうすぐ終わる今日は、そのお披露目パーティーだ。
 ウリッツァとヴィーシニャは、二人で花やご馳走が載っていた長テーブルの後ろの椅子二つに一人ずつ座っている。
 ウリッツァやヴィーシニャの視線の先には、いち日常警護班で一つのテーブルが二つずつ、三列計六つ――うち一テーブルは聖女親衛隊上層部の代表数名が使っている――ある。

「いやー、すごいなウリッツァ」
「あ、お前は確か……タケシだっけ? プリストラの新しいルームメイトっていう――」
 ウリッツァに話しかけてきたのは、ドン班の後釜たる新班の班長タケシ・ヤギ。
 そうマギヤが見て取れたのは、ウリッツァ班-ウリッツァの三人がいるテーブルがヴィーシニャの一番近くかつ、マギヤの席の位置がプリストラを頂点にしたトライアングルの通路側だからだ。

 ウリッツァとタケシとの会話を聞いてか否か、ため息をつくマギヤに、プリストラが、こう尋ねる。
「どうしたの、マギヤ? ヴィーシニャを取られて悔しい……のは、この会場で僕ぐらいのはずだけど、実はマギヤもなの?」
「いえ……あの人の処刑人になれなかったという今年唯一の心残りについて考えていました」
「は、はあ……立候補とか、なかったの?」
 そう、やや恐る恐るマギヤに尋ねたのはトロイノイ。
「してはみたのですが、『関係者はダメ』と言われてしまいまして……これまであの人を両親と同じ目にあわせるために頑張ってきたというのに」
 プリストラとトロイノイは『両親と同じ目』(強姦殺人)について想像し、微妙に苦々しい顔をする。
 マギヤはそんな二人に構うことなくウリッツァを見つめていた。


 お披露目パーティーが終わったその夜、ウリッツァとマギヤは、それぞれのベッドで寝転んでこう言葉を交わす。
「……ウリッツァ、今、幸せですか?」
「え? いや、オレはただヴィーシニャが『恋人になって』って言うから引き受けただけで……よくわかんねえや……ヴィーシニャのことを好きか嫌いかで言えば、好き、なんだけど……」
「……そうですか……おやすみなさい、ウリッツァ」
 「ああ、おやすみ」と言ってウリッツァは十数える間に眠ったが、マギヤの目は開いたままだ。

 ウリッツァ、マギヤがそう心で呼びながら、ベッドと、その接する壁とその隙間を見て、そこから透明な小袋を二つ取り出す。
 一つはウリッツァの仰向けな寝顔の写真が入っている小袋。
 もう一つは仕切り付きの小袋で、微妙に凍り度合いの違う凍った精液入りのコンドーム二つがそれぞれ別の仕切りに入っている。
 より凍っているコンドームの方にはハートに近い『M』の字入りシール、そうでない方には『U』の字入りシールが袋の表面に貼られている。
 コンドーム入りの袋をしまい、ウリッツァの写真が入っている袋を裏返すと、ウリッツァの寝顔とパジャマから(ひら)ける(たくま)しい上半身とコンドームで覆われた陰茎と、結合しているマギヤとウリッツァと……マギヤがウリッツァを犯した全てが入った写真がある。
 その写真に目をつぶって、そっと袋越しにキスをする。
 両親が死んで以降、誕生日プレゼントがずっと欲しいと思っていた物だったとしても笑えなかったマギヤの口元が緩んだ。

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