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第3話 ところで結局

 その日はとりあえず、パメラは未来の家に泊まることとなった。これからどうするかは、明日また集まって考えることとなり、その日は解散した。
 そして次の日。春休み初日に、茅尋は未来の家に予定通りやってきた。今後どうするかを決めるためである。
 未来の家にやってきた茅尋は、未来が項垂れているのに気がついた。

「どうした、未来?」
「だ、騙されたぁ!」
「は? 騙された? 何の話?」
「パメラさんが、パメラさんがぁ~」

 未来が唐突にグズりだした。要領を得ないので、一旦未来を慰めてから、話を聞くことにした。ちなみに、パメラはまだ隣の部屋で寝ている。

「で、パメラ王女がどうしたって?」
「うん、実は・・・・・・」
「はぁ!? お、男!?」

 未来が言うには、パメラは男なのだという。昨日、お風呂に一緒に入ろうとしたところ、パメラの下の部分に、象さんがくっついていたそうだ。

「ま、マジで?」
「うん・・・・・・。これ、写真」
「写真!?」

 そう言って、未来が裸のパメラの写真を見せてきた。確かに、下半身に男性にしかついていないハズの象さんがいた。

「ま、マジか・・・・・・。あんなに可愛いのに・・・・・・」

 ちなみに、その後は普通に一緒にお風呂に入ったらしい。

「いや、なんで!?」
「お互い服も脱いじゃってたし、どちらかだけ外で待ってるのもアレでしょ?」
「いやいやいや! 年頃の男女が一緒にお風呂入っちゃダメでしょ!?」

 と、そんなツッコミをしていると、ドアが開かれて、パメラが部屋に入ってきた。
 寝ぼけ眼をこすりながら、まだまだ眠そうに歩いて近づいてきた。

「あ、チヒロさん。おはようございます・・・・・・ぐぅ」
「また寝た!?」
「はっ。す、すいません。庶民のベッドにしては寝心地がよかったので」
「あれ、これ、私ディスられてる?」

 パメラは、未来のベッドにそっと腰掛けると、横になってまた眠ってしまった。
 茅尋のツッコミの声の大きさに驚いたのか、膨らんだ鼻提灯を破裂した音でなのか、パメラは起き上がって、自然にディスり始めた。

「お早いですね、どうしたのですか?」
「いや昨日、どうやったらガーネット王国に戻れるか話し合おうって言ったじゃないですか」
「あー、そういえばそんな話をしてたような、してなかったような」
「未来ー。パメラちゃーん、朝ご飯ですよー」

 ようやく、パメラも目が覚めてきたようで、会話もハキハキとしてきた。
 さっきの未来の話もそうだが、聞きたいことはいくつかあるものの、それはまた今度にしておこう。
 パメラと未来は、未来の母親に呼ばれて朝ご飯を食べに降りていった。今のうち、と考えた茅尋は、昨日のうちに調べておいたことをまとめながら宿題をして、二人が帰ってくるのを待っていた。しかし・・・・・・。

「遅い!」

 時計の針は、13時を指し示していた。茅尋が未来の家に来たのは、午前9時であったことを考えると、実に4時間経っていた。さらに3時間ほど経ったところで、部屋のドアが開いた。

「あっ」
「じー」

 パタン。と、開かれたドアが再び閉じられた。
 扉を開けた主は、部屋の中にいた茅尋を見て、即座に判断し、脱兎のごとく逃げ出した。

「こらー! 待ちなさーい!」
「ごめん! 茅尋、ごめん!」
「ごめんで済むか、バカ未来! 何時間経ったと思ってるの!? 7時間だよ、7時間! あんたは、バカか! 普通、友達来てるのにそれ忘れて外出なんてするか!?」

 どうやら、未来とパメラは、茅尋が来ていることを忘れて出かけていたらしい。
 本当にバカである。ボケ倒すというレベルじゃないほどボケボケのバカである。

「全く・・・・・・。あんたたちが帰ってくるの待ってる間に、宿題ほとんど終わっちゃったじゃない!」
「ええええ!? ズルい! 一緒にやるって言ったのに!」
「帰ってこないあんたが悪い」

 そんなやりとりを端から見ていたパメラは、オロオロしていた。
 それから数分は同じようなやりとりが続いたものの、ようやく本題に入ることができた。

「それで、件のガーネット王国のことなんだけど」
「ガーネット王国・・・・・・? なんだっけ、それ」
「ねぇ、未来。私時々思うんだよね」
「なにが?」
「未来さ、一旦病院行った方がいいんじゃない?」
「なにそれ、ひどっ!」

 茅尋の発言に、未来は涙を流して驚いてた。実際、病院に行った方が良さげなのはその通りな気がしないでもないが。

「んで、話を戻すけど、ガーネット王国。昨日、ざっと調べた限りだと、そんな王国は、過去から現在にかけてまで、存在していた記録は残ってなかった」
「ぶつぶつぶつ」
「残っていなかった、とは?」
「記録に残っているのは、有史以降の出来事だけだから、もしかしたら有史以前には存在していたかもしれないってこと」

 文字、というのは人類史で最も偉大な発明の一つである。
 それまでは、口語でしか伝えられてこなかった伝承や出来事などが、全て文字として残ることで、後世にまで残り、後世の人間が、過去に何が起こったのかを知ることが出来るようになったからだ。

「ただまぁ、有史以前にガーネット王国っていう王国があったとしても、私たちにそれを知る方法はないんだよね」
「そう、なんですか・・・・・・」

 ガーネット王国があろうとなかろうと、茅尋たちは困ることがないが、パメラはそうもいかない。パメラにとっては、母国なのだ。
 気丈に振る舞っているが、パメラの気苦労は底知れないだろう。こんな、右も左も分からない、異世界のようなところにいるのだから。

「ん、異世界?」
「え?」
「そうか、異世界だ!」
「パメラって、どうやってこの世界に来たんだっけ?」
「え、ええと、魔法を練習してて・・・・・・」

 この現代社会は、かつて魔術と呼ばれるものは確かに存在した。しかし、その魔術と呼ばれたものは、錬金術と同じように科学的に証明されて次第に廃れていった。そうして辿り着いたのが、現代の科学社会である。つまりは、魔法や魔術、錬金術といったものは、空想上のものと成り果ててしまったのである。だのに、パメラは魔法が使えるのだ。

「もう一度、同じ魔法を使えば元の世界に戻れるかも!」

 そう聞いたパメラの顔は、さっきまでの曇った顔ではなく、晴れ晴れとした、輝いている顔であった。ちなみに、未来は未だに部屋の隅でいじけていた。

「そっか、同じ魔法で・・・・・・」
「よし、試してみよう!」
「はい!」

 力強く返事をしたパメラは、その場で魔法の杖を取り出して、詠唱を始めた。そして、呪文の詠唱が終わったのか、パメラが目をカッと見開いた。パメラの回りに、魔力が目に見えるようになっているのだろうか、オーブのようなものが漂っていた。

「お二人とも、お世話になりました」
「いやいやいや。そんなたいしたことはしてないよ」
「そうそう! パメラちゃんのお世話をしたのは私だしね!」
「ヒントを見つけたのは私だぞ? ていうか、なんで勉強できるハズの未来のがそんなにバカなんだよ」
「むっ。大体、私より茅尋のが頭いいんだからね?」
「ふふふ。お二人とも、やはり仲が良いのですね」

 二人のやりとりを見て、パメラが笑っていた。王族ということもあり、気心知れた友達というのも少ないのだろう。少し羨ましそうな顔をしていた。

「では、さようなら」
「うん」

 パメラが光に包まれた。そしてその瞬間、爆発した。

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