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第79話

「そんなバカなこと、あり得るか!」

 岩崎の側にいた傭兵の一人が、ネイの体が横にされているメンテナンスベッドを叩き、怒鳴るような声で澄人に言ってきた。

「僕もそう思いたいです。でも……これを見てください」

 その傭兵に、澄人はタブレット端末の画面を見せた。

「耳部ユニットのメモリに保存されていた、ネイの稼働状況の簡単な記録です。これによると、三週間ほど前から主記憶域の更新が止まっています」

 その事実を見せられ、メンテナンスベッドを叩いた傭兵は口をつぐんだ。

 だが、その傭兵が言った通り、こんなことは通常あり得ないこと。いくら人間よりも強靭な体を持つ、機械であるアーティナル・レイスだからと言っても、人工頭脳を撃たれては、正常稼動は不可能。仮に動けたとしても、まともに喋ることができなかったり、足がふらついたりと、何らかの誤作動が起こるものだ。

「三週間前、ネイに変わった様子はありませんでしたか?」

 澄人が聞くと、「そういえば……」と岩崎が口を開く。

「戦闘に巻き込まれて損傷して、一時的に派遣されてきたやつが、ネイを修理していた。ただ、完全には直せなかったと言っていたが」
「名前は? どこから派遣された者ですか?」
「確か名前は、ジェームズ・スミス。派遣元は、久重重工の下請け会社って言っていたはずだ」
「ナオ。その名前の人物が本当にいるのかどうか、検索してみてくれる?」
「はい」

 ナオは久重重工の関係会社の名簿データを検索した。

「該当者が一人いました。アメオリス合衆国出身。三五歳の男性ですが……データには、派遣先であるここで、戦闘に巻き込まれて亡くなったことになっています」
「死んでいるだって!?」
「ちょっと待て! あいつは生きて返ったはずだ」

 傭兵達がざわつく中、ナオは検索したジェームズ・スミスの顔画像を、近くにあったモニターにワイヤレスで送信し、映して見せた。

「ここにきたジェームズ・スミスは、この方ですか?」
「違う……こいつじゃない。もっと老けていた」
「あと、常に帽子を被っていたが、ここまで髪の毛はなかった。たぶんスキンヘッドだ」
ナオが映したジェームズ・スミスと、傭兵達の言うジェームズ・スミスの特徴が重ならない。ということは……。
「……三週間前に、ここにきていたジェームズ・スミスは、まったくの別人だったということか」

 岩崎が腕組みをしながら言うと、傭兵達が疑問を口にし始める。

「ってことは、ジェームスってやつに成りすましてここに来ていたあいつが、ネイのやつに細工をして、操っていたってことか?」
「いや、ちょっと待て。いくら細工を施したからって、人工頭脳がぶっ壊れたアーティナル・レイスを操って、普通と変わらないように動かすことなんて、できないだろ」

 その疑問に、澄人はタブレット端末を操作しながら答える。

「細工をしたのは間違いないと思います。しかし、どんな細工を施しても、人工頭脳が損傷しているアーティナル・レイスを、損傷前と変わらない状態に、動かして見せることは不可能……と言いたいですが、現にネイがそうなっていた以上、できると言わざるを得ません。どうやったのかは――遠隔操作で操っていたのか、それともスタンドアロンで動いていたのかは、詳しく調べてみないとわかりませんが」
「じゃ、じゃあ、この基地には、他にも細工をされたアーティナル・レイスが、いるかもしれないってことか?」
「可能性は否定できないですが、ネイの状態を見る限りだと、細工をして動かす……もしくは操るためには、おそらく主記憶域を破壊する必要があります」
「ということは、そうでないアーティナル・レイスであれば、操られてはいないと言うことか」

 聞いてきた岩崎に、澄人は頷いた。

「ただ、敵がそう思わせるために、ネイの体を残したということも、もちろん考えられます。ここにいる先行量産型達を含め、僕が治したアーティナル・レイス達は、システムチェックをしたため問題はありませんが、ジェームズ・スミスを名乗っていた人物が修理したアーティナル・レイスは、一応調べたほうがいいと思います」
「……そういうお前は、信用できると言えるのか?」

 銃に手を伸ばしかける岩崎。

 それを見たナオは、すかさず「それは私が保証します」と答え、ジェームズ・スミスの写真を映していたモニターに、久重重工が発行した、澄人の証明書を映す。

「岩崎司令にもお送りした、澄人の証明書のデータです。この通り、久重重工の電子印もあります。これでも信用できないというのであれば、本社……もしくは、第一研究所の荒山総主任に問い合わせてもらっても構いません」
「……いいだろう。とりあえず信じてやる。柳原澄人。お前は引き続きネイと、ジェームズ・スミスが手をつけた、他のアーティナル・レイスを調べろ。他の者達は迎撃の準備だ。無論、先行量産型のお前達もだ」
「岩崎司令。私達は、澄人の手伝いを――」

 04がそう言って、足を一歩出した直後、

「これは命令だ」

 岩崎に言われたその一言で、命令による強制力が、ナオを除く先行量産型全員に働く。

「っ……承知いたしました」

 04達は、澄人に申し訳ないと視線を送った。

「大丈夫。今は岩崎司令の命令に従って、ここの人達を守ることを考えて」
「……はい」

 先行量産型の皆は、岩崎と傭兵達に引き連られて倉庫から出ていった。

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