バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第55話

 光に包まれながら意識内に現れたはるに、ナオは驚愕し固まった。

 子供達に合わせたいという思いから、自分が無意識に生み出してしまった虚像か? それとも、マイクロメモリに密かに保存されていたデータが、何かの拍子で再生されたのか?

 しかし、現れたはるの髪には、リボンがない。ナオの記憶のはるとは差異がある。

 保存されているデータだった場合もそうだ。子供の人格を生み出している時、はるはリボンをつけていた。

「本当に…………」

 本物? とナオが口に出そうとした時。

『02……』

 目の前にいるはるは、閉じていた目を開け、ナオに視線と微笑みを向けた。

「姉さん!」

 ナオは駆け寄って行き、思わず両手を広げて抱きしめる形をとると、擬似的だが感触があった。

「姉さん……姉さん……!」

 涙しながら胸に顔を埋めてきたナオの頭を、はるはそっと撫でた。

『久しぶりね、02。いえ……澄人さんが名前をつけたから、今はナオね』
「とても……とても心配していたのですよ? 私も……澄人だって……」
『澄人さん…………』

 はるは悲しそうに、澄人の名をつぶやく。叶うのなら、今すぐにでも会いたいという思いとともに。

「姉さん。いったい今、どちらにいらっしゃるのですか?」

 はるの気持ちを察したナオは、顔を上げて尋ねた。

『……ごめんなさい。自分が今どこにいるのか……よくわからないの。わかっているのは、どこかに捕まっているということだけ……』
「では、私がハッキングして、姉さんの居場所を特定します!」

 こちらに接続してきているのなら、それをこちらから辿り探れば、すぐに居場所を特定できる。ナオはそう考えたのだが、

『ダメ! そんなことをしたら、すぐにばれてしまうわ』
「ばれる……?」
『わたしが今、こうしてナオと会話できているのは、偶然のようなものなの。運良くセキュリティの隙間を見つけることができて……わたしを捕らえている人に、たまたま気づかれていないだけ。もしあなたがハッキングをすれば、気づかれるだけじゃなく、不正アクセスをしてきたものを攻撃する防衛プログラムによって、あなたの意識が破壊されてしまう可能性がある。だから……』

 そうなれば、澄人を側で守るものはいなくなってしまう。それは最悪の状況だ。

「……わかりました」

 悔しい思いでいっぱいだったが、ナオは首を縦に動かすしかなかった。

『ナオ。わたしがこうして現れたのは、あなたに伝えたいことがあるから』
「はい」

 危険を冒してまで伝えたいこととは何なのか、ナオは一言も聞き逃さぬよう、自分のメモリに記憶させることに集中する。

『澄人さんの身が……命が危ないの』
「澄人の命が!?」
『わたしは、この世界で今、何が起きようとしているのかを探っているの。少しずつ……わたしを捕らえている人にばれないように、情報を集めていて……そのデータの一つに、澄人さんの名前があったの』
「それで、データの詳細は?」
『集めることができたデータは断片的で……詳しいことはわからないんだけど、その内容は…………っ!」

 突如、はるの仮想体にノイズが混じり、苦しそうに膝を崩す。

「姉さん!?」
『か……まわず……き、いて……』
「……はい」
『すみ、ひと、さんが……き、けん…………ねらわ……れ……てる。らい、げつ……せん、とう……ちいき……に……すみひと、さん、は……ああぁあっ――が――』
「姉さん、しっかりしてください!」
『っ…………』

 はるの仮想体が急激に薄くなっていく。はるを捕らえている者に気づかれたのだ。

 残りわずかな時間。それをナオは、はるに子供達を見せるために使うことにした。

「姉さん、あそこ……見てください。あそこにいるの、澄人と姉さんの子供達ですよ」
『わたし、と……すみひと、さんの……?』

 はるの仮想体を抱き支え、ナオは座った姿勢のままでいる、二人の子供達の側へ行った。

『ぁ……はじめ、まして……。わたしが……あなた、たちの……おかあさん……ですよ』
『……? ……!』
『……!』

 笑顔になる二人の娘に、はるは涙を流しながら謝罪を始める。

『ごめん……なさい……ね。そば……いて……あげられなくて……。ごめんなさい……』

 はるは子供達に触れようとしたが、その手は指先からどんどん消え始めていった。

『ナオ……おねがい……すみひと、さんを……まもって……』
「……はい。必ず守ってみせます」
『それと……すみひと……さんに……つたえ……て』
「何ですか? 言ってください」
『わたしは……生きて、います。あなたのこと……ずっと……愛、しています。だから……また……会え…………が……んば…………ぁ……ぁ……』
「姉さん……!!」

 声が聞こえなくなり、はるの仮想体を構築していたデータがナオの意識内から失われ……消えた。

「姉さん……」
『『……??』』

 二人の子供達は、はるが消えると不思議そうに首をかしげた。

「お母さんとせっかく会えたのに……寂しいですよね。私も……寂しいです」
『…………』
『……? ……?』

 01-Sは、それを理解しているかのような悲しい表情になり、02-Hの方は、はるをまだ探しているのか、キョロキョロと首を動かしている。

「そうだ。朝までですが、姉さんと澄人のことを話してあげましょうか。お母さんとお父さんの話、聞きたいですよね?」
『…………!』
『……!!』

 子供達は、表情をぱっとさせる。

 ここで澄人とはるのことを話しても、自身の人工頭脳を持たない――意識のみの二人には、記憶は残らない。それでも――ほんの少しだけでも、両親のことを意識に刻み込めればと、ナオは語り始めたのだった。

しおり