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141話 ぽっちゃり君の能力予想。実はハズレ

「洗脳系……若しくは隷属系。どっちにしても他人を操るなんざ反吐が出そうな能力だぜ」
「そうだよね。そういうのに限って、あんまり自分では出てこない厄介なタイプが多いんだ」

 うん、あたしも正面からドーンと来ないのは嫌い!

「しかも、そのぽっちゃり君が勇者の器の適合者だったら最悪だね。きっと魔法の達人になっているだろうね」

 メッサーさんの言葉には軽蔑の色が滲み出ている。

「まあ、適合したのが分かった時点で、一般人から騎士に至るまで廃人の大量生産だ」

 これもレン君の言うとおりなんだろう。有用なスキルを持ってる人は奪われちゃうだろうね。

「しかし、ただスキルを保有しているだけでは大した脅威にはなり得ません。私がそうでしたから。魔法を使える、剣を振るえる、ただそれだけの器用な人に過ぎませんよ?」

 それはヒメが実際に器となった時に実感した事だろうか。でもあたし達には脅威とはなり得なくても一般人にとってはやっぱり脅威だと思うよ。

「洗脳にしろ隷属にしろ大魔法使いにしろ、シルトがいればどうにでもなるよね。でもシルトが洗脳なり隷属なりで敵の手に落ちたら、ボク達に勝ち目はなくなるかな」
「良くも悪くもシルトが切り札って訳だね。どうあってもシルトは守らなくちゃいけなくなった」

 えーと、あたしが守られる側? ピンと来ないけど……

「何か、対策が出来ればいいのですが……」
「視覚に作用するのか聴覚に作用するのか、精神に直接作用するのか。その辺りでも分かれば対策の施しようがあるのだがね……なにせ異界人のスキルだ。情報が無さ過ぎる」

 ヒメもメッサーさんも、心配しすぎ!

「あたし、全力で気を付けます! だから大丈夫です!」

 直後、全員から生温かい視線を浴びたのだけど何故かしら?

(頑張れば防げると思ってるあたり、さすがだよね。大物臭がプンプンするよね。ボソボソ……)
(気を付けるって、何をどうやって気を付けるんでしょうね? ボソボソ……)
(なんつーか、目ぇ瞑って耳塞いどけば多分大丈夫的な? ボソボソ……)
(君達、結構酷いな。いくらシルトがバカでもそこまででは………ボソボソ………)
(ごろごろごろごろ………)

 小さく輪になってしゃがんでみんなひどい!

「……洗脳だろうが隷属だろうが、結局は精神支配のスキルでしょ? あたしには『勇心』があるから精神攻撃は無効化出来るんですーだ!」

「「「「「あ……!」」」」」

 はい、全員正座!!

*****

 ー迷宮自治区 冒険者ギルド迷宮支部内会議室ー

 セラフが口を開いた。

「領都で解析を進めていた、エルフに付けられていた隷属の首輪の解析結果が出たとの事ですが?」

 問われたのは錬金術ギルドの構成員であるコルセアだ。彼女は流入してきたエルフ達と、迷宮自治区の錬金術師達を総括する立場になりつつある。

 カップに淹れられた、エルフ特有のハーブ入りのお茶で喉を潤し、一息つく。

「はい。まずは首輪の効果から。首輪には全て風属性の魔石が使用されていました。首輪を装着し、付属の錠前に鍵をかける事で効果が発動する仕組みになっていたのですが、その効果というのが……」

 コルセアはそこで一旦言葉を切り、集まっている一同を見渡した。ここにいるのは冒険者ギルド代表のセラフ。迷宮自治区の軍代表のアイン。そしてレジスタンス代表のバッジーナ。
 そして言葉を続けた。

「『帝国の者が下した命令に逆らえない』というものです」
「それは何とも、ざっくりとした効果だな…」

 想像していたより大雑把な効果にアインは呆れている。

「ええ。ですがそれだけに狙った効果は得やすいですね。でも、最悪なのは心までは支配していない事。命令されれば身体は逆らえないのです。心が拒否していても」
「……何とも悪趣味な」

 セラフはと言えば、コルセアの説明に不快感を露わにしている。

「……それはエルフ攻めの際に指揮を執った、召喚者のガキが主導で作らせたもんだって話だが、かなり下衆な仕様だったんだな…」

 帝国軍の兵としてエルフ攻めに参加させられていたバッジーナも、詳細は知らなかったらしくしかめっ面だ。

「そしてこれは、人体が放出する微量な魔力を吸い上げそれを動力としていますので、対象者がこれを装備している間は生きている限り作動し続けます」  
「帝国内でその魔道具が蔓延してなけりゃいいがな……下手すりゃ皇帝陛下もあのガキの傀儡になってる可能性もでてきたって訳だ」

 バッジーナの発言は、思った以上に状況が悪くなっている可能性を示唆するものだ。帝国と事を構える事になった際、身体を操られる羽目になっては勝ち目はない。

「そもそも、どういうカラクリで身体を支配するんだい?」

 聞いたところで今すぐ何かを出来る訳ではないだろうが、そんな事は承知の上でアインが尋ねた。

「『音』です。と言っても聞こえる音では有りませんけどね」
「音なのに聞こえない?」

 疑問を口に出したアインと、口には出さないが訳が分からないと言った顔のセラフとバッジーナ。

「音というのは空気の振動です。分かり易いところでは、人間には聞こえますが動物には聞こえている、そんな様子を見た事はありませんか?」

 確かに、と頷く三人。

「これは高すぎる音や低すぎる音は人間の耳には拾えないだけなんですよ」
「つまり、その首輪からは聞こえない音が発せられていると?」
「ええ。その聞こえない『音』が風属性の魔石から発せられ、耳から脳に伝達されて対象者の行動を支配する。そういった仕組みですね」

 耳を塞げば防げるような単純な仕組みではある。しかし。

「戦場に於いて五感のいずれかを封印するなど現実的ではないな」
「レン君の異界の知識があればいい対処法が見つかるかも知れませんが……」

 現在帝国領内に潜入している異界人の少年の姿を思い浮かべて一同は天を仰いだ。

 

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