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55話 求めるは火力

 非番だというセラフさんを加えて、フォートレス、アイン小隊の総勢七人での迷宮探索。セラフさんは、また明日からギルドの業務に戻らなければならないので、第二階層のコボルトロードまで攻略して戻って来たの。

 もうね、戦術もなにもあったもんじゃないの。なにせ目的が鬱憤晴らしだから、ただただ暴れるだけの戦闘ね。
 手あたり次第ぶった切り、いなければ探してぶん殴る。今のあたし達の実力だと、全員がハイ・ゴブリンと互角以上に戦えるから、ある意味狩猟的な感覚だわね。
 魔法使いのメッサーさんや弓使いのミィさん、それにあたしといった、普段あまり剣を使わないメンバーも剣で戦ってたくらいは余裕があったの。

「はぁ~っ! 大暴れしてすっきりしました~!」

 地上に帰還して、大きく伸びをする。

「たまにはストレス解消にいいかもしれないね。それにしても、シルトは随分と剣術が上達したんじゃないかい?」

 あら? ラーヴァさんの目から見てもそうなのかしら? それはちょっと嬉しいかも。でもメインウェポンはやっぱり打撃武器ね。ラーヴァさんやアインさんの剣捌きを見てると、遠いなって思うもん。
 でも、迷宮下層のボス相手だとモーニングスターでも火力不足なんだよなぁ……

「ふふ、シルト。そろそろアレを使ってみたくなったんだろう?」

 そんな時、あたしの表情から何かを察したのか、メッサーさんが悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
 アレって言うのは、第九階層ボスのギガンテスが持ってた巨大なメイス。
 ギガンテスの巨体だと片手サイズなんだけど、怪力スキル持ちのあたしでも片手で扱うのは厳しいサイズと重量。両手なら振り回せるけど、両手持ちの武器だとあたしの盾持ちとしての役割がスポイルされちゃうから、今まで死蔵してたのね。
 でも、実はこのメイスはとんでもない性能だったりするんだ。

「アレを使いこなせれば、迷宮攻略もかなり楽だったとは思いますねぇ……」
「それじゃあウジウジ悩んでないで、若旦那の所に相談に行ってみようじゃないか。アレの特性は若旦那も知ってるんだろう?」

 メッサーさんに促されて、あたし達はイングヴェイ工房に行く事にする。たしかにイングおにいは、今までもあたしの特性に合ったものを勧めてくれてたもんね。
 それに、鑑定を頼んでるから、あたし達の所有物はだいたい把握してるんだよね。その上でおススメのビルド構成を考えてくれたりする事もある。
 なんだかね、イングおにいはすごくあたしの事考えてくれるから、実はあたしの事を愛してるんじゃないかって思うんだ。でも歳の差がねぇ~……

《ズビシッ!!》

「ふぉう!?」

 今日はデコピン? あら、いつの間にか工房に着いてたのね。

「なんでお前は上から目線で妄想してんだよ」
「あ、イングおにい! 今日はね、相談があって来たの!」
「相談? まあちょっと待て。もう少しで仕上がるからよ」

 イングおにいは工房の奥へ引っ込んで行ってしまった。その代わり奥から出て来たのは錬金術師のコルセアさん。

「あら、フォートレスの皆さんこんにちは。皆さんのドラゴン素材の装備、もうすぐ出来上がるんですよ。お茶でも飲んでお待ちくださいな」

 このコルセアさん、あたし達の装備の制作に大きく携わっていて、作るのがイングおにい、魔法効果を付与するのがコルセアさん、と役割分担しているらしいのね。

「ありがとう。ご馳走になるよ」
「おいしそう! 頂きますっ!」
「……」

 あれ? ラーヴァさん? なにか難しい表情をしているんだけど、どうしたのかな?
 美味しくお茶を頂いていたあたしとメッサーさんだけど、ラーヴァさんだけは一口啜っただけで、何やら考え込んでいる。確かに、変わった香りのするお茶だけど、とっても美味しいんだけどなぁ。
 その時イングおにいが奥から荷物を抱えて戻ってきた。あれ? また奥に行って……荷物抱えて戻って来た。ああ、二往復分の荷物があったのね。

「待たせたな。依頼の品、完成だ。コルセアさんにエンチャントを一任したおかげで大分納期が短縮できた」

 おお! ついにドラゴン装備がっ!

「今回のはすげえぞ?」

 イングおにいが出してきたのは、大凡防具とは思えない服だった。話を聞いてみると確かにとんでもない代物。

「まずは、このぱっと見は普通のカッコいいレザージャケットな。これが例の三重構造になってる。対魔法防御、対物理防御は実際やりあったお前さん達なら分かるだろ?フルプレートメイルの遥か上を行く防御力だ。」

 おお、凄い! カッコイイ! しなやかで軽そうで、しかも光沢がとても綺麗なの!

「それからこのインナーをジャケットの下に着用する事。これは邪龍の筋繊維を編み込んだシャツなんだけどな、外気温、体温を感知して、適温に調整してくれるエンチャントを施してある。コルセア先生入魂の一品だ」

 なるほどぉ、暑さ寒さを調節してくれるのね。薄手の黒いシャツは三人お揃い。ジャケットはね、メッサーさんが青。ラーヴァさんは赤。そしてあたしが白! どう? イメージ通りでしょ?

「それでこれがレザーパンツ。筋繊維と革の複合素材だな。ジャケットよりは防御力は落ちるが、動き易さ重視だ。あとブーツが三人分。これは革を厚めにしてある。滅茶苦茶頑丈だ」

 さらに、あたしとラーヴァさんには三重構造のマント、メッサーさんには同様のローブ。そして、これらの装備には迷宮から持ち帰った、アクセサリー系の装備品の魔法効果を付与している。これは後で説明するんだって。

「それで今回一番悩んだのがこいつだ」

 イングおにいが差し出した盾は、見覚えのない形。
 カイトシールドとでも言うのかしら? あたしのタワーシールドよりかなり小型で、丸みのある三角形をしている。表面は多分ドラゴン革。白く染め上げられているのはあたしのジャケットとお揃いかしら? でも、中央にある六芒星と、同じ材質の縁取りは……

「こいつはお前のタワーシールドを改造したもんだ。表面には例の三重構造の皮革を張り付けてるし、吸魔の剣の能力もそのままだ。防御力は格段に上がっているが、逆に大幅に軽くなってる。背負ってもそれ程邪魔にはならないはずだ。お前、両手持ちの武器、使いたいんじゃねえのか?」

「イングおにい……わかってたの?」

 今までのアブソーバーはかなり大型の盾だ。使わない時は正直言って邪魔になる。両手持ちのメイスを使うためには、その辺に捨て置くしかない。
 イングおにいは、そのあたりの事をちゃんと分かってて、アブソーバーを小型、軽量化してくれたんだ……

「ああ。そろそろ火力不足に悩む頃だと思ってな」

 全く……イングおにいには敵わないや。全てお見通しの上、で形見の盾を改造しちゃったのね。

 「うん、あたし、ギガンテスの衝撃鎚矛(インパクト・メイス)を使って戦いたい!」

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