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四章

「こんな田舎にも手配書が来たか……。まあ、そろそろ旅に出ようと思っていた頃だし、潮時だな」
 俺は紙を机に投げ捨てて言う。
 トモヤを何としても生かして連れて来いという手配書。
 同行者の情報として、クダやケントの情報も載ってる。
 罪状は王子殿下と王女殿下を浚った事。
 これは、俺がマゼランだってばれたな。
 しかし、国民感情は比較的俺に同情的だ。
 ケントはお披露目も兼ねていたから王子の部下なのは周知の事実だったし、処刑の交付が先に行われていたからだ。
 俺もケント達も、もう二十歳になっていた。とうとう異世界に行く呪文を覚え、準備は万端だ。
「少しずつ旅立ちの準備は整えていましたし、明日出発しましょう。バーク様とアンティ様は誰が預かります?」
「何を言っている、余も行くぞ。大魔法使いマゼランの秘宝、魔導を志す者として見に行かぬはずがないだろう」
「妾もいく。まどーをこころじゃちゅものとして、みにゆかぬはずがにゃいだろう」
 王子王女は、どこからかちいちゃな荷物を出して来て行った。
 誰に似たのか、数えで四歳のこの子達は異様にしっかりしている。
 こいつらも前世の記憶を持っているんじゃないかと思うほどだ。
「あーあ、トモヤがしょっちゅう精神融合の術を使うから、王子王女殿下がすっかりトモヤそっくりにおなりになっちまったじゃねーか。バーク様もアンティ様も、こうなったらてこでも動かないぜ」
 そんな事もあったかもしれない。俺は顔を逸らした。
「褒めてねーよ!」
 クダがぺちんと俺を叩く。
「クダ、ブール―、トモヤは王子王女といてくれ。俺がドラゴンを倒すから」
 ケントはまだパラメーターを全部振れていない。ここら辺の魔物じゃもう弱過ぎて、パラメーターを上げる糧にはならないのだ。
「その刀、抜けるようになるといいな」
 俺が言うと、ケントは頷いて刀を撫でる。
 俺達が家族そろって宿を引き払うと、いつも王子王女に乳や甘いものを差し入れしてくれた女将さんがハラハラと涙をこぼした。
「そうか、行くのかい。本当に健気だよ、処刑命令が出されたのに、バーク様と共に魔王退治に行こうなんてねぇ……おっと、これは秘密だったね。大丈夫、おばちゃん、誰にも言わないからね」
 魔王退治ってなんですか、女将さん。
 まあ、ケントはこの後魔王退治に行くんだから嘘じゃないけど。
 ブール―の陰謀は王子王女がどこにいるかであって正体じゃないからなー。これは失敗したか。
「これ、おばちゃんの作ったお弁当だよ。食べておくれね」
 王子王女はお弁当を受け取り、口々に言った。
「女将。もう会う事もないだろう。それでも、女将の恵んでくれた乳の味は一生忘れぬぞ」
「わすれぬぞ!」
「ありがたき……幸せ……っ」
 おばちゃんは本格的に涙を流す。
「ケント様! あんた、ちゃんとバーク様とアンティ様をお守りするんだよ! 魔王さえ退治すれば、バーク様とアンティ様もきっとお許しいただけるはずさ!」
「いや、まだ刀も使いこなせないし、ドラゴン退治に行ってくるだけだって」
 俺が慌てて言うと、女将さんは大きく頷いた。
「なるほど、そこでカタナを覚醒させるんだね! 頑張るんだよ! あんた! バーク様がついにご出陣するよ、あんたもお見送りしな」
 いや、間違ってないけど、間違ってないけど……!
「なんだって! バーク様万歳! アンティ様万歳!」
 女将さんと宿屋の主人の声に引かれ、町の人々が集まってくる。
「バーク様が行くってよ」
「まだようやく四歳におなりになったんだぜ? それはあんまりにも厳しいんじゃないか」
「魔王は大分強力になった。こうしている間にも次々と人が死んでるんだ。バーク様はそれをお厭いになられたんだ」
「バーク様万歳! アンティ様万歳!」
 最後は、皆で称え出した。
 町の人々が走ってきて、次々に果物や旅に必要な物などを貢いでいく。
 馬まで与えられて、俺は冷や汗ものだったがブール―は涼しい顔で受け取った。
「ケントはこの後魔王退治に行くのですから、嘘ではありません」
「そうだけどさ……」
 馬に乗って町から出る時の俺の言葉に、俺の膝に乗っていた王子が言った。
「皆の好意は受け取っておけば良いのだ、トモヤ。ケントは命を掛けるのだからな」
「兄様はかけないの?」
「世界など知った事か。余は余の魔導を極める!」
「兄様かっこいい!」
 ふふふ、幼児というのも可愛いものじゃないか。
「あーあ、本気でトモヤとそっくりに……誰だよ、トモヤに世話を任せようって言った奴」
「私です、すみませんごめんなさい確かにありえませんでした」
 クダがいい、ブール―が平謝りした。
 ケントが苦笑をする。
「俺らはトモヤに世話されても、そんな事にならなかったんだけどな。やっぱり精神融合の魔術が大きいと思う」
「あれ、勉強を教えたり何かを言い聞かせたりするのにかなり楽なんだが。それに、クダやケント、ブール―も融合してたろ。お前達の影響もあると思うぜ?」
「うるせ―! どう見てもお前の影響だろ。トモヤはもうバーク様とアンティ様への精神融合禁止!」
 クダがいう。
「クダ、あまりトモヤを怒るな。トモヤはトモヤなりに頑張ったのだ」
「がんばったのだー」
「しかし、バーク様」
 クダは戸惑うが、王子は笑う。
「余は毎日が楽しいぞ。こんなに楽しいのは、自分の事しか考えないからであろ。余が人並みであったなら、処刑された母を想い、魔王に蹂躙される民を想って泣き暮らしていたであろうからな。けれど、今の余には全ては関係がないのだ。余は王子ではないのだから」
 いや、それはどうなんだ、王子。
 冷たい眼差しで皆が俺を見ている。俺は少し早めに馬を走らせた。
 自分でも驚く事に、俺は王子と王女が好きだった。
 王子王女は全くパラメーターを振っていないが、賢く可愛らしく育っていく。
 それだけならなんとなく腹が立って終わりだが、王子は俺の記憶を読んで魔術師ごっこをするようになったのだ。
 くっくっくと不気味に笑いながら鍋を掻きまわすさまはとても可愛かった。
 ああ、こいつらは俺の弟子なのだ。そう思った。
 例え俺の弟子と言えど、タダで研究結果はくれてやらん。俺の記憶から勝手に盗め。かつて俺は王子王女にそう言った。王子たちはそれを実践している。
 いずれ、王子王女も俺の技から何かを選んで極振りをするだろう。
 出来れば特殊呪文適正が良い。そうすれば、次の世代も極振りが出来る。そうして知識を伝えていくがいい。俺は優しい目で王子王女を見る。思えば、俺は子どもを作らなかった。次の世代に託すなど、俺より、いや、俺と同じくらい優れた人間が生まれるのが許せなかった。俺の父が俺を作り、パラメーター制御の術を使ってくれたのが不思議でならなかった。
 だが、どうせもうパラメーターのシステムは変わったのだから、俺より優れた人間はこの先現れないのだ。ならば王子よ、王女よ、俺の五分の一くらい優れた人間になるがいい。それならば許そう。
「何かトモヤに凄―く見下されている気がするぞ」
 王子が俺の袖をくいくいと引っ張る。
 ブール―が陰謀を俺に使って深い深いため息を吐いた。
「ブール―、しょっちゅう俺に陰謀を使うの、やめろよ」
「見張られてる自覚を持って下さい。貴方は世界一の魔術師なのだから」
 ブール―に逆に言われ、どんな理屈だと俺は頬を膨らませた。
「ここら辺で食事にしようぜ。こっから先は魔物が出没するからな」
 俺は王子を下し、弁当を引っ張り出した。
 まだ王子は食べるのが下手な為、俺が食べさせてやる。王女にはクダが食べさせた。
「あーん」
 可愛らしい黒髪に緑の瞳の王子は、小さな口を精一杯大きく開けた。
 もぐもぐと口を動かす様が愛らしい。
 王女は銀髪で、黒の瞳だ。これもまた可愛らしい。
 まず王子王女に食べさせて、それから俺達が食べる。
 女将さんの用意してくれた弁当はとても美味しかった。
 休憩を十分に取ると、先へ向かう。
 たまに魔物が現れたが、ケントの敵ではなかった。
 進んでいくと、遠くに洞窟が見える。その中央にドラゴンが居座っていた。
 俺はドラゴンをギリギリと睨む。獣ごときに。
「くそ、あれは俺の家なのに」
「でかいな……。よし、皆はここにいてくれ。クダ、バーク様とアンティ様を頼んだぞ」
 ケントが静かに忍び寄っていき、俺達はそれを見守った。


 中々構ってくれない親からミルクを獲得するために、大声を上げるようになった。
 面白がって小突いてくる親から逃げる為に、ハイハイを高スピードでするようになった。
 親から隠れる為に、かくれんぼがうまくなった。
 助けを求める為に、ますます声を大きくした。
 走って逃げられるよう、足の速さを上げた。
 反撃できるよう、腕力を上げた。
 孤児院に入ってからは、認められたくて美しさを上げた。
 強がる事に必死だった。ある日、俺の自信はトモヤに粉砕された。
「美形と礼儀作法を上げた奴は、貴族に売られるんだよ。そこで貴族に美貌を愛でられて過ごすんだ。俺は目的もあるし、誰かのものなんてパスだな」
 貴族に、売られる。初めは嘘だと思った。トモヤの事を、思い切り殴ってやった。でも真実だった。俺だって、誰かのものなんてやだ。一方的に蹂躙される、それが嫌だから俺は孤児院まで必死で逃げて来たんだ。そこで、俺は初めて将来の事を考えた。
 周りを見渡して見れば、ケントは武官になるのだとケンドーを頑張っていて、ブール―は武官になるのだと勉強を頑張っている。
 俺も何かに極振りしたかった。でも、その日その日を精一杯生きてきた俺は、今使える全てのパラメーターを使いつくしていた。
 俺は何に、何になれる? もう、貴族のものになるしかないのか? 絶望した時だった。
「クダももう少し礼儀作法を上げれば貴族に貰ってもらえるかもしれないのにな。あれじゃ兵士になるのが精いっぱいだ」
 兵士? 兵士にならなれるのか? ケントのような武官にはなれなくても、俺は、俺の道を歩いていけるのか?
 そして俺は、兵士としての道を選んだ。
 俺は王子を守る武官や文官に憧れていた。でも、絶対に自分には慣れないと思っていた。
 今、俺は王子を守っている。けれどもそれは、憧れよりもずっと泥臭い事だった。
 なんで貴族に売られて、綺麗な服で、美味しいものを食べてお上品に暮らしているはずの俺が、指名手配されて、竜に追われて、こんな山の中で子供を背負って泥だらけになってはいずりまわっているんだ?
 トモヤに会って、俺は全ての運命を狂わせた。
 だから言おう、トモヤ。
ありがとう。
「クダっ……クダっ」
 王子が泣きそうな顔で言う。この、何よりも尊い存在。俺が忠誠を誓った相手。
 俺は王子を背負い、パラメーター、かくれんぼとハイハイを発動させながら地面を這っていた。足はとっくに駄目になっている。
 トモヤとブール―にアンティ様を守れるとは思っていない。あちらは諦めた方がいいだろう。おれの使命は、何としても王子を生かして返す事だ。
「お静かに、バーク様。貴方と初めて出会った時も、こうしてかくれんぼで逃げましたね。あの時も私は、貴方様を守りました。今度も、お守りしましょう」
 王子は、顔を思い切り歪めて、そしてぎゅっと俺の肩を握った。
「頼んだぞ、クダ!」
 不安も恐怖も全てを飲みこんで、王子は笑う。強い子になられた。こんな健気な所はトモヤにはないから、きっと俺に似たんだな。
 ああ、神様。誰でもいいから、王子だけは助けて下さい。その方法を、教えてください。
――祈りにパラメーターを振りますか?
 脳内に現れた表示に、俺はきょとんとした。残りのパラメーターを全振りする。
――祈り千。声の大きさ千。足の速さ千。腕力千。美貌千。均等振りボーナスにより、MPが0になります。全てのパラメーターにボーナスがつきます。
――祈りを使いますか?
 イエス。誰でもいい、助けてくれ!
――祈り千ポイント。声の大きさは半数の五百ポイントとして加算されます。ボーナスポイントとして優先順位が1上がります。
――よくできました。さあ、今からいう事を良く聞きなさい……。
 

 ケントが剣道を発動させ、発光する。
 ケントは真っ向から竜に向かい走っていった。剣を抜いて、滑るように竜の元へと。
 そして、一閃。
 警戒した竜の吐く炎を、一刀両断にする。
 俺達は簡単の声を上げた。
 ケントはなおも止まらない。ぶつかる、剣と爪。
 それを皮切りに始まる、激しい戦い。
 初めは安全な場所からそれをただ眺めていた。けれど、イレギュラーが起こった。
 洞窟の中から出てくる、ケントと戦う竜よりは小さいが、十分に大きな影。
「子竜!?」
 子竜は、ふんふんと匂いを嗅ぐと、まっすぐにこちらへと向かってきた。早い。
「散開しろ!」
 とっさにクダが王子を負ぶさり逃げた。
 子竜が口から炎を出す。足元に辺り、倒れるクダ。その体が消えていく。かくれんぼだ。
 クダを心配している暇はない。
 ブール―がアンティを抱き上げ、別方向へ向かう。
 俺も呪文を唱えながら逃げた。
 唱える呪文は、精神融合。
 これだけの近距離なら。
 子竜は首を傾げ、少し迷った後にブール―を追った。
 ブール―は足の速さにパラメーターを振っていない。追いつかれるのはすぐだった。
子竜に捕まる寸前、ブール―はアンティを投げる。
「トモヤ! トモヤ、パラメーター! こーげきじゅもんをつかうの! ブール―が、ブール―が!」
 アンティが悲鳴を上げる。パラメーターの束縛を解除しろ、自分が攻撃呪文を覚えてブール―を助ける。恐らくこう言いたいのだろう。
「こんなつまんない事で自分の未来を決めんな、我が弟子よ!」
 俺が何とかしてやる!
 精神融合で竜と一つになる。
『動くな!!』
『ママ、こいつマゼランだ!』
 一声鳴く竜。
 ケントと戦っていた竜が猛スピードで飛んでくる。事態悪化!
 ええい、あんな大きな竜との精神融合なんて絶対無理だろうけど、やってやる!
「ブール―、アンティを連れて逃げろ!」
「お前の相手は俺だ、竜め!」
 ケントが走ってくる。
『お前など、戯れで遊んでやっただけよ!』
 母竜がケントを尻尾で弾き飛ばす。
『マゼラン……お前はここで消す!』
『動くな動くな動くな!』
 俺は必死で念派を送る。くっ駄目だ。向こうの意志が強すぎる。
 その時、遠くから大声が聞こえた。
「トモヤーーーーーーーー! アースザゲートを使え! キュロス様がそうしろと!」
 アースザゲート!? とりあえず逃げろって事か!
 俺は口早に呪文を唱える。ケントが、また竜に斬りかかった。
「もっとだ! もっとパラメーターを振らせろ!」
 ケントの刀が発光して、ひとりでに鞘から抜かれる。
「ケント、カタナが!」
 ブール―が叫んだ。
 ケントは刀を抜き放ち、握りしめる。
 母竜が、またも尻尾を振った。
「二度もやられてたまるかぁぁぁぁぁ!」
 ケントが尻尾を両断する。これだけ時間を稼いでもらえれば十分!
 ブール―がクダの所へ走り寄る。王子王女が走ってきて俺の足にしがみついた。
「――アースザゲート」
 俺は呪文を唱えた。扉が、開かれる。俺達は即座に開けた扉の中へ駆け入った。
 最後にケントが竜を警戒しながら入っていく。
 俺は目を見開いた。そこにあったのは……。
 美しく花が散る絢爛な儀式場。
 並び立つ貴族達と神官。白武官と白文官、闇武官と闇文官、蒼武官と蒼文官、紅武官と紅文官、緑武官と緑文官。そして魔術師。
 二人の男女と、その前に立つ最高司祭様。取り押さえられ、立派な服を着たアトル。
 男は、この国で最も尊い方……陛下。
「この結婚に異議のある者は申しいでよ。……うん?」
 最高司祭様が言いかけて目を見開く。
 そして、はらはらと涙を流し、口を押さえている女は、金髪にそばかすの、この国ではとても醜い、俺にとっては目も眩むほど美しい……アトラ。
 誰が見たってわかる。陛下と結婚するのか。女としての一番の出世だ。良かったな、アトラ……。
「トモヤ……来てくれたんだね、やっぱり生きてて、助けに来てくれたんだね……。陛下、ごめんなさい。私はトモヤと……」
 さて、バークは賢い子供である。こんな時、どうすればいいか。バークは心得ていた。
 バークは、叫んでアトラの元へ向かう。
「ママ―!!」
「会いたかったわ! ママよ、愛しい息子!」
 どよめく会場。
 うぇぇぇぇぇ!?
「トモヤ! いや、マゼラン様! ようやく再開することが出来ましたね。皆のもの、マゼラン様をお連れしろ!」
 そこで竜のつんざくような鳴き声。
 武官達が驚いて体を固まらせたその隙に、アトルがこちらへと駆けてくる。
「トモヤ! 行くよ!」
アトルが、アトラが俺を引っ張る。でもどこへ?
外に竜、中に兵士。事態悪化してるじゃねーか!
「――パラドルグ! ――パラドルグ! ――パラドルグ! ――パラドルグ!」
「――ラグルピース」
 クダの傷がいえ、ケントとクダ、俺とブールーが強化される。
「すり抜けるわよ!」
 そしてアトラは竜の待つ扉に思い切り突っ込んだ!
「うわっ無茶するなアトラ!」
 ケントが刀を振るって竜を弾き飛ばす。
 俺達は扉をくぐりぬけ、走って洞窟の方へと向かった。
 後ろでは武官達が竜と応戦している。
「このまま洞窟まで行って火を放つ!」
 俺が叫ぶと、クダが殴ってきた。
「お前な、そんな事言ってる場合か! 色々と諦めろ!」
「諦めきれるか、俺の一生を掛けて研究したものだぞ。誰にも渡してたまるか! そうさ、この命にかけても!」
「んなもんに命を賭けるな、ミサキを助けるんじゃなかったのか!? ほら、竜が追ってきたぞ! どうする、トモヤ」
「アトルが来た時点で決まり切ってる」
 俺は呪文を唱えながら洞窟へと駆け入る。確か、入口の近くの窪みに……あった! 緊急脱出用袋! そして、唱える呪文は……。の前に火を……。
「さっさと呪文を唱えやがれ!」
 クダが、俺を殴る。仕方なく俺は唱えた。
「――ゲートザゲート」
 俺は確信していた。呪文を使った際、三度とも最適な場所へと道を開いた。
 これには必ず作為的なものがある。必ず、美咲の元へと道は開くはずだ。
 その瞬間、俺は白い空間の中にいた。
「キュロス……様」
「良くやりました、智也さん。彼らは竜を破るでしょう。そして勇者一行をも退けた竜を倒す事で、数の力を知るでしょう。そして最後に彼らは、マゼランの秘宝を手に入れる! パーフェクトですよ、智也さん」
 俺は眉を顰めた。
「全て貴方が企んでいたのですか、キュロス様」
 キュロスは、にこにこと笑った。
「とんでもない。全てはダーツの結果ですよ。命中率0の移動呪文はね、私達の目隠しダーツの結果で行き先が変わるのですよ」
「……いちいち移動呪文が使われるたびにそんな事をするんですか?」
「だって、どうせ貴方達の一族しか使えなかったじゃないですか。特殊呪文適正は貴方の一族が作った特殊な呪文の為に作ったパラメーターなのですよ。これから忙しくなりそうですが。特殊呪文が一般に開放された事でね」
「あれは俺の研究だ!」
 キュロスは笑って指を振る。
「言ったでしょう? 美咲さんを助けるにはもう一度命を捧げるか、異邦人としてこの世をさまよう必要があると。貴方は研究という命を捧げたのです。尊い事です。きっと陛下もこの結果にお喜びになるでしょう。心配ありません、私はダーツの名手です。目隠しをしようとも、必ず美咲さんの元へと……」
 キュロスが笑って続けた時、長い着物をずるずると引きずって小さな子供が駆けて来た。顔はベールで見る事は出来ない。
 その後ろから、子どもと同じ服装の大人が歩いてくる。
「キュロスー!」
 キュロスは振りむいて驚いて傅いた。
「陛下! 殿下! 何故このような所に……」
「特等席で結果を見に来た! 凄いぞ! アトラの補助呪文の効果で、大きな大きな扉が開く事になったぞ! 竜も軍も楽々すり抜けられるな! さあ、その扉をどこに開く!? 余の前で、ダーツを放ってくれ! 期待しているぞ!」
 子どもがキュロスに抱きついて、興奮して叫び通しだ。
 その後ろから大人が子供の頭を撫でてキュロスに言った。
「わしも楽しみだ。このような結果になるとは、夢にも思わなかったぞ。さあ次は、どうなる? どうなる? キュロス、お前を異世界担当官に任命する。余に面白いものを見せて見せよ、さあ、ダーツを投げるのだ」
「りゅ、竜も軍も通れる大きな扉? 異世界担当官ですか? それはさすがに……」
キュロスが、汗をかいた。
「期待しているぞ! キュロス」
「余も期待している、キュロス」
 二人のキラキラした眼差しがキュロスに突き刺さり、ダーツの的らしき地球儀が現れる。
「お、お任せ下さい、陛下、殿下!」
 キュロスは、目隠しをしてダーツを握った。
「おい待て、美咲の元へ送ってくれるんじゃなかったのか!? なんだよ面白いものを見せよって!」
 俺は敬語も忘れ、叫んだ。
「所詮ダーツですから、どこに当たるかは運次第です。幸運を、智也さん」
「運次第とか絶対嘘だろう! てめーキュロス様覚えてろよ! 全部お前らの余興だったんだな!」
 白い空間から俺は落とされ、扉がゆっくりと開く。
 俺は、そこにあるものを見て体を一つ震わせた。
 幸運なのか不幸なのか。
 ともかく、俺は大声を張り上げた。

しおり