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人材交流始めました

 ESP研究所。ここは研究機関の中でトップ10に入る有名な研究所だ。
 その理由は簡単。ESP研究所の所長、ゲイル博士の養子であるシバイが獣人だからだ。獣人とは、マッドサイエンティストの隼人博士が、「どこか」から浚ってきたとされる生き物である。人から犬の顔に全身に毛皮が生え、爪と牙の鋭くなった姿に変身でき、人を食べないと生きていけない。
 もっとも、輸血剤を使えば生きていく事が出来るのだが。
今ゲイルは、昼も夜も無い大忙しだった。
シバイの人の体からは紫外線をカットする成分が抽出され、獣人…いや、人狼と言った方がわかりやすいだろう。人狼の体でいる時の毛から、放射能をカットする成分が発見された。
前者の培養には成功し、大手薬品会社と提携してアルビノに対する特効薬と化粧品・日焼け止めを開発中であり、眼鏡の会社からも連絡が来ている。
後者の方は培養は出来ずとも、シバイの毛を全て使うことで、原子力発電所作業員のいつまで作業をしても安全でいられる服が一着開発でき、高値で売れていた。
また、シバイが使った魔法らしきもの。これがESP研究所としては一番気になる所だ。
それの調査を行わなくてはならない。
ゲイルが疲れ切って仮眠していると、隼人からテレビ電話が来た。
ゲイルは飛び起きて、身支度もせずに向かう。他の獣人を預かってもらう事もあるかもしれないと、事前に言われていた。
隼人は、開口一番に言った。

『ゲイル。どうせもう気づいているだろう。地球上にシバイの故郷が無い事に』

 ゲイルは、驚いた。そして眠った頭をはっきりと起こすために、コーヒーを持ってくる。
 この癖は隼人も知っている為、待っていてくれた。

『案内してくれる気になったかい?』

 慎重に言うと、その言葉は切って捨てられる。

『誰が。だが、この国の要人に獣人が出てな。宰相の娘が連れられてきた。信用できる要人はいるか。それと、共同研究をして明日までに血液を使わない錠剤を作りたい。こちらの渡せる獣人のデータは全て渡す。現地人のデータもな。そちらも全てのデータをよこせ。共同研究だ』

 ゲイルは、コーヒーを噴出した。

『宰相のお嬢さんが獣人だからって放り出されるのかい!? で……そのお嬢さんを預かれば、こちらとしても借りはできるんだろうね?』

 獣人は殺されるというのは確かに聞いていた。しかし、いくらなんでもナンバー2のお嬢さんがそうなるとは信じられない。最も、向こうでは対策を立てられていないらしいから仕方の無い事なのかもしれないが……。

『ああ、借りにしていい』

 この言葉は、もしも要人が何もゲイルに便宜を図らないなら、隼人が代わりに便宜を払ってくれるといっているのだと悟る。貴重な獣人も手に入るし、マッドサイエンティストと名高い隼人の集めたデータも手に入るし、ゲイルに損は無い。礼としてゲイルも、最大限の便宜を図る事にした。幸い、シバイを預かりたいと名乗り出ていたものは大勢いる。

『度量が大きくて心優しい貴族を知ってるよ。好奇心も高くてシバイのファンだ』
『十分だ』

 そして狂科学者達は研究に入った。
ゲイルはハヤトと研究を終わらせ、早速錠剤を完成させる。
あくまでも仮のものだ。これで駄目だったら、輸血パックを我慢して飲んでもらうほか無い。

『それで、いつごろお嬢さんは来るのかな?』
『そちらでは丁度夕食時だろう。セシリアご自慢の料理を食べさせてやれ。それと、シバイはどうだ』
『軍の訓練が大変なようだよ。獣化すると一番、しないとビリなんだってさ。一通り訓練を終えて自由に獣人に変化できるようになったらシールズに放り込まれて、獣化しても負けるようになったって。魔術の訓練は残念ながら僕達には出来ないとわかってね。魔術を使えるのはシバイ1人なんだから、なんとしても移動呪文を覚えろってさ。大変そうだけど、部隊には脅える人がいないんだって喜んでいたよ』
『移動呪文か。補助の道具を送らせよう』
『それじゃ、待ってる。向こうは丁度寝る時間かな?急いで連絡をしないと。じゃあ』

 その時、玄関のベルが鳴って研究員から連絡が来た。

『強力なESPが検出されました!』
『隼人がいらっしゃいました! 獣人を連れて……ケティちゃんっていうそうです』
『早いね。しかし、これで移動方法はテレポートとわかったわけか。移民への道は遠のいたかな?』

 迎えに行くと、ころころとして小さく、ぬいぐるみの様な獣人が隼人に抱きかかえられている。それに、二袋の毛皮も。

「安心して良いよ、レディケティ。君の里親は必ず僕が見つけるから」

 ケティは、驚いた顔をした後、こくりと頷いた。

『ごきげんよう。ケティです。よろしくおねがいします』
「いい子だ、ケティ。食事が口に合うといいんだけど」

 ゲイルは、自然とケティを抱き上げた。子供はいつも可愛い。それが人狼の子供でも。

「この子はあまり無茶な研究はしないでくれんか。代わりの獣人の調査データと毛皮1人分は渡すから。もう1人分はイギリスへ送ってくれ。後の二人分は日本へ送るぞ。じゃあ、わしは行く。他の獣人の世話があるのでな。あれは助手にする」
「コーヒーくらい飲んでいけばいいのに」

 隼人の言葉に、ゲイルはぼやいた。データにあった獣人は4人。
 これほどすぐに次の獣人が手に入るなら、数年以内にまた手に入るだろう。優先権は確保しておかないと。ゲイルは心に決めた。
 そして電話をする。

『もしもし、ミスターグレイス』
『今から寝ようと思っていたんだがね。重要な用件とは何かね』
『獣人の幼い子供をハヤトから預かったのですが、高貴な血筋の方なのです。うちのような研究所で預かるのは忍びない。どうか立派な令嬢に育てて頂けませんか』
『獣人!? しかも女の子なのかね!??』

 獣人の男女が揃った。それだけでも、大事件である。獣人とはその体一つで何人もの人を救う事の出来る奇跡の生き物なのだ。

『わかった。私が責任を持ってご令嬢を預かろう。しかし、いいのかね? イギリス人である私に預けても?』
『最適な預け先が貴方の所でした。アメリカは未だに獣人に対する恐怖が完全には払拭されていませんから。それに、仲介をするだけでも大きな借りが出来ます。しかし、獣人が人を食らう可能性がある事は否定できません。隼人博士と即席の薬を作って血は飲まなくてもいいようにしましたが、駄目なようならこちらでまた探します』
『いや、我が家で預からせてくれ。それほど重要な子なら、我が家がふさわしい』

 ケティに、食事をさせていると、車がESP研究所に付く。
 あまりにも早い、イギリス大使館からの、迎えだった。

『今、隣の家から来たよね!? 君らちゃんとイギリスの迎えなんだろうね』

 大いに気に掛かる事をゲイルは言う。

『SASです。ご令嬢の身の安全は責任持って守ります。ご安心を』
『そんなに重大事項かい!? 僕の所、貴族のシバイを預かってるけど向こうの国からは何も報酬なんて無いんだよ!?』
『獣人である事が重要なのです』

 その言葉に、ゲイルは頷きケティを渡した。

『ケティの事は頼むよ。これが報酬の獣人のデータと1人分の毛だ。毛を使った放射能を防ぐ材質の作り方は入ってる。僕からも言語データは入れておいたから』
『わかりました』

 食事を終えたケティが、連れられてくる。
 SASが慎重にケティを抱きあげて、イギリス大使館へと向かって言った。
 それを追う、不審な車が一台。二台。三台。
 こうして夜のカーチェイスは始まったのだった。



非常に驚くべき事に、翌朝には、ケティはグレイス宅の前にいた。
ケティは何事も無かったかのように、すやすやと眠っている。

「ミスターグレイス、ケティがもうついたって?無事かい?」

 携帯電話を片手に、グレイスは電話相手のゲイルに答えた。

「ああ、あまりの可愛さにびっくりしているよ。妻も喜んでいるし、預かってよかった」

 まるまるとした小さな体はもこもこふわふわとし、まるでぬいぐるみの様なそれにイギリス風の可愛いドレスを着せられたケティの可愛さといったら無かった。
 その日の夜には社交界デビューで、言葉が通じないながらも、また文化が違いながらも洗練された物腰で社交界を席巻したのだった。
それいらい、ESP研究所には次の獣人を譲って欲しいとの電話が鳴り止まない。
 特に日本の攻勢は物凄く、毎日獣人特集が組まれた。
後四人いる事は公開されたデータからもわかっている。
それを早く回せという訳だ。

「やれやれ、困ったな…」

 アメリカからの突き上げも凄かった。仲介料の毛1人分では足りなかったらしい。ゲイルが困惑していると、また隼人から電話が掛かってきた。

「ケティの家の両親が喜んでな。文通は許さなかったが、せめて贈り物を届けさせてくれといってな」
「いいじゃないか、文通くらい」
「……まあ、シバイと風太を向こうにやった時点で一緒か。しかし移民は許さんぞ。あれはわしが見つけたのだ」
「今はいいよ。ゆっくり外堀を埋めていくつもりだよ。上司はせっかちだけどね」

 しばし、沈黙が落ちる。考える事は皆一緒なのだ。
中世レベルの、剣と魔法の世界。好奇心を持たないものはごく少ないだろう。
特に、環境問題や人口問題が深刻になり、宇宙進出が強く望まれる今は、そのまま住める土地というのは宝石のようなものだ。

「わししか行けない場所を手に入れてなんになる。火星でも緑化していればいいのだ」
「君がそれを望むなら出来ただろうね」
「そっちの方が正直興味があったがな。緑化が済めばどうせすぐに取られていた」

 軽口に本気の言葉が返ってきて、ゲイルは汗を流した。

「その研究、やってみないかい? データをくれるなら移民を諦めるよう言ってみる。火星までならいけるならね」

 ゲイルが勢い込んで言うと、深刻な口調で隼人は言った。

「人は欲深いぞ」
「目の前の火星が緑になればそちらに意識が向くと思うよ。莫大な投資が必要になるし」
「わかった、やってみよう。ロケットはそちらで用意してくれ。こっちで改造するから。下手なことを吹き込まれたくないから、ケティとシバイには写真を送るのだけ許す。向こうからの贈り物と手紙は渡してやる。ああ、そうそう。風太と同じ種類の子供を預かったんだが、育て方は凶暴になったら神なり精霊なりの祝福を受けさせて、成長して襲い掛かってきたら親の体の一部……これも輸血パックでよかろう……を食べさせて大人にせねばならん。親との絆が勝負となるんだが、わしは忙しくてな。そちらにいい人材はいないか。いなかったらこちらで育てる。今データを送る」

 爆弾発言を続ける隼人。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。神の祝福は何教の?」
「子供を嫌がらない神様だ。神によっては焼き払うらしいからな」
「焼き払うってことは、やはり風太くんはデビルなのか。僕はカトリック教徒だけど、風太くん、受け入れてくれるかな。わかった。探してみる」

ゲイルは、すぐにアメリカ政府に連絡を取らねばならなかった。
両方の提案にイエスと答えると、イギリスにはドレスや内部に魔方陣の入った宝石、アメリカには術具といわれる未知の物質とそれぞれに感謝の手紙が届けられた。もちろん、シバイやケティにも手紙が届けられている。
一方、届けられた赤ん坊がある教会に連れて行かれていた。

「これは、私への挑戦なのです。悪魔を、改心させ、人の道へと導く事が」

神父が、子供に洗礼をする。
その額に、刻印が現れた。

「おお……神はこの子を許されました。この子はカインと名づけましょう。私の名は、偶然にもアベルというのです。いえ、それが神の御心なのでしょう。誰にも負けぬ絆を、作り上げましょう。愛しなさい。全てを」

 神父は、大切そうにその赤子を抱き上げる。
 その周りは、大勢の神父と軍人で囲まれていた。
 神が確かにいるというその証……刻印に、皆が傅いていく。
 そこに、風太と隼人が降り立った。
 風太は成人の、翼と牙をあらわにした姿を取っている。

「覚悟は、出来ているんだよね。この子はきっと僕と同じ道を辿る。誰かが止めて正気に戻してくれなければ、隼人を襲っていた」
「それでも、貴方は正気に戻ったのでしょう?私は信じます。神と絆の力を」

 神父は静かに言い放つ。

「食事は毎日送るから、それを食べさせてやってくれ」

 隼人が責任持って魔力補充させる旨を言う。
こうして神父の戦いが始まった。
隼人の送り届けた赤ん坊の食事、すなわち魔物達をアメリカの研究所から帰してもらうところから。

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