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<第59話> 深夜の語らいとお客さん?! そして、


エネミア帝国から【地図上転移】で、お宿の部屋に戻って来た。

僕の右手には、あまり表情を変えた様子のない聖女ちゃんが両手でしがみついていた。

ミッションコンプリートである。

「タマー! 成功だよ! ありがとねー!」

『”アサメシマエ”ニャン。』

聖女ちゃんの手を振り払い、タマを左腕で抱っこし、仰向けになったタマのあごの下をコショコショするオッサン。

タマも”ブルルルグルルル”と上機嫌である。

オペレーション”聖女ちゃんを救え!”が成功し、ひたすらタマを誉めそやすネコミミオッサン。

今回の目的、救出対象である聖女ちゃんは、完全に放置なのであった。


タマと戯れること暫し。

ここで我に返ったオッサンは、今が深夜であることに気がついた。

(やっべ。こんな夜中に騒がしくしちゃ、迷惑じゃん。)

ということで、考える。

(そういえば、さっき装着した魔道具の指輪の中に、遮音の指輪があったよね。)

 遮音の指輪
   機能:装着者の半径1m程を無音にする
   素材:ミスリル(99.9%)
   末端価格:2,000,000【ネル】(200万ネル)

確か、こんな感じの魔道具だ。

(機能は半径1m程を無音にするだけど、障壁の指輪で悪臭をシャットダウンしたのと同じように、ちょっと機能を変えて、外に音を漏らさないってことにできないかな?)

そんなことを思いついたのだ。

このパターンは何回か体験した。

魔道具の指輪関係で、できるかどうか分からないことは、試してみる、とにかく実行あるのみである。

そっと目をとじ、障壁で音を外へ漏らさないようイメージする。

”見えないバリアで騒音シャットアウト!”

(ゲシュ〇ムフィールド展開! ガーレ・ガミ〇ン!)

悪臭対策の時と同様、余計な雑念を含みつつ、とにかく念じてみた。

今回も魔法的な障壁が張られる”ピーン”なり”キーン”なり、何らかの効果音的なものを期待したが、何もない。

2~3秒、自身の近傍の様子を伺ってみたが、雰囲気的には何も変わっていないようだ。

(よく考えたら、自分の周りから外に音を漏らさないって、自分では確認しようがないよね。)

そう考え、頼れる相棒にお願いする。

「ねえ、タマ。ちょっと僕から遠ざかって、僕の声が聞こえるか確認してくれる?」

『分かったニャン。』

お返事と共に、僕の左腕からスルリと抜け出し、部屋の一番奥、窓際まで遠ざかるタマ。

「お~い。タマ~。聞こえるぅ~?」

タマとの距離は2~3メートルぐらい。

そして、タマからのお返事はない。

”遮音の指輪で防音大作戦!”は、どうやら成功したようだ。

「タマ~、ありがと~。戻ってきていいよ~。」

そして、タマからのお返事はない。

”遮音の指輪で防音大作戦!”は、どうやら成功したようなのに、声が届かないタマに声をかけ続ける、間抜けなオッサンだった。


暫くして自分の間抜けさに気づき、直接タマを回収しにいくオッサン。

そしてずっと放置され、呆然と立ち尽くしていた聖女ちゃんに向き合い、まずは自分が何者なのか、自己紹介からはじめることにした。

ただし、自分から、”日本人だ”ということは言わない。当然、能力についてもだ。

(この見てくれ(ネコミミオプション付き)で、”日本人です”と言ったところで、嘘つきのレッテル張られるだけだろうしね。)

一般常識的に、ネコミミを付けた日本人のオッサンは、まず、お目にかかれないだろう。

(そして、能力については、絶対に黙っていよう。)


特に、

【ホームポジション】
    設定した場所への一時帰還ができる
        帰還時間は最大12時間
        1日1回操作者のみ帰還可能
        デフォルトで”自宅”が設定される

(特にこれ。こんなの下手に知られてみなさいな。日本に帰れると希望を持ったのも束の間、操作者(僕)しか、日本に帰れないという制限を知って、逆に絶望に追い落としそうだし……。)

(そんでもって、落ち込まれでもしたら、嫌だしね……。)


そんなこんなで(全てはあえて教えない)自己紹介をはじめる。

「改めて自己紹介します。僕は【アトラス】と言います。見ての通り、四つ耳族のオッサンです。」

聖女「……。」

「それと、ここは、”メーン”という国の”バンゴ”という街で、今はその街の、”巣ごもり亭”というお宿の5号室にいます。」

「さっきまでいた”エネミア帝国”の隣の隣の国かな? そんな距離感です。」

聖女「……。」

「あと、最初に言っておきたいことがあるんですが、それは私の能力のことです。」

「既にお気づきでしょうが、私は、ちょっとチート気味です。」

「あっ、チートって、分かります?」

聖女「はい。」

「それはよかった。ということで、これはお願いなんですが、私の能力等に関しましては、詮索無用、他言無用で、よろしくお願いいたします。」

聖女「はい。」

(あれ? 何かリアクション薄いな。聖女ちゃんって、こんな感じだったっけ? 精神的にキちゃってるのかな? それとも混乱中?)

僕を見ているようで見ていないような、そんな聖女ちゃんの様子を訝るオッサン。

(それにしても、やっぱり、一緒に異世界召喚された日本人の”あのオッサン”だとは気づいてないようだね。)

(見てくれ的にかなりトランスフォームしてるし、種族からして変わっちゃったもんね。)


そうこうしていると、聖女ちゃんからも自己紹介を受ける。

聖女「わ、私は、高橋 華恋(タカハシ カレン)と言います。こことは違う世界から強制的に連れてこられました。」

聖女「か、回復魔法が使えるので、あの国では、けが人の手当てをさせられてました。」

(ま、一緒に召喚されてるし、【地図上プレビュー】で覗いてたから、大体知ってますけどね。)

そんなことを思っていたら、聖女ちゃんの自己紹介は、どうやらこれで終わりのようだ。

そして、いきなり別の話、今までの会話とは全く無関係なことについて聞かれることになった。

聖女「そ、それで、そちらのネコちゃんについて、お聞きしていいですか?」

「え? ネコ? この状況で聞きたいこと、他にないの?」

(え? 今後の生活のこととか、もっと重要なこと、あるはずなんですけど?)

聖女ちゃんの質問に戸惑っていると、

聖女「え? ええ。そ、そちらの2匹のネコちゃんについて、お聞きしたいです。」

「え? 2匹?」

聖女「え? ええ。白っぽい子と、黒っぽい子がいますよね。」

「え? 白?」

タマのことだと思われるが、タマは2匹もいないし、白っぽくもない。

念話でタマに確認してみる。

(タマー、聖女ちゃんの言ってること、分かる?)

『タマの隣にいるニャン。』

(え? タマの他にもう1匹、いるの?)

『白くて茶色くて小っちゃいニャン。』

(白くて茶色い、小さいネコがタマの近くにいるってことで、いい?)

『そうニャン。』

どうやら、本当にネコが2匹いるらしい。

タマに詳しく聞いてみると、どうやら、この部屋の天井裏にいたらしい。

いや、いた、と言っても、既に実体のない地縛霊状態のようだが。

どうやら聖女ちゃんがこの部屋に来たことで、縛られた状態から解放され、自由に動き回れるようになったようだ。

今はタマの横で僕らのこと、というより聖女ちゃんを見ているらしい。

(僕にはタマしか見えませんけど。)

僕の目の前をお座りスタイルでフワフワ浮いているタマの周囲を見回すが、何も見えない。

(ていうか、この部屋をお掃除していた時、タマが”じぃー”と天井の隅を凝視していたのは、もしかして、それですか? 怖っ。)

家ネコが何もない場所を凝視していると、”それは幽霊を見ているんだよ”という冗談交じりの都市伝説を聞いたことがあるが、眉唾モノだと思っていた。

(少なくとも、タマには見えるっ。間違いないっ!)

ちょっと前に一躍時の人となった、一発屋気味のピン芸人のキメゼリフをパクリながら、”家ネコあるある”トピックを、そう締めくくるのだった。

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