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第87話

 次の襲撃についての話が一段落したところで、ナオは倉庫の二階へ行き、澄人がいる部屋のドアをノックした。

「澄人、少しいいでしょうか? お話があるのですが」

 しかし、返事がない。それどころか、物音一つしない。

「澄人……?」

 ドアの隙間から、部屋の明かりが消されているのがわかった。

 もしや、眠ってしまったのか?

 ナオは静かにドア開けてみると……部屋には、澄人の姿がなかった。

「澄人!?」

 ナオは思わず大声を出し、彼の名を叫びながら、倉庫内を走り回った。

「澄人、どこ!? どこですか、澄人!」
「ナオ、どうかしたのですか!?」

 04達が聞いてきたが、気が動転しているナオには、その声は耳に入ってこなかった。
 倉庫内を探し回り、澄人がいないことがわかると、ドアを思いっきり開け、外へと飛び出した。

「澄人――!」
「ナオ?」

 澄人は、倉庫の外――ドアの近くに置いてある、小さなコンテナに腰掛けていた。

「よかった。すぐに見つかって」

 04達も続いて外へ出て、澄人の姿を見て、安堵の息を漏らす。しかし、ナオはそれだけで済まず、心配した怒りを声に出してしまう。

「澄人! 勝手に外へ出るなんて、何を考えているんですか!」
「……ごめん。ちょっと外に出たくて……一人で考えごとをしたかったんだ」
「考えごとなんて――」

 そんなことは、部屋でもできるでしょうと言おうとしたが、そこで声を止めた。

 暗くて気づくまで少し時間がかかったが、澄人の目には涙が浮かんでいたのだ。

「なんで君達が、戦わなくちゃいけないんだろう……って」

 澄人は夜空に目を向ける。

「今、世界で起きている戦争も、この基地の襲撃も、もとはといえば、僕達人間が始めたことだ。それに、ヒューマノイドも、君達アーティナル・レイスも、こんなことをするために生み出されたはずじゃないのに……。今日この基地を襲ったヒューマノイドと、あの二翼のアーティナル・レイスだって、人間に命令されたから、攻撃してきたんだ。人間の命令さえなければ、こんなにたくさんの命が失われることにはならなかった。29だって、死なずに済んだかもしれない」
「澄人、もしかして……」

 人間を恨んでいるのか? と、ナオが聞く前に、澄人は首を横に振る。

「僕が今、何を考えたって――人間を恨んだって、世界は変わらない。次の襲撃だって、なくならない。それに、僕が恨みを持って生きるような人間になることを、はるは望んでいない」
「澄人は、いつも姉さんのことを想っているんですね」
「はるがいなかったら、僕はたぶん今日まで生きていなかったからね。僕は……とても弱い人間だから」
「そんなことはありません! 澄人はとても強い人です!」
「僕だって、そう思いたいよ。でも……悔しいけど僕はたぶん、誰かにそばにいてもらって、守られて、支えてもらわないと、生きていけない人間なんだ。はるがいなかったら、僕は孤独のまま死んでいただろうし、ナオがいてくれなかったら、きっと生きることを諦めていた。それに今日だって、みんながいてくれなかったら、もしかしたら殺されていたかもしれない」

 澄人は立つと、ナオ達の方を向いて、頭を下げた。

「ドタバタしていて、言うのが遅くなっちゃったけど……みんな、今日は守ってくれてありがとう。何かお礼をしたいところだけど、今の僕にできるのは、君達を治すことくらいだ。それで十分だって言ってくれるかもしれないけど、それだけじゃ僕は、君達へのお礼にもならないと思っている。じゃあ、何ができるのかってことになるんだけど……やっぱり、はるの願いを叶えるために生きることが、僕が君達アーティナル・レイスにできる、最大限の礼だと思う」

 全員が視線を集中させる中、澄人は自信なさげに視線を下げてしまう。

「……ごめん。『絶対に叶える』って言うべきなんだろうけど、今の僕には世の中を変えるような力はないし、さっき言ったように僕はとても弱い人間だ。ケガだって普通にするし、撃たれれば簡単に死ぬ。だから『絶対』とか『必ず』とか、簡単に言うことはできない。それは、あまりにも無責任なことだと思うから……。だけど、はるの願いを叶えるために、僕は精一杯のことをやるつもりだ。どんなに辛いことがあっても、ナオやみんながいてくれれば、これからも頑張れると思うんだ。その……つまり何が言いたいのかっていうと、これからもナオやみんなに側にいてほしい。だから……」

 その続きが発せられない状態で、三〇秒ほど時間が経つ。

 澄人が何を言いたいのか、ナオ達にはわかっていた。

『死なないでほしい』

 そう言いたいのだろう。しかし、それを言うことは彼にはできない。

 『絶対』とか『必ず』という言葉を、簡単に言うことができないのに、他人にそれを求めるのは、わがまま以外の何ものでもないからだ。

 そんな彼に、04が皆を代表して言う。

「澄人。私達アーティナル・レイスは、命令に一〇〇パーセント応えるように行動します。それが例え、どんな命令であろうと。ですが、それが命令による強制でなく、心からのお願いであれば――それが心から信頼できる人からのものであれば、私達は一〇〇パーセント以上の結果を出せるように、努力することができます」
「04……」

 下げていた視線を上げた澄人に、皆は彼に笑顔を見せた。

「澄人の言う通り、『絶対』や『必ず』と言う言葉は、簡単に言えるものではありません。しかし、約束はできます。私達は、あなたの願いに応えられるように、全力で戦い、あなたを守ります」
「みんな……ありがとう」

 涙をこぼす澄人。

 それを見たナオ達は、再度決心を固めるのであった。

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