バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第74話

 作業を再開した澄人は、皆に指示を出しながら作業に励んだ。けれど武装の修理が早く終わるということはなく、終わったのは結局、朝五時ぎりぎりだった。

「はぁー……なんとか終わった」

 額の汗を拭う澄人。

 昨日の時点で相当疲れていたのに、一睡もすることなく仕事を続けていた。そこまでして作業をしたのは、ナオの要求に答えるためだった。

「それでは、岩崎司令に報告させていただきます」

 にもかかわらず、ネイはそれだけ言うと、澄人に労いの言葉一つかけず、倉庫からとっとと出ていった。その態度にムッとしたナオは、追いかけて呼び止めようとしたが、

「う……」

 立っていた澄人の体勢が崩れそうになる。

 ナオはネイを呼び止めるよりも、澄人の体を支えることを優先した。

「澄人、大丈夫ですか?」
「ごめん…………すこし、寝るよ……」

 澄人はナオに支えられた状態でまぶたを閉じると、横になる前に寝息を立て始めた。

「みんな、澄人にベッドを」

 04が一声かけると、倉庫内にあるイスなどで簡単なベッドを入り口から離れた隅の方に作った。二階まで運ぶと、澄人を起こしてしまうと思ったからだ。

 作ったベッドに、二階から持ってきた布団が敷かれると、ナオはそこへ澄人をそっと横に寝かせた。

「お疲れ様です、澄人。ゆっくり眠ってください」

 ナオ達は澄人を起こさぬように、倉庫の中央辺りに移動すると、

「ナオ。澄人が寝ている間、他の武装の修理作業を進めておきましょう。そうすれば、澄人の負担が減ります」

 13が、そう提案してきた。しかしナオは、考えるように腕組みをし、すぐに返事をしなかった。

「ナオ、どうかしたのですか?」

 気になった04も声をかけてくると、ナオは組んでいた腕を解く。

「……すみません。私、ネイを追いかけます」
「理由は、澄人に労いの言葉をかけなかったネイの態度が、気にいらなかった……だけではありませんね?」
「ネイは、『岩崎司令に報告させていただきます』と言って出ていきましたが、報告するだけならば、メッセージを送れば済む話です。彼女が出ていったのは、別の――この場では言えないような理由があるからだと思います」
「確かに、最近のネイの行動には、怪しい点が多いですからね」
「ナオが言っていた、澄人の命が狙われているという話に、やはりネイが関係しているのでしょうか?」

 06と11が言うと32が「そうとはまだ断定できないだろう」と話に入ってくる。

「澄人とナオがここにきた時、ネイは澄人の身を助けた。もし彼女が澄人の命を狙う存在――もしくは関係しているのであれば、その行動は矛盾してはいないか?」
「もちろん、ネイが無関係である可能性はあります。ですが、最近の彼女の行動に怪しい点があるのが事実である以上、確認しなければなりません」

 倉庫の扉の方へ足を踏み出そうとするナオだったが、その前に13が「ナオは澄人の側にいた方が良いのでは?」と言ってきた。

「いいえ、私が行きます。私は澄人の施術で、身体能力が向上しています。万が一、ネイに見つかって、戦うことになった時、私なら非武装状態でも対処が可能ですから」

 澄人がせっかく治してくれた姉妹兄妹達に、危険を冒させたくはないというのもあったが、澄人の身を自分が守りたいという強い気持ちが、ナオにはあった。

「わかりました。ですが、十分に気をつけてください」

 ナオは13と皆にうなずくと、倉庫の外へ出て、ネイを探し始めた。サーチモードで探せば、おそらくすぐに発見できるが、ここは曲がりなりにも軍の基地。下手にそのようなことをすれば、すぐに探知されて騒ぎになってしまう。そのためナオは、記憶していたネイの足音を探ることにした。すると、それらしき音を見つける。

 ナオは警備しているアーティナル・レイスに見つからないよう、注意をしながらネイの足音を追った。

 仮に見つかっても、突然撃たれることはないだろうが、何をしているかは問い詰められる。そうなれば、ネイを探すどころではなくなってしまう。

 物影に隠れながら、ネイを探すナオだったが、途中あることに気づく。

(警備をしているアーティナル・レイスの数が少ない……?)

 ネイは昨日、明日――すなわち、今日以降に敵が襲撃してくる可能性が高いと言っていた。そしてその情報は、偵察部隊からもたらされたものだと。しかし、それにしては警備にあたっているアーティナル・レイスはさほど多くなく、兵達のほとんどがまだ眠っている。敵が襲撃してくるという情報があったにしては、緊張感があまりない。

 嫌な予感を抱きながら、ネイの足音を追い続けていると、基地の中でも海に近い倉庫の裏に、ネイがいるのを見つけた。

 気配を殺し隠れながら、近くにあった木箱の影で身を潜めるナオ。すると、ネイの小声が耳に入ってきた。

「…………はい。そちらの準備は…………」

 誰かと通信で話をしているようだ。

 ナオはその内容を聞くため、聴覚センサーの感度を上げた。

「こちらも、柳原澄人様が作業を終了しました。……はい……承知いたしました。では一七時、まずはヒューマノイド部隊に、この基地を襲撃させるということで……。その際に柳原澄人様も、標的の一人にされるのですか?」

(やっぱり……!)

 ネイは敵と繋がっていた。

 ここにきた初日に、ネイがなぜ澄人を守ったのかは不明だが、少なくともこれで、彼女が敵側であるということは確定した。加えて、ネイが今話している人物は、おそらくはるを捕らえている者か、その者と関係のある者だ。

「……かしこまりました。では、第二波――ルシーナと同時に投入する部隊に、柳原澄人様を――」

(ルシーナ……?)

 ナオには聞き覚えのない名前だった。

 敵のアーティナル・レイスの名前か? それとも何らかの兵器か?

 もう少し情報がほしいと、ナオは思ったが、

「では、計画は予定通りに」

 ネイはそこで会話を終えてしまったようだ。であれば、長居は危険だ。

 ナオは、すぐに――足音を立てることなく、その場から離れ、倉庫へと戻っていった。
だが…………。

「……ご命令通り、02に聞かせました。これで他の先行量産型と柳原澄人様の耳にも、今の情報が入り、襲撃に備えて準備を整えることになるでしょう。……はい、私も離脱します。このアーティナル・レイスの体は、この場に放棄します。遠隔操作のテスト結果は、後ほどお送り致します」

 直後、ネイの体は糸が切れた人形のように、その場で倒れた。

しおり