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117話 エルフ解放作戦

「ただいま」

 シュタッーーとお姉ちゃんが木から降りて来た。何ソレ! カッコイイ!!

『うにゃん!』

 アイギスもおかえり~♪
 ん~もう、そんなにおでこ擦り付けて来て可愛いなぁ。

「で、どんな感じだい?」

 メッサーさんが待ちかねてたように問う。端的に。
 こういうざっくりとしながら本質を突くような質問にはあたしは答えられないなぁ。相手がどんな答えを待っているのか、きっちりと悩める自信があるわ。

「何ともお粗末だね。ハッキリ言って警戒はゆるゆる。今、一発魔法をぶち込めば敵は大混乱間違いなしさ。エルフの捕虜たちも一か所に纏められているから、救出するのならあまり手間は掛からなそうだったよ。三組に分かれて睡眠を摂っているみたいで、敵の中で実質戦力になるのは三百くらいだと思う。それと、ここには例の召喚者らしき少年はいなかったね。帝国に戻ったんだと思う」

 ふうん? 里を制圧して気が緩んでるのかしらね。まあ、それならそれで楽が出来そうだけど。

「でも、一部、女のエルフは悲惨な事になっているよ」

 帝国兵がいるであろう方向へ視線を向けながら、お姉ちゃんが絞り出した言葉。
 詳細は語られていないけど、その場にいた全員が理解した。戦に負ければ当たり前に待っている運命。だからと言って納得できるかと言われれば否だよね。あたしだって女だもん。
 
 重い空気に包まれる中、レン君がスッと立ち上がり、雷電の柄に手を掛けながら言った。

「そんな目に合っているのがいるんなら、ちゃちゃっと済ませちゃいましょう。エルフは気に食わないが、それと外道を見逃すのは別の話だ。エルフの連中は助けてからたっぷり土下座させればいい」
「またレンはそんな凛々しい顔でそんな素敵な事を。ほら、皆さん、レンが燃えていますよ!行きましょう!」

 まったくこの(ヒメ)は……
 ホントにレンが絡むと周りが見えなくなるというか。メッサーさんもお姉ちゃんも苦笑してるよ。でもレン君の意見には同意。

「じゃあボクの後を付いて来てね。ちょっと見晴らしのいい場所に案内するよ」

 そう言うお姉ちゃんが進む道は、やや勾配のきつい坂。いや、道なんてないんだけど、とにかくその坂を登っていく。ホント、よく迷わないと思うわ。月明りさえ僅かに注ぐ程度の暗い夜の森。方向感覚だってもう分からない。

 そしてきつかった勾配がややなだらかになった頃。

「見えるかい? ここから里の全容が一望出来るんだ。ここはボクだけの秘密の場所。独りぼっちだったボクはよくここに来て、他のエルフの視線から逃げてたんだ」
 
 そういうお姉ちゃんの表情は夜の闇に染まり、窺い知ることはできなかった。

 眼下には、辛うじて松明や篝火の明かりで集落が形成されている事が見て取れる。
 ここで独りぼっちだったお姉ちゃんは、里を見下ろしながら何を思っていたんだろう? スリークオーターエルフのお姉ちゃんは、きっとこの先も長い人生が待っているだろう。
 あたしが一緒に居れる間はあたしが笑顔にしてあげるんだ!

 それにしても、ここから下は切り立った崖になっている。踏み込もうにもちょっと無理じゃないかな。

「へえ……崖を背後にして里を作る、か。天然の要害になってる訳だ」

 またレン君のインテリジェンスが炸裂するのかしら? ほら、ヒメがなんかワクワクしてるよ?

「でもまあ、ここから攻めたらこれ以上ない奇襲になるけどな。ラーヴァさん、人質たちはどこに?」
「ん? ああ、この真下、崖を背にした場所に里で一番大きい屋敷があるんだ。そこにいるよ。ま、ボクの家というか、長老の屋敷なんだけどね」
「それじゃあ一番奥に見える篝火の所が里の入り口かな?」

 ここから見ると二つの篝火の明かりが奥にあるのが分かる。

「そうだね。あそこが里の入り口になる。森に巣食う魔物が入り込まない様に、簡素な柵と門で囲っているんだ。でもその柵も帝国にかなり破壊されたみたいだね」
「なるほど……」

 ひとしきり顎に手を当てて考えてたレン君だけど、名案でも浮かんだのかメッサーさんに視線を飛ばした。

「メッサーさん、この崖下から上昇気流を生み出す事は出来ますか?」
「……!? まさか、君はここから飛び降りて奇襲をかけるつもりかい!?」

 僅かな沈黙のあと、メッサーさんがレン君の意図を汲み取る。
 そっか。そもそもここからの襲撃なんて想定されてないんだ! だから長老の屋敷もこの直下にある訳で、外部からの攻撃に関してはこの崖を背にした場所が一番防御が高いと思われている(・・・・・・)

 ……でもね。この崖、すっごい高いよ?

「さっき、ラーヴァさんが木から降りて来ましたよね? あれって単純な身体能力だけじゃないんじゃないっすか?」
「うん。エルフなら幼い頃から覚えさせられる技術なんだけど、風魔法で着地の衝撃を和らげたり、跳躍の時に風でアシストしたりするんだ。ただ風を起こすだけだからそんなに魔法の才能は必要ないみたいだよ? でもどういう訳か、森の中でしか使えないんだ。もしかして、エルフという種族固有のスキルなのかも知れないね」

 へえ。どこでも使えるなら戦闘の時すごく便利なのにね。残念。

「メッサーさんなら、俺達全員に同じ事を出来るんじゃないですか? 風の天才魔法使いのメッサーさんなら、ね?」


 やはり夜の闇はレン君の表情を覆い隠す。でもこれ、絶対ニヤニヤしてるわよね。

「む。まさか君に挑発されてしまうとはね。くくくっ。いいだろう、みんな、私に命を預ける覚悟はあるかな?」
「もちろん!『にゃ!』」
「私はレンと一緒なら何処へだって!」
「ボクは自力で行けるかな」

 決まりだね!

「ははは。なんて物好きばかり集まったパーティなんだ。それなら詳細を詰めようか」

 こうしてあたし達は、エルフの里解放夜襲作戦の段取りを詰めていった。

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