異世界人、失踪する(前編)
「お、噂をすれば帰って来た?」
窓の外、会社に戻って来た社用車にボクは声をあげる。
朝、ブリキの運転でユーさんを乗せて出ていったものだ。
その時は、ややブリキが不機嫌な表情だったのが気になったが、果たして。
車から降りたブリキは意気消沈と言った表情。そして、いつまで待ってもユーさんが車から降りてくる気配がない。
何があったんだろうとボクが思うより早く、異変に気付いた工場長がいち早く飛び出していた。
「ユーちゃんがいなくなった、ってどういう事!?」
「その、自分は会社に必要ないと……出ていきました」
「必要ない!?そんな訳ないでしょう!!彼が来てうちの会社がどれだけ……」
「その結果、古参がないがしろになっても、ですか?」
「えっ?」
「どいつもこいつもユーとか言う奴の事ばかり!もう、うんざりだ!!」
「鉄ちゃん……」
工場長が絶句する。
ブリキが怒るのは珍しくないが、彼女相手にここまで声をあげるのを見るのは初めてだ。
「だから奴に勝負を挑んで、それで派手に負けて心置きなくこの会社を去るつもりだったのに」
「でも勝負はユーちゃんが負けた。恐らく、わざと。そして彼は姿を消した、と」
工場長の問いに、ブリキが驚いた顔をした後に無言で頷く。
「大体の事情は分かったわ。
それ、私の責任でもあるわね」
えっ、今の話で分かっちゃうの?!
えっしかもそれ、工場長の責任なの!?
ボクにはさっぱり理解出来ないんだけど。
「とりあえず皆を集めます。
その場で、今の話をしてちょうだい。
多少感情的になっても良いから、事実を包み隠さずにね」
工場長が優しく、そう言った。
「あの……ブリキを責めないんですか」
「責められるべきは、むしろ私」
尋ねるボクに、工場長は淡々と答える。
「それにしてもユーちゃんが失踪、か。
その可能性、想定するべきだったわ」
一同が集められた場でブリキは、今までの経緯を淡々と皆に話す。
まずブリキがユーさんを異端として疎ましく思っていたこと。
まあこれについてはボクも、そして他のみんなも薄々気づいていた。
最初に会ったときからそりゃもう、気に入らない態度アリアリだったから。
それでも工場長が必要と思えばこそ、今までは我慢していたらしい。それくらいブリキは工場長に、恩義を感じる過去があるのだと言う。
それがどんな物なのか、本当に恩だけなのか或いは恋愛感情のような物が芽生えてたのどうかが気になったが、それ突っ込むとまた奴が怒りそうなので黙っていた。
まあ、それでもブリキのユーさんへの悪感情は、もし仮にユーさんが目立った活躍をしなければここまで膨らむことがなかった、らしい。
しかし実際はユーさんが次々新しい能力を覚えて会社の危機を救い、注目されることで自分と比較し、一方で目立った活動が出来ない自分に嫌気がさしてくる。
劣等感に苛まれる毎日を過ごしていた矢先に、直近の例の事件、新製品発表会の誘拐騒ぎだ。
あの時ブリキがあの場に居なかったのは皆との、特にユーさんとの同行を断り会社で一人留守番してたからだ。
そしてユーさんが、時任チタンさんに嫌われると言うハプニングを除けば、またもや今回も大活躍。これにブリキの堪忍袋とか、色々な物が切れた。
半分自棄になってユーさんに勝ち目のない神具の勝負を持ちかけ、すっぱり負けて会社も辞めるつもりでいたらしい。
しかしユーさんは明らかに手加減をし、そしてわざと負けたらしい。
去り際に、こう一言言い残して。
自分みたいな他人に迷惑かける
「チタンさん、さっきはああ言ったけど、あれでどうやら貴方の件も少し尾をひいてるみたい」
「えっ、ええっ?」
いきなり工場長に話題を降られ、狼狽する時任チタン。
「ユーちゃん普段顔に出さないから気づかなかったけど、あれでメンタル豆腐だったみたいね。
チタンさんや鉄ちゃんの件を、自分がいなければ丸く収まると思ってしまった」
チタンさんとブリキはその言葉を聞いて無言になる。
「ほら二人とも落ち込んでる場合じゃない!出掛けるわよ?」
「いや出掛けるって……」
「ど、どこにですか?」
「決まってるじゃない、ユーちゃんを探しによ」
工場長は利き腕を掲げ、高らかに宣言する。
「このまま永久失踪なんてさせないんだから」
「しかし工場長さん、手がかりはあるんですか?」
チタンが尋ねる。
「はい、そこでユーちゃん大好きのナマリちゃん、彼の行き先に心当たりあるかしら?」
「えっ、う、うちだか?ええっとー」
いくらナマリさんがユーさんが好きと言っても、流石にこれは無茶ぶりが……
「実は……無くも、ないだよ」
えっ本当に?
愛の力ってすげー