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友達増えた

 魔物の森の近く、丘の上の一軒家には魔術師が住んでいるのは有名だった。
それも当然村が飢餓に陥ったとき、村が魔物に襲われた時、助けてくれた英雄だ。
 宮廷魔術師が自ら交渉に来るほどの。

「ハヤト、約束の獣人です」

 宮廷魔術師セラフィードが言う。
檻に入れられた数人の獣人に、ハヤトは目を細めた。

「初めにしては上物だ。よくこんなに捕らえてきたな」
「同量のチョコレートと交換してもいいと言われましたからね。眠らせておきましたから、後数時間は目覚めません」

 ロビーは獣人を抱き上げ、次々と家の中に入れた。
 出るときに、大量のチョコを持ってくる。

「しかし、これは一生かけても食べ切れんな。ああそうだ、輸血パックも持っていってくれ」
「これは…ずいぶんな量になりましたね。命がけで捕らえた甲斐がありました」
「正面から戦ったのかね?眠り薬を塗った矢を使うとか、眠りの魔法を使うとかできんのかね」

 ハヤトが聞くと、セラフィードはこくりと頷いた。

「そうしたいのですが、中々素早くて…ああ、授業で使う道具を持ってきました」

 ハヤトは渡された杖などの授業用の道具一式と書類を受け取った。

「改良できる所はして置こう。そちらの技術で出来る範囲でな」
「ありがとうございます」

 セラフィードは若干の屈辱を込めて言った。
 セラフィードが帰ると、ハヤトは獣人達の首に首輪をつけた。
 丘から出ようとすると引き戻されるように設定され、ハヤトがスイッチを入れると電流が流されるようにされた首輪だ。
 全員を別々の部屋に閉じ込めると、ハヤトは時計を見て、部屋に入った。
 出てきたとき、ハヤトの甥、タケルを伴っていた。

「今回の獣人達は、人を食べて、争いあってるんですよね……」

 難しい顔でタケルは言う。

「そうらしいな」
「どうすれば彼等の心を開き、毛を刈らずに済むんでしょう…」
「それは難しいと思うぞ。放射能を防ぐから、獣人の毛から作った特殊スーツで原子力発電所の作業員の命が助かる。ゲイルがそれだけは最優先で頼むといっていた。まあ、今日はゆっくり休ませてやろう、浚われてきたのだ、疲れているだろう」
「ハヤト、放射能を防ぐ材質ぐらい作れないんですか」
「それはこれからの研究しだいだな。こちらの研究所も拡張したいし、人手は集まったしな」

 ハヤトはいった。
ハヤトは魔法を使わない。使うのは科学だ。ハヤトは「異国」の科学者だった。
獣人とは人の突然変異で、狼に変身でき、人の心を読み、人を食べる生き物だった。
生まれつきから獣人のものもいるが、元は人だったものも多く、その苦労は想像を絶するだろう。
タケルは肉料理と魚料理、野菜料理、輸血パックとジュースを用意し始めた。
何を好むかわからない為、全て出すつもりである。
風太に使いに生かせて、現地のスープを買い取ってきて持った。
豚肉をそのまま切った物、焼肉、ご飯、焼き魚、パン、ミルク、火トカゲの丸焼き、サラダを用意して、輸血パックの血液をそのまま入れたコップとジュースで薄めた物、水を用意してそれぞれの部屋に置く。その間、獣人のままに気絶している者は毛皮の手触りの違いの確認と毛布をかける事も忘れない。
ハヤトも研究資料として少しずつ毛を切って試験管に入れ、検査機器にかけていく。血液を少し取り、唾液を摂取した。
それぞれの部屋には、シャワー室とトイレが完備してあった。
服の入れてある戸棚も隠し扉で用意してある。
わかりやすく絵で使用法を描いて部屋に張っておく。
そうしてタケルとハヤトは一晩眠った。
 朝早く、獣人達の様子を確認すると、もう起きだしていた様だった。
 ハヤトとタケルは、食事風景を見る。
 一人目は、ハヤトとタケルの事をガラス越しに睨んでいたが、タケルのでれでれとした顔を見ると、戸惑ったような顔をしてから食べ始めた。姿は獣人。灰色に近い青い毛皮の持ち主だった。
 二人目は、もう全て食べてしまって寝ていたのでドアを叩いて起こす。こちらも姿は獣人で、獣のように丸まって寝ている。灰色に白が入り混じった模様の毛皮。
 三人目は、赤毛の細い目をした人間の姿の青年で、壁に寄りかかって血だけを飲んでいたが、一言だけ言った。

「獣化はしませんよ」
「後で髪の毛を少しと獣化した後の毛を少しだけ欲しいんだがな」

 タケルのがっくりした顔を眺め、ハヤトの声を聞いて慎重に頷いた青年は、食事にも手を伸ばし始めた。
 四人目は、何も食べずうずくまっていた。これは問題である。こちらは茶色い色の毛皮で、幼児だとわかるほどに小さい。
 五人目は、人の食べ物だけを食べていた。これは人の姿で、水色の髪の少女だった。隼人達が来ると恥ずかしそうに毛布を体に巻きつける。
 食事風景だけでも、大体の事がわかるものだ。
 ハヤトは部屋に放送を入れた。

「あー。君達を買い取ったハヤトだ。協力すれば殺しはしないから安心しろ。まずはシャワーを浴びてくれ」

 まるっきり悪役の台詞をハヤトは言って、シャワーを自動で出す。
 全員が、それに従ってくれた。
 綺麗になったあと、隠し扉をハヤトは開けて、服を着るように言う。
 これもほとんどが着てくれたが、二人目の獣人が着ない。しばらくすると、何かに反応してようやく服を着た。

「なんとなく、テレキネシスかも知れんな。全員かはわからんが、そんな予感がする」

 ハヤトがいい、タケルが頷いた。

「そうですか。ところでハヤト、血以外で代用はきかないのですか?血を飲めない子が」
「わかっている。最優先で開発を急ぐが、それには体を調べる事が重要だ。血だけで生きていける事はシバイが証明しているが、血のどの成分が必要なのかはまだ判明していないからな。そちらはゲイルと共同してやってるから早くできるはずだ」
「お願いします。私は四人目の子の所へ行って来ます」

 ハヤトは、タケルの言葉にしばし考えた。

「わかった。行ってこい」

 タケルが部屋に入ると、茶色の毛皮の獣人はびくっと震えた。

「私が怖くありませんの……?いいえ、怖いはず無いですわね。獣人を従え、ヴィレッジイーターを倒すような魔術師さまだものね。私はこれからどうなりますの……?」
「ここで暮らすか、ゲイルという人の所で暮らす事になります。貴方の名は?」
「ケティ」
「ずいぶん育ちがいいですね。どこの生まれですか?」
「お父様はティガレンス王国の宰相よ」

タケルの動きが止まる。ティガレンス王国。この国の名前である。

「さ、宰相の娘さん……。わかりました。少しでも待遇が良くなるよう、全力を尽くしますから、とにかく食事をしてください。パンがいいでしょうか?おいしいですよ」

 タケルは言って、大急ぎで戻った。

「ハヤト!すぐに血をそれ以外の食べ物でも済むか人間に戻れるようにしてください」

 タケルとの会話をモニターしていたハヤトも、汗を流した。

「前者は研究が大分進んでいるからなんとかなるが、後者はいつ表に出るかだけで元からだと思うぞ。ディーンや他の者の遺伝子を調べた時に発見したが、元からそういう要素があるんだ。治すのは難しいな」
「どうしましょう、ハヤト。宰相の娘ならそれ相応の場所にやらないと」
「仕方ない。獣人のデータをゲイルに全て公開して、協力を仰ぐか」

 ハヤトは研究室に向かった。
ESP研究所につなげると、単刀直入に言う。

『ゲイル。どうせもう気づいているだろう。地球上にシバイの故郷が無い事に』

 ゲイルは、驚いたような顔をして言う。

『案内してくれる気になったかい?』
『誰が。だが、この国の要人に獣人が出てな。宰相の娘が連れられてきた。信用できる要人はいるか。それと、共同研究をして明日までに血液を使わない錠剤を作りたい。こちらの渡せる獣人のデータは全て渡す。現地人のデータもな。そちらも全てのデータをよこせ。共同研究だ』

 ゲイルは、考え込むように言った。

『そのお嬢さんを預かれば、こちらとしても借りはできるんだろうね?』
『ああ、借りにしていい』
『度量が大きくて心優しい貴族を知ってるよ。好奇心も高くてシバイのファンだ』
『十分だ』

 そして狂科学者達は研究に入った。
 タケルは、その間ケティを連れて研究所をあちこち見せてやっていた。

「ほら、凄いでしょう。ロビーって言うんですよ」

 その時、風太が帰ってきて獣人達が騒ぎ出す。

「ただいま。これで召喚できないって…その子は?」

 風太が聞くと、ケティは脅えて声も出せず、震えている。

「ケティ、こちらは風太。うちの子です」
「この子が、魔術師様の従えた妖魔…?」

 ようやくケティが声を出すと、風太は優しくケティの毛皮を撫でた。

「従えたんじゃ無くて、親子になったんだよ。ケティ」

 ケティが恐る恐る手を伸ばす。子供達は、楽しげに遊びに行った。
 タケルは出勤の時間が迫っている事に気づいて、ハヤトに送ってもらいに走る。
 翌日には、ケティは薬を持ってイギリスの貴族の所に送り出されていた。
 ハヤトはその旨を手紙に書いて送る。その後、獣人達の所に向かった。

「人を食べなくても生きていける錠剤を作った。獣人が必要とする栄養と思われるものを抽出したものだ。飢えが出るか、試してみてくれ」

 今度は、直接全員に言って回る。
一人目の獣人は声をかけても知らない振りをしていたが、二人目の獣人に同じことを話すと、一人目の獣人がドアを叩いた。

「本当に効くのか!」
「それを試して欲しいと言っているんだがな」

 ハヤトはそれで二人目の獣人がテレパシストだと確認を取った。
 こうなると、話し合ってくれるから後は早い。
 錠剤を素直に受け取り、飲んでくれる。
 食事も素直にしてくれるようになって、ハヤトは一息ついた。
 問題は、これからである。
ハヤトは五人目の女の子の所に行った。

「君も貴族とかいうのじゃなかろうな。名は?」
「ちがうわ。私の名はアリア」
「アリア。来てもらおう」

 アリアは観念した様についてくる。
ハヤトが様々な検査をすると、目を白黒させた。

「飢えが起こっていないという事は、錠剤は効いている様だな。まだしばらく様子を見ないとわからんが。とりあえず料理は出来るか?」
「はい。出来ます」
「なら、他の獣人の食事を頼もうか。風太」

 ハヤトが呼ぶと、アリアは恐ろしげな声で言った。

「フェイクキッズ……」
「心配しないで。僕は誰も襲わない。僕らの用意できる食材で、君達が食べられるものを作って欲しいんだ。お願いできるかな?材料の手配と、台所の使い方を教えるのは僕がやるから」

 アリアは、頷く。

「よし、食事係は決まった。次は獣人三人か」

 ハヤトは、手っ取り早く二人目の獣人の前でやってほしい事を念じた。

「やってもらえるかね」

 獣人は、こくりこくりと頷いた。なので、ハヤトは扉を開ける。その時、ハヤトに飛び掛る獣人がいた。三人目の獣人だった。

「ずいぶん無用心ですね」
「外で生きるよりこちらで生きる方が楽だとすぐ理解できると思ったからな。名は?」
「名乗る前にお前が名乗りなさい。ケティ様は何処に行きました。一瞬で気配が消えた」
「わしはハヤト。ケティは外国に送った。望むならお前も送ろう。二度と戻ってこれんがな」
「確かに、ケティ様を一人にしておくには忍びない。ですが、アリアやドロスやヨアートも守りたいのです。私は軍人のダナイ。こんな姿になってしまいましたが、夜盗を襲って生きていました。誇りは捨てていないつもりです」

 爪を突きつけて言うダナイ。いつのまにか、一人目の獣人も爪を突きつけていた。
二人目の獣人は、目をきょとんとさせている。

「ならば、見張っていればいい。何をさせたいかはわかるだろう。そう悪い条件じゃないと思うがね」
「世界征服が悪い条件ではないと?」

 ハヤトは、それに目を鋭くして言った。

「ディーンと風太が、この世界を愛しているうちはいい。その力も無いしな。何、研究所の助手をやったからと言ってすぐにわしがそれだけの力を手に入れられるわけでもない。その時がきたら、嫌だと思えばわしを殺せばいい。簡単には殺されんがな」
「………」

 獣人の背後で、フェイクキッズが居合い切りの準備をしていた。
ロビーも無論、照準を合わせている。

「……選択肢はないようですね。仕方ありません。貴方に従いましょう。そうそう、頭以外の毛は刈っても構いません。それで助かる人が出るのでしょう。タケルからセクハラもされないようだし」


その後、帰ってきたタケルは号泣した後カメラ片手に耳だけ変化を頼み込むのだが、それはまた別の話である。



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