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閑話の一 平和な光景?

小話一

 目の前に広がるは、長閑と言うに相応しい光景。
 水網都市ネツィアの住宅街の外れに設けられた公園は、降り注ぐ日差しに程よく暖められた潮の香りを含んだ風が談笑する住人達の間を緩やかに吹き抜けていく。
 まさに平和という表現そのものだが万事そうであるように例外も存在する訳で、その例外のひとつである少年二人組は穏やかに陽射しを満喫する住人達とは対照的に微妙な緊張感を持って向かいあっていた。
 二人の間にある石で造られたテーブルの上にはラズの手による物と思われる三種類のお菓子が並べられていた。
 その内の一つを手に取ったファルがそのままそれを口に放り込むと、暫しの間、無言で口を動かすのに専念する。
「ラズ」
「なんだ?」
 ファルの短い呼びかけに、相棒がやや緊張した様子で応じる。
 それにつられた訳ではないだろうが、ファルが判決を告げる裁判官の如く重々しい表情で頷いて見せた。
「これ、美味しくない」
 いつになく真面目な表情でラズを見ながら、今食べたお菓子を指差してきっぱりと言い切る。
 遠慮の欠片もない親友の感想にラズの眉が片方わずかに動くが、ファルはそれを気にせずに次のお菓子へと手を伸ばす。
「これも今一つだな」
 首を横に振り、不合格の判定を下す。続いて最後のお菓子を口に放り込むが、やはり及第点に達することはなかった。
 結局三つとも駄目を出されたラズは少しの間面白くなさそうに頬を膨らませていたが、すぐに大きく息を吐いてテーブルに頬杖を突いた。
「ちぇ。結局今回も全敗かぁ」
 ぼやきつつファルが最初に食べたお菓子を自分も食べて、顔をしかめる。
 確かに美味しくない。お菓子なのに甘みが薄い上になんだか苦い。そして何故だか僅かにぴりぴりとした刺激を感じる。
 用意した材料に刺激物などなかった筈であるが、謎は深まるばかりである。
「確かに美味しくないな、これ」
 お菓子造りは難しいと大きく溜め息を吐く。
「なあ、ラズ。今に始まったことじゃないけどさ、何でお菓子だけはこんなに失敗するんだ?」
 不貞腐れる相棒の顔を、ファルが不思議そうに覗き込む。
 傍から聞いていると喧嘩を売ってる様にも聞えるが、ファルとしてはただ単純に不思議なだけだ。もっとも、他の料理や創作の料理は作り方を教わらなくても失敗しないのに、お菓子になると作り方を教わっても失敗する確率の方が高いとなればファルでなくとも不思議に思うかもしれないが。
「もしかして、ラズの性格のせいだとか?」
 なんてね、と笑う相棒の頭をラズが素早く殴り付けた。
「痛いなぁ。殴ることないだろ。冗談なのにさ」
「うるさい。つまらない冗談を言うからだ」
 殴られた箇所をおさえて文句を言うファルに、ラズがつっけんどんにそう返す。
 そんな事より、他に気になったことを言えと言われるが、そう言われてもなぁと視線を空へと向ける。
「ぼくは料理はさっぱりだしなぁ」
 薬品を混ぜたりするのは好きなんだけどな、と腕を組んで唸る様子に、言い出した側も確かにと頷く。
 目の前の問題児と料理、これほど周囲の不安を煽る組み合わせも、あまりないであろう。
 物心かつくかつかないかの頃からラズの家に出入りしているのに加え、自分の家も自家製のお菓子をお客に出す喫茶店である分、実のところ下手な金持ちよりも味に敏感なファルだが、だからと言って料理が得意かと言うと、それとこれとは話が別だ。
「一層のことさ、お菓子は諦めるとかは?」
 考えてたどり着いた結論がそれらしい。解決策になってない上に、やはり微妙に喧嘩を売ってる様にも聞こえる。
 今度はラズもそう受け取ったのか、大きく溜め息を吐いて拳を振り上げた。
 それを見て冗談だよと誤魔化す。
 青空を横切る海鳥が小馬鹿にしたかのような鳴き声あげるが、果たして偶然てあろうか。
「でもまぁ、お菓子以外の料理は美味しいんだし、それだけで十分だと思うけどなぁ、ぼくは」
「確かに困らないけど、なんか悔しいんだよな」
「ならさ、今度エイル兄ちゃんと一緒に作ってみれば? ラズいつも作り方聞いたらあとは一人でやってるし、たまに誰かに見て貰うと上手く行くかもしれないよ」
「エイル兄か。確かに丁寧に教えてくれるだろうけどなぁ」
 ファルの上の兄の名前を聞いて、目線を宙に投げて悩む。教えてくれるのは間違いないであろうが、一通りからかわれるのも確だろう。親しい相手に何かを教わると、嬉しくないおまけがついてくるのは必然だ。
「まぁ仕方ないか」
 頭を一つ振ると、テーブルの上のお菓子を片付けて立ち上がった。
「え、ぼくも一緒なのか?待ってよ、ぼくの都合は?これから調べ物しようと思っていたんだけど」
「知らん」
 返事は一言で返ってきた。返ってきたが、自分の都合を一言で流されたファルは、流石に面白くない。さっさと歩き始める親友の背中を睨んで息を大きく吸い込むと、
「お菓子が下手なのはやっぱりラズの性格が原因だ。性格直せっ」
 思い切り悪態を吐く。もちろんそれで黙っているはずのないラズがくるりと振り向いた。
「良い度胸だ。そこを動くなよ、ファル」
 大きく舌を出すファルに、ラズが笑顔で拳を鳴らす。そして始まる追い掛けっこ。
 突然の騒ぎに何事かと顔を見合わせる大人達等気にも止めず、賑やかに口喧嘩を繰り広げながら公園を後にする。
 賑やかな事この上ないが、それも平和と言えば平和だろう。結局、いつも通りの光景なのだから。



組み合う二人に7のお題~一.見慣れた二人~より

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