第一話 死、そして生と新たな戦い
220年冬。中華は多くの英雄が死に、
関羽と関平は魏と呉の同盟により荊州を攻められ敗れた。
赤い甲冑を
しかし、両手を縛られていた二人は。
「この関羽! 孫権などの狗に天下の虎である儂が仕えるか! 殺せ!」
「父上、死出の旅時、お供致します」
呂蒙は二人の仕官を諦め。
「武人の情けだ。辱めぬ様に殺せ」
処刑の命令を出すと屈強な処刑人が刀を振り下ろして、五十代半ばで関羽と義理の息子、関平は首を刎ねられて三十代半ばで生涯を終えた。
関羽と関平は死して七色の眩い光に導かれ、天上界に向かい彷徨っていたのだが、目の前に金色の龍神が現れて話しかけてきた。
「関羽。そなたは天上界で神にするが関平はまだ、未熟故、過去の中華に転移させる。関羽よ。人が神に成るのに不要な武勇と知略、経験を関平に与えても良い。その代わり、そなたの右腕を我に差し出せ」
「父上。お止め下さい。この龍神では無く妖怪では無いでしょうか?」
「わっはっは。龍神よ。お主の申し出受けようぞ。既に儂は死んでいる。何の事はあるまい」
「良くぞ申した」
関羽の右腕が無くなると関平は身を裂かれそうな痛みと魂が異様に高揚していくのがわかる。
いつの間にか龍神が消え新たに関羽の右腕があり、更に一振りの黄金の
「関平。どうやら龍神と一体になったらしい。では過去の中華に行くが良い」
「父上!」
神となった関羽が関平の前から消え突然視界が変わり大きな門の上から目の前を見渡すと晴天の青い空と大地に少し雪が残っていた。
眼前には二十万人以上の様々な色の軍旗を靡かせた諸国の軍勢の兵がいた。
慌てて門の上にいる黒い甲冑を纏った近くの兵に尋ねると。
「此処は
華雄! 確か父上に討ち取られた
何より若造だと? しかも、俺があの虎牢関の戦いがある三十年程前の時代だと?
何故か? 右腕に持っていた父上と同じ青龍刀の刀身で顔を見ると姿は緑色の甲冑を纏い十代半ばの若き日の己自身である。
騒ぎを聞き付けて来た者達の中に長い髭面で、やはり、黒き甲冑を纏い父上や張飛様より巨漢で熊の様な四十代前半くらいの武将が兵を連れて来た。
「何を騒いでおる!」
「華雄将軍! この者、間者かも知れぬのです!」
「間者だと! 良い度胸だ! とりあえず死ねや!」
華雄は大きな
だが、青龍刀を右腕で振り払い矛を弾き飛ばした。
これには華雄や周りの兵、そして関平自身驚いた。
「わっはっは。若造。儂の打ち込みを弾き飛ばすとは、まるで
「華雄様。俺の名は関平にございます」
「面白い。腕の立つ豪傑は大歓迎だ。共に
華雄は遊牧民出身の将軍であった為、強さこそが己を証明とする全てだと考えている。
その日の昼、華雄率いる三万人と共に出陣した。
華雄軍と連合軍が万の軍勢で戦いを始めた。
華雄は矛を振り回して馬乗に乗りながら敵兵の頭を撥ね飛ばし、また、胴体を斬り裂いて縦横無尽の如く戦っていた。
関平も返り血を全身に浴びる程、敵兵の主に腕に狙いを付けて斬り飛ばす。
そんな中、華雄の勇名は中華に轟いていたのだろう。
次々と連合軍の猛者が一騎討ちを申し込むが返り討ちにした。
やがて……。
関平と同じく緑色の鎧を着た長く美しいくらい整った黒き髭をしている虎の様な武将が現れて挑戦して来た。
「華雄! 我こそは劉備軍武将、関羽なり! いざ、尋常に勝負!」
華雄の矛と関羽の青龍刀が火花を散らすほど打ち合い、やがて関羽の方が強いのであろう徐々に追い詰められて。
「甘いぞ華雄!」
長き一騎討ちの戦いで目に汗か入り、一瞬動きが鈍くなったのを逃さず青龍刀で斬り裂き。
「ぐああ――」
両目を斬られた華雄が討たれそうになった時、関平が二人の間に割って入り。
「関羽殿、華雄様との勝負はついた。大人しく引いて行く故、手を出さないで下され」
神になり得た父上ならば、義に厚い故、見逃してくれようが、若き頃の父上は果たして。
「代わりにそなたの首級を置いて貰おうか?」
関平はその発言に武者震いを感じた。
若き頃の父上との生死を賭けた一騎打ち。
「面白い。この関平が承った。その前に華雄殿を一刻も早く治療したい。誰か虎牢関まで連れて行って下さらぬか?」
すると、華雄の兵達が護衛をしながら虎牢関に退却して保護した。
関羽は虎を思わせる様な獰猛な笑みを浮かべ。
「では参るぞ! 関平とやら!」
共に馬上にて関平と関羽の青龍刀の斬り合いが始まった。
まるで二匹の虎が戦う様な凄まじさ。
戦う中で関平の青龍刀の一撃、一撃が鋭く重い!
関羽は防戦に追い込まれて青龍刀で弾き返しながら、何か不自然なものを感じていた。
関羽は技量、体力は明らかに関平に劣っていた。
何故なら関羽の人生の終わりまで練磨された技量、体力、経験が関平に備わっている。
だが、関平には関羽を殺せない。
何故なら、義父とはいえ、若き頃の父上を討ち取る気迫が肝心な時に無い。
更に、幾ら豪傑である生前の関羽の身体の力を得ているとはいえ、違う関平の身体なので違和感がある。
その事に気づいた関羽は。
「関平とやら、そなたは儂より強いが侮辱しているのか? 今度はその甘さが抜けた時に、改めて一騎討ちをしようぞ」
こうして、怒りの余り関羽は去って行った。
後味は悪いが関平の勝ちである。
虎牢関からは華雄の兵が槍を床や地面に柄を叩いて。
「関平! 関平! 関平!」
と、連呼し、歓声を挙げている。
関平が虎牢関に戻ると、華雄殿は平服し。
「関平殿に命を拾われた。恩義を返したい。願いを聞いて下さらぬか?」
「願いとは?」
「儂は董卓様に疑心を抱いている。それ故、この華雄と直属兵三百人を関平殿、否、関平様の家臣にして下さらぬか?」
「俺の様な若造の家臣で華雄殿や直属兵の皆は納得出来るのか?」
すると直属兵は全員平服し、その姿を見て困惑しながらも。
「華雄、そして皆、よろしく頼む」
だが、この虎牢関には、もう一人将軍がいた。
中華最強の武勇を誇り、中華最高の名馬、
虎牢関を脱出するには、呂布を説得するか? 討ち取るしか無い。
そこで関平は呂布と話し合いの酒宴を華雄に命じた。
何も知らない呂布は目の見えない華雄の勧める酒に励ましながら酔い眠ってしまうと、行動を開始して、その夜の内に董卓軍から離反して雑多な鎧を着た連合軍の軍勢に知らせた。
その連合軍武将の
「虎牢関を総攻めにする! 我ら劉備隊が一番乗りぞ! 必ず呂布を討ち取れ!」
連合軍は圧倒的な兵力で虎牢関を襲うが、呂布には逃げられる。
黄色の甲冑を纏った三十代前半袁紹は手柄をたてた関平を褒め。
「そなたの御蔭で虎牢関は奪えた。礼をいう。褒美として……」
功名に報い褒美を与えようとしたが。
異母弟の二十代後半の灰色の甲冑を纏いし、
「兄上お待ち下れ! この者は離反した者にございますぞ。その様な者に褒美を与えれば連合軍の士気に関わります。それに、そやつは華雄を家臣にしておるとか? 華雄にどれほど多く武将が討たれた事か! 助命はしてやる。最低限の食料と銭を与える故、
僅かな褒美を拝領した後、華雄は見えぬ目から涙し。
「済まぬ。関平様」
「気にするな華雄。俺達は生まれ変わったと思えば良い。聞くが今、黄巾賊残党の多い地域は何処だ?」
「東南の方角にある許昌周辺かと」
「ならば、俺達の放浪軍の行き先は決まった。必ず連合軍の奴らを見返し、名声を挙げて国を得ようぞ」
しばらくは黄巾賊残党討伐で生計得て、実戦を積み、名声を得る事になる。