第71話 夏休みとマギヤ、あけました
夏休みが明け、聖女ヴィーシニャの警護に励む、聖女親衛隊日常警護班及びタケシ班。
タケシ班長とメルテル副班長の二人は、タケシ班の新班員……と呼ぶのも違和感が出てきた平班員マギヤについて話をしていた。
「最近のマギヤさぁ、パークから帰ってからほぼ毎日髪の毛先を切ってるみたいなんだけど、髪が切れないし減らないんだよ」
はあ……と曖昧に相づちをするメルテル。
メルテルが、ブレザーのポケット内で振動するスマートフォン――メルテルは両親が勤めてる電話会社の新作モデルのテスターをしている――を取り出し、何を受信したのか確認する。
タケシが、そのメルテルのスマホの画面をのぞくと「ロリアス・パソビエ」からのショートメッセージ群が映っていた。
ついさっき届いた文言は「やあ、子猫ちゃんもといメルテルちゃん!」。
その後もたわいのない文言が送られ続けている。
「……いつの間にあのロリアスと連絡取り合う仲になったんだ?」
「私が日常警護班になってそう間もない内に向こうから来てね……。
私とヴィーシニャさんが二人いっぺんにさらわれたときとか真っ先に駆けつけて圧倒的な魔法で相手を拘束したり、ひるませたりしてきたから」
その日の夜、珍しくフィー班副班長アーサーに話しかけるマギヤがいた。
ちなみに今日の聖女のやらしくない夜伽の担当班はタケシ班でもフィー班でもない。
「お久しぶりですね、アーサー。
こうして話すのは四、五年生以来でしょうか。相変わらず弱いながらも生きていて何よりです」
な、何の用? ややビビりながらも、そうマギヤに尋ねるアーサー。
するとマギヤは急に土下座して
「……これまでの非礼を詫びに来ました」
そう言い、さらに頭を下げてきた。
周りに人がいないとは言え、どこか仰々しいマギヤの態度にアーサーがあたふたしていると、マギヤがこう続ける。
「これまで貴方の肉体や精神を傷つけておいて平然と生きていた自分が恥ずかしくてたまらないんです。許して欲しいなんて死んでも言いませんし言えません……私にそんな価値はありませんから」