第69話 気が付いたらスライムだった件。
「ああ……トロイノイという者がいながら本当に私は……! 私がちゃんと人に戻ったら好きなだけ殴るなり蹴るなりいくらでもお願いします。今の私を殴っても、先ほどの指のように、めり込むだけですし、なにか入ってくる感覚はあっても私自身すこぉしも痛くならないので」
マギヤが観覧車を降りて、マギヤとトロイノイ以外の時を止めてトロイノイに報告したこと、それは自らのスライム化とヴィーシニャに乱暴……「待って、一応聞くけど、乱暴ってどういう乱暴?」
「ヴィーシニャさんのペンダントからの映像見ます?」というマギヤの再びの問いに「嫌な予感しかしないけど……見る……」と答えるトロイノイ。
少しお待ちを、とトロイノイに背を向けて映像の再生位置などを確認し、ここからですね、とマギヤとトロイノイの目の前の宙に浮かぶ画面及び映像を再生するマギヤ。
再生される前のどこかでペンダントが落ちるなり落とされるなりしたのか、観覧車のゴンドラの床から見上げるようなアングルだった。
人型の白いスライムがヴィーシニャの服の隙間からヴィーシニャの体ないし体内に侵入していく。
音声は入っていないものの、ヴィーシニャの反応から蹂躙されているのが見てとれる。
「ああもう、本当に悪いスライムですね、こいつ」
「微妙に他人事ね……そう言えば『ちゃんと人に戻ったら』って言ってたけど、今すぐ戻れないの?」
「ええ。現状に気付いてから戻れ戻れと念じているのですが……今度は腕をチョップしてもらえます?」
はい、と軽いかけ声を伴ったトロイノイのチョップは、マギヤの肘と手首の中間を割ったが、地面に落ちた手首側が割れた部分に飛びついて融合し元の腕に戻り、「とまあ、この通り」とマギヤが答える。
時を進め、聖女邸に帰ってきたヴィーシニャwithタケシ班――レダウいなくてトロイノイがいるけど――。
その夜、ヴィーシニャは一人、ボーッと乳白色のお湯に肩まで浸かっていた。
ヴィーシニャの浴槽は、ヴィーシニャが床に手を付き、中で脚を伸ばしていても少しだけ余裕のある白い猫足バスタブ。
しばらくしてヴィーシニャがハッとすると、栓に足をひっかけた覚えもないのに、お湯の量が胸……いや、乳首が見えそうな辺りまで減っている上に、目の前に白くて巨大……といっても高さはお湯から上のヴィーシニャの体より少し高い程度、太さはヴィーシニャの体より太く浴槽の縁よりは細い程度だが……な何かがいるのに気付いた。
ヴィーシニャが白く巨大なそれを見上げ、動けないでいると、ヴィーシニャの目線の位置に横並びの赤い二点が表れ、二点の下の赤い一本線が円になる。
「どうも、ヴィーシニャさん。悪いスライムです」
自称悪いスライムはマギヤの声でそう言葉を紡いでいた。