第52話 プリストラ・ストノストは兄を信じていいのかわからない
ヴィーシニャがマギヤの腕に抱きついて戸惑うのは、ヴィーシニャの恋人たるウリッツァだけではない。
恋人が出来たヴィーシニャに未だに片思いをしているプリストラも例外ではなかった。
マギヤは、プリストラなどからヴィーシニャへの想いを問われて、友人程度の好意はあるとか、容姿は評価しているがせいぜいそれぐらいなどと回答する。
ウリッツァと付き合う前かつヴィーシニャがヴィーシニャ本人なある日、プリストラは単なる興味からヴィーシニャにマギヤへの評価を聞いたことがある。
その時ヴィーシニャはマギヤを家族みたいに思ってると回答し、当時のプリストラは一瞬家族になりたい→結婚したいと誤連想して、「家族に……なんて?」と確認した。
そんなことを思い返したあと、鈍感なウリッツァの代わりにマギヤを……? ありえない、あっちゃいけない! などとプリストラはあれこれ思考を巡らすが答えは出ない。
……マギヤ本人に何があったか聞くという発想は出なかったし、以前ヴィーシニャから当て馬を依頼されて断った話も思い出さなかった。
ヴィーシニャがマギヤに抱きついてからのある日、プリストラはウリッツァからマギヤと部屋をかわって欲しいと依頼され承諾し、部屋をかわる日、プリストラはマギヤに最後に笑った日を尋ねた。
プリストラの知る限り、純粋に喜ばしいあるいは微笑ましいことでマギヤが最後に笑ったのは、手術を終えて退院した時、あとは両親の卒業アルバムにいるロリアスを眺めていた時だ。
そこから両親が死ぬ少し前からあまり笑わなくなり、両親から誕生日を祝われたときのマギヤの笑顔を見たプリストラは、どことないぎこちなさを感じ、最後に笑ったカウントしなかった。
そして、マギヤ本人も答えたように、両親が犯され殺されたのを、プリストラなどに報告したときを境に、ほぼ完全に笑わなくなってしまった。
両親の仇たるロリアスと対峙あるいは逮捕したときも、ロリアスが処刑されても、マギヤはちっとも笑わなかった。
プリストラがマギヤにあの質問をした理由は、マギヤが笑うもう一つのシチュエーションたる生き物に暴虐の限りを尽くしたのはいつのことか聞き出すためである。
……仮にちゃんとその質問をしたとして、マギヤが正直に答えるか、プリストラは、やや自信を持てなかったので広く質問したのだが、あの回答を聞いたプリストラは、これは……本当に笑わなかったのか、笑うシチュエーションを限定して答えたのか、どっちだ……? と悩む。
部屋をかわってからのマギヤの行動がヤバいもといおかしいから戻してほしい。
プリストラとウリッツァの部屋に来たタケシは、要約するとそんなことを言った。
「そうだな、もう十日ぐらい経つし、オレは安心して眠れてるし……マギヤがここ最近、妙にオレとの距離をとってるのがちょっと気になるけど、戻ったときに聞けばいっか」
そんなウリッツァの声を聞いて、プリストラは、すかさずツッコミを入れる。
「え、いいのウリッツァ?」
「? ああ。オレ、今までヴィーシニャに寂しい思いさせて、マギヤにも迷惑かけたみたいだからさ。マギヤに戻っていいって伝えといてくれるか、タケシ」