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第七話 援軍と同盟

 袁術との戦いから三年後(193年)、民草が作物の種を撒く春の頃。

 曹操の父が徐州(じょしゅう)陶謙(とうけん)の家臣に殺害される事件があり曹操は怒りの余り徐州に軍勢を率いて侵攻した。


 だが、曹操軍の留守に呂布が濮陽(ぼくよう)を奪う事件が起こり、至急、軍師の龐統、沮授を呼び借りがある曹操を助けるか? 逆に呂布と同じ様に許昌へ攻め入り皇帝を保護して中華に覇を唱えるか? 相談した。

 龐統は進言した。

「これは好機にございます。許昌を奪い皇帝を保護できれば民草の支持や他国との外交も有利に運びまする。是非とも攻めるべきです」

 沮授は逆に進言し。

「確かに龐統殿の話は一理あります。だが、曹操は稀代の英雄であり、また、有能な軍師や将軍を数多く家臣しております。戦いに必ず勝ちはありませぬ。それに呂布と同じく留守を盗賊の様に奪えば信義に劣ると呼ばれましょうぞ」

 どちらも一長一短である。

「相わかった。援軍として呂布と戦うと見せかけて許昌の守備し、曹操殿に借りを返そうぞ。それならば、皇帝を守り信義の厚いと中華全土に名声が轟くであろう」

 五日後の晴天の昼頃に一万の軍勢を率いてると。

「関平! 関平! 関平!」

 許昌に入り民草達は手を振りながら歓呼をした。







 まずは皇帝に拝謁した。

 皇帝は喜び。

「良くぞ朕を守る為に馳せ参じた関平。正式に汝南、寿春の牧を認め印を与える。これからも忠義に励むがよ良い」

「御意!」

 と、平服した。

 そして龐統は進言した。

「曹操軍の回復を遅らせる為、食料を買い占めるべきにございます。後で高く売り付け、利益を得ましょうぞ」

 すると沮授も進言し。

「汝南、寿春に運び切れない食料は許昌の民に与えて人心と名声得るのもよろしいかと」

 関平は心底楽しそうに。

「正に笑いが止まらぬわ」







 曹操は徐州から退却して呂布と戦い、食料難で共に退却した九十日後に許昌に軍勢を率いて凱旋すると許昌に軍勢に与える食料が不足していた。

 すでに関平軍は汝南に帰還しており、曹操は使者を送り、食料の買い付けと許昌守備の礼の為、国庫が空になる寸前の財貨を関平に支払った。

 曹操は暫く呂布から濮陽を取り戻すのに史実より二年遅くなる。






 莫大な財貨を得た関平は領内の屯田兵策、治水工事、道の整備、農具を全て鉄製、民草に食料を安い貸付を行い、孤児院や学舎、また、武器や馬を買い付け、兵の増員と調練、盗賊討伐等に忙殺れたが、二年後には国力、軍事力は二倍近くなる。
 





 二年後(195年)春。

 いつもなら緑が芽吹き、民草は今年一年の無事を祈るのだが悲しみにくれていた。

 それは、関平の妻の黄泉は死に瀕していたからであった。

 関平の子を身籠ったのだが流行病を患い、子は死んで己自身も命の火が消えかかる。

 もう、手の施しようが無く関平は横たわる妻の手を握り締めて小声で何やら話した後、妻は亡くなった。

 妻の死を噛み締め、自らの領地の民を子の様に大切にしながら富国強兵を行った。







 更に半年後の秋。

 妻を喪った関平を励ます様に民草の努力もあり、作物は豊作であった。

 そんな時、関平の本拠地、汝南城に、黒衣の三十代前半の使者が来た。

「私は呂布様の軍師に就いている陳宮(ちんきゅう)と申します。今回の要件を呑んで下さるならば近い将来、呂布様の持っている全てを家臣や軍勢、国さえも関平様に与えるとの事です」

「要件とは?」

「曹操と劉備を討ち取る為、同盟をして頂きたい」

「だが、呂布殿は二度の義父殺して濮陽乗っ取りも行った。信用は出来ぬ。帰られよ」

「お受け頂けるならば、呂布様の血を唯一引く姫君、呂乱華(りょらんか)様を関平様の妻として差し出すとの事にございます。最近、奥方様は亡くなられていますな」

「流石に良く調べている。だが、何故? 俺なのだ? 家臣の有力者に与えればよいでは無いか?」

「呂布様は天下の武人。ならば己が亡き後、天下の武人に成られる御方に嫁がせる事にございます。幸い関平様とは虎牢関にて縁が出来ました。呂布様とて人の子、いずれ老いが来ます。ならば尚更、呂乱華様の行く末が心配なのでございまょう」

「それでも俺は信用出来ぬ。飢えた牙狼の様な武人故」

「ならば、仕方ありませぬな。私が関平様に使者として赴いているのは、まず、間違い無く曹操の間者に知られているでしょう。呂布様と同盟するほか? 最初から道は無いのですよ。まあ、悪い様には致しませぬ。同盟の約定。少なくとも呂乱華様をお連れ致しております。余り余裕はございませぬが考えて下され」

 策にしてやられたと苦虫を潰した顔をしながら、こうなれば毒喰らば皿まで。

「相わかった陳宮殿、先ずは呂乱華殿に会おう」

 陳宮は満面の笑顔を一瞬浮かべ。

「ありがたきしあわせ。呂乱華様起こし下され」

 すると、黒き鎧で武装し、槍まで所持している日焼けして黒き肌、長い銀髪、牛の様な乳の十代半ばの美しき姫君が入って来た。

 まるで亡き妻黄泉を思わせる様な武人姫、呂乱華。

 だが、ただ美しいだけではなく鋭い覇気からして張郃に匹敵する強さであろう。

 妻の最後の言葉を思い出していた。

「関平様……。貴方には私の様な……武人の強さを持つ妻が相応しいわ……」 

 関平は半年前に流行り病と流産で妻と子を亡くしており、この姫ならば強き子を産めると確信した。

 それは呂乱華も同じく思ったのであろう。

 共に戦いに行ける最高の夫婦になれる事を。

「呂布の娘、呂乱華と申します。関平様に妻として武将としてお仕え致します。どうか同盟をお願い致します」

「相分かった。天上の神に誓って同盟致そう」

 これは中華に覇を唱える事になるか? 破滅への道か?

 関平 十八歳(生前三十四歳)呂乱華 十四歳。

 

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