第50話 ウリッツァの悩み
ウリッツァは近頃、思い悩んでいることがあった。
夜、たまにウリッツァの上に何者かが乗って、身体や股間をまさぐっていたり、何か硬いものや液体のようなものを擦り付けられたり、ウリッツァの体内に何かが侵入する感覚がしたりするのである。
問題が起きたその日の内に、マギヤに部屋で変態……もとい侵入者を見てないか尋ねてみても、見てませんと首を振るし、何晩か目を全開にして見ていても、たまにマギヤがトイレへ行き来する程度だったしで、まるで収穫がなかった。
そんな中、ウリッツァの悩みがまた一つ増えた。
休みが明けてからと言うものの、ヴィーシニャが、魔力量や男女で授業が別れる科目以外でマギヤによく構うようになったのだ。
しかも、マギヤもマギヤでヴィーシニャを見つめる頻度が増えていた。
これまでマギヤがよく見つめる人間と言えばウリッツァやトロイノイ、時々プリストラで、ヴィーシニャのことは、単に本人と話をするときや任務で必要なときなどに見る程度だったというのに。
さらに、ウリッツァを何よりも動揺させたのは、ヴィーシニャがウリッツァ班
ウリッツァはヴィーシニャと、幼いときやお披露目パーティーの時などに唇同士のキスはしたが、ハグの類いは何気にまだしていなかった。
しかも、マギヤはそんなヴィーシニャに対して、苦言を呈したり腕を振り払ったりするのに、少なくとも十秒は、かかったので、なおさらである。
けれど、ヴィーシニャがマギヤに何かした日の夜、ウリッツァはくつろいで熟睡できたのは救いと見なしていいのだろうか。
ある夜、ウリッツァが「なあ、マギヤ……最近ヴィーシニャと、仲、いいみたいだけど……」と微妙に平静を装えていない声をマギヤにかける。
「……そうですね」
二人ともそれぞれのベッドで寝ている関係上、ウリッツァからマギヤの顔は見えないが、マギヤの声はいつも通りの調子だ。
「……明日からプリストラと部屋かわってくれないか?」
「……はい?」
「引き受けてくれるのか?」
「……それ、プリストラ等の許可は得ているのですか?」
「もちろん。あとはマギヤさえ、いいって言ってくれれば」
「……わかりました、ただ、荷造りのためにもう一日だけください。それが条件です」
その日の夜もマギヤが部屋を出る前日の夜も、ウリッツァは、何者にも睡眠を邪魔されなかった。
マギヤとプリストラが部屋を交換する日、ウリッツァの部屋に向かうプリストラは、タケシの部屋に向かおうとするマギヤにこう尋ねる。
「ねえマギヤ……最後に笑ったのいつ?」
マギヤは話しかけてくるプリストラを見た後、貴方も知っているでしょう? と前置きをし、タケシの部屋に向かいながらこう話す。
「……両親が死んでから今日に至るまで一度も笑ってませんよ」