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序章 4

 振り返って見た僕の視界には当然の様に半裸の美女などいるはずもない。そこには生きとし生ける何物もいない荒涼とした山肌が続く荒れ果てた大地が広がっていた……。

「修業が足りなかったかぁ―――――――」

 俺はヤツにまんまと嵌められたのだ。カっと頭に血が昇って行くのが分かった。
 その一瞬の隙をリガルディが見逃すはずはなかった。俺が後方に視線を逸らした瞬間、ヤツの右手が微かに文字を書く様に動き、唇は声のない呪文を詠唱していた。
「愚か者、結晶結界もろとも、この世界から消え失せるが良い。お前をを空間ごと切り取って何処かの闇の中に吹き飛ばしてあげよう」
しまった!
 此処まで来て……此処まで来て,こんなくだらないヤツの戯言に惑わされてしまった。
 俺の魔法防壁は結界結晶と呼ばれる方法で自分の周囲の空間に魔法断層を一定期間形成する術式だ。その干渉空間がどんな魔力も中和する為、魔族のあらゆる攻撃魔法は俺に届かない。しかしヤツは短い会話の間に、無言の術式で俺の魔法防壁を周りの空間ごと切り取り、異世界に吹き飛ばす穴を開けやがった。ヤツとの無駄話が過ぎたのだ。勝ち誇ったリガルディは俺を指差して高笑いを挙げた。

「人の事を指差すな、失礼だろうが!!」
 
 歯を食いしばって悔しさをかみ殺している俺にヤツは言葉を投げつけた。
「君が結界結晶で守られているようなので、止めを刺して挙げられないのがなんとも残念だよ。その代わりと言ってはなんなのだが、可愛そうな満身創痍の勇者殿に私からのささやかなお土産をあげよう。「カーマナイト・スピリッツ【KS】と私が呼んでいる魔法の術式を進呈しよう。遥か彼方、飛ばされた最果ての世界、万が一キミの意識がそこで覚醒し、地の果てで目覚めたとしても、そこでも到底起こりそうもない不幸が君に襲いかかり続けることだろう……はっはっはっ羨ましいなあ」
 
 俺は空間が閉じる一瞬、悪魔の下品な高笑いを最後に聞いた気がした。
 薄れゆく意識の中で俺はもがきながら絶叫をあげた。

「そんな分けわからないお土産はいるかぁぁぁぁーーーーー!!」
 それが、俺の生まれ育った暗い悪魔の眷族達に人属が支配された【セレンティウス・グランド】での最後の記憶だった。

 第一章に続く

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