第10話 狙われる者、死なぬ者
第1章 死に戻り地獄の序章
---
夜が明けきる前、タタルは意識を取り戻した。
血だまりの中、仰向けに倒れていた。
傷は深く、右腕は感覚がない。斬られた部位が腐り始めている。
「生きてる……のか」
口の中に泥の味が広がる。
だが、確かに死んでいない。ロードは起きなかった。
タタルはライエルの死体に目をやった。
黒衣の剣士。その胸には、タタルの短剣が突き刺さったままだ。
「ようやく……“勝ちルート”か」
息を吐きながら、タタルは立ち上がった。
歯を食いしばる音が、骨の軋みに混ざる。
---
だが、それを遠くから見ていた目があった。
森の影。
黒い外套。
長弓を背負った亜人のスカウト。
彼は小さくつぶやいた。
「……おかしい。ライエルが……負けた?」
その視線の先にいたのは、満身創痍の男。
だが、立っている。
何度も殺され、何度も戻り、それでも立ち上がる者。
「“死なない男”か……。伝説かと思ったが……」
---
報告が行く。
盗賊団《黒骸の鎌》の幹部陣に。
「ライエル、討たれる」
「殺したのは、名もなき下っ端――四宮タタル」
沈黙が、空気を凍らせた。
そして、ザラドが斧を叩きつける。
「やっぱ殺した方が正解だったって話だな。あいつ、頭おかしい」
別の男が言う。
「いや、違う。“死ねば戻る”って噂、前からあったんだ。
村焼きのときに、
火薬で吹き飛ばされて死んだはずの奴が、数日後に戻ってきてた。
しかも記憶までそのまんま。まるで“セーブデータ”を引き継いでるみてぇに」
「……チートかよ」
「いいや。呪いだな。死ななきゃ勝てねえ奴なんて、殺しきるしかねぇ」
---
一枚の“指令書”が、盗賊団内で回る。
内容は一行。
> 「四宮タタルを見つけ次第、確実に殺せ。再生不能なまでに」
同時に、報奨金が掛けられた。
「首を斬り、内臓を抉り、死を確定させること」
「蘇生の余地を残すな。殺して、殺して、殺し尽くせ」
---
その頃、タタルはライエルの遺体から剣を拾っていた。
手に馴染む感触。異常なほど軽い刀身。
これは、剣士にしか扱えない“バランス”だ。
「……遺品、もらうぞ。お前の剣筋、もう忘れない」
---
そして夜。
森の中に、“目印”のようなものが吊されていた。
――タタルの名を刻んだ札。
赤く塗られ、十字の切れ目。
“殺害対象”
“高危険度”
“死に戻り個体”
そして最後に。
> “討伐推奨。斬首を最優先。”
---
タタルの存在は、“伝説”から“標的”へと変わった。
もはや彼は、名もなき存在ではない。
死なぬ者として狩られる側に回った。
---
タタルは、それを知らない。
だがその夜、なぜか眠れなかった。
背筋に、氷のような直感。
(……誰かが、俺を見ている)
---