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第11話 過去はさらに悪化する

第1章 死に戻り地獄の序章 

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 タタルは、ライエルの剣を腰に差し、静かに森を歩いていた。

 月明かり。湿った風。足音がやけに遠くに聞こえる。

(……ようやく、前に進めた気がする)

 死を超えて、初めて勝った。
 未来を切り開いた。
 そう思っていた。

 だが――

 それは、幻想だった。

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 ザッ

 森の影から、何かが跳ねた。

「お前か。……噂の“死なぬ者”」

 現れたのは、盗賊団の“拷問師”トグス。
 背丈ほどの大鉈を肩に担ぎ、顔には無数の焼き傷。
 タタルを見て、にやりと笑う。

「殺しても戻ってくるんだってな? よし、なら確認してみよう」

「……報奨金狙いか」

「違うさ。俺は、ただ興味があるだけ。何回殺したら、壊れるのかってな」

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 タタルは剣を抜いた。
 ライエルの剣。慣れないが、振りの軽さは異常だ。

 しかしトグスの鉈は、剣技ではない。
 “人間を潰すための刃”だ。

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 ――戦闘開始。

 タタルが踏み込む。
 振るう剣。ライエル仕込みの剣筋で、相手の肩を斬り裂く。

 だが――

「っが……重っ……!」

 鉈の“反撃”が重すぎる。
 腕が痺れ、視界が跳ねる。

 そして、

ズドン!!

 トグスの鉈が、横薙ぎにタタルの腹を断ち切った。

 皮膚。筋肉。肋骨。
 全部が粉々に砕け、臓物が地面に落ちた。

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「……っっあ、ぐ……!」

 声にならない。
 立てない。
 腹の奥から、体液と血が同時に噴き出す。

 死ぬ。間違いなく死ぬ。

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 その瞬間、

 カチ。

 ロード音が鳴った。
 視界が歪む。

 タタルは思った。

(頼む、次は“少し後”に飛ばしてくれ――)

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 が、次に目を開けたとき、
 彼はまったく別の場所に立っていた。

 見覚えのある石壁。井戸。壊れていない村。
 空は、まだ青かった。

「……嘘、だろ……」

 タタルは、膝から崩れ落ちる。

 ここは――
 あの“最初に裏切られた村”。
 まだ、裏切りも炎も始まっていない時点。

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 過去に戻された。

 しかも、地獄の入口まで。

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「お兄さん? また会えたね」

 振り返ると、リンが立っていた。
 血の付いていない、無垢な少女の笑顔。

 タタルは震えた。
 心が、軋んだ。

 あの背中に刺された痛み。
 あの裏切りの目。
 全部、これからもう一度、味わうのか。

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 【ランダムセーブ】――
 勝った未来から、
 裏切りの過去へ。

 運命は、いつもタタルを“希望の真逆”へ突き落とす。

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 だが彼は、剣を抜いた。

「リン……もう一度だけ、信じてみる。
 でも次は、俺が“最後まで見届ける”側だ。」

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