第153話 誕生日の朝のカウラ
階段を途中まで降りると、そこには緑色のポニーテールが動くのが見えた。そこにはいつも通りのカウラの姿があった。
「おはようございます、カウラさん」
気を抜いているときに突然声をかけられて一瞬怯んだカウラだが、いつもの無表情を取り戻すと静かに誠を見上げた。
「遅いな。今日は薫さんも昨日夜が遅かったから朝稽古は休んだようだが……貴様は実家だと思って少したるんでいるんじゃないのか?」
カウラのいつものぶっきらぼうな態度に誠は苦笑いを浮かべた。シャンプーの香りがカウラから漂うのは母の朝稽古に付き合って流れた汗を流したからなのだろう。
そのまま台所に向かうカウラについていくと、すでに朝食の準備をほとんど済ませた薫が笑顔で誠を迎えた。
「おはよう。眠そうね」
「ああ、そうだね。昨日は夜が遅かったから」
母の声を聞きながら誠はすでに自分用の箸を握り締めて黙って座っているかなめを見つけた。そんなかな目の隣にアメリアがあきれ果てた顔で立った。
「かなめちゃん。ソースを冷蔵庫から出すとか、醤油をそこの調味料入れから取るとか。手伝うこと色々あるんじゃないの?」
アメリアはそう言いながら薫から味噌汁を受け取って並べていた。かなめは苦笑いを浮かべながらアメリアの小言を無視して黙って座っていた。
「はい、カウラちゃん。誕生日だから特別にしてあげる」
そう言ってアメリアがジャガイモが水面から飛び出すほどの具沢山な味噌汁を席に着こうとしたカウラに渡した。
「気が利くな。部隊でもいつもこうしてくれると助かるのだが」
カウラの言葉にアメリアは当然のように今度は炊飯器を開けてご飯を盛り始めた薫の手伝いを続けた。
「おいおい、慣れない事してんじゃねえよ。いつもは寮の料理もろくにしていないって言うのによう」
ふてくされるかなめだが、アメリアはにやりと笑うだけでそのまま今度はご飯を配り始めた。
「私が手伝うことは無いのか?」
かなめは別として何もすることが無いのが少し気になったのか、カウラはそう言って立ち上がった。
「いいのよ、ベルガーさんは。今日はベルガーさんの誕生日じゃないの。それより誠に何かしてもらうことは無いかしら」
娘が増えたなどと喜んでいた母の様子に、ただ弱ったような笑みしか誠は浮かべることが出来なかった。
「ああ、海苔が切れたっておっしゃってましたよね?誠ちゃん、取れ」
突然調子を変えてアメリアは命令口調になった。つぼに入って噴出したかなめを無視して誠はそのままガス台の上の戸棚に手を伸ばした。一応、誠の身長は186cmの長身である。すぐに焼き海苔の袋を見つけて隣に立っていたカウラに手渡した。
「じゃあ頂きましょうか」
「まったく……」
そう言いながら誠は食卓に着いた。薫の笑みとがっつくアメリアとかなめ、そして箸に手を伸ばしかカウラを笑顔で見ながら誠も朝食をとることにした。