第13話 追い詰められた人々
遅い昼飯を本部のある豊川市の大通りのなじみのうどん屋で済ませた誠達はそのまま本部に着くとアメリアに引きずられて宿直室のある本部の別館へと連行された。
「どう?進んでる?」
別館の一階。本来は休憩室として自販機が置かれるスペースには机が並んでいた。机の上はきれいで、すべての作業が最近終わったことを告げていた。それ以上に部屋に入ったとたん人の出す熱で蒸れたような空気が誠達には気になった。
「ああ、早かったじゃない」
コンピュータの端末を覗きこみながらポテトチップスを口に放り込んでいる運用艦『ふさ』のブリッジクルーの一人、パーラ・ラビロフ大尉が振り向いた。奥の机からはアメリアの部下の運用艦通信担当のサラ・グリファン中尉が疲れ果てたような顔で闖入してきた誠達を眺めていた。
「お土産は?何か甘いものは?さすがに三日徹夜なんて疲れたわよ」
疲れ果てたサラはそう言ってアメリアを見上げた。その目の下にははっきりとしたクマが浮かんでいた。
「そんなもの無いわよ。何よりも時間が大事だって言うことで急いできたんだから」
アメリアのぶっきらぼうな一言に力尽きたようにサラのショートの赤い髪が雑誌の山に崩れ落ちた。
「そう言えばルカ……また逃げたか?」
「失礼なことを言うな!」
バン!と机を叩く音がかなめの漏らした言葉の直後に響いた。突然サラの隣の席マスクをつけた灰色の長い髪の女性、運用艦『ふさ』の操舵士のルカ・ヘス中尉が顔を上げた。
「大丈夫かよ?こいつ等。半分死んでるぞ」
かなめがそう言ったのは飛び上がって見せた。ルカの目が泳いでいた。
「アイツもさすがに三日徹夜……それはきついだろ……いい加減ルカ以外にもデバック作業ができる人間見つけないとやべえだろ。仕方ねえなあ、手伝ってやるか」
かなめはそう言いながらモニターの中の衣装に色をつける作業を再開した。さすがにサイボーグなだけあって脳と直結したコンピュータの作業はかなめの得意とするところだった。
「さすが、かなめちゃん。頼りになるわね。なんやかんや言って手伝ってくれるなんて。やっぱり持つべきものは友達よね」
潰れている部下のパーラ達をしり目に素早く作業をこなすかなめにアメリアは珍しく悪意のない賛辞を贈った。
「なんだよ、気持ち悪いな。それより、こいつ納期はいつだ?」
かなめはルカが進めていたデバック作業をその電子の脳を通じて数倍の速度でこなしていく。
「予約はクリスマスから受け付けて、ダウンロード開始は年明け。まあ、ここまで急ぐ必要も無かったかもね……でも最初に私が完成版を遊びたかったから。最終デバックって奴」
アメリアは要するに自分が遊びたいがために部下達に無理をさせていたと言う事実を聞いて誠は呆れかえった。
「勝手な奴だ。しかし……我が妹ながらかえでは本当に変態だなかえでは。今度の月一の調教の時はもっとひどい仕打ちをしてやろう。アイツが望んだことだ。後悔はしないだろう」
画面の中で展開される異常な痴態にかなめは舌打ちを撃つと同時にそれを望む妹のかえでにただあきれるばかりだった。
誠はどうしても男として『女王様』であるかなめがかえでにしている『調教』の内容が気になって仕方が無かった。