第14話 疲れを知らない機械の身体
「サイボーグは便利よねえ。三日徹夜したくらい平気なんでしょ?こんなことならルカをかなめちゃんとすり替えておくんだったわ。どうせ隊長に負けると言う訓練の結果は同じだし、ゲームのデバックも早く終わるし、そっちの方が良かったかも」
その様子を感心したようにアメリアはかなめを見つめた。隣では複雑な表情のかなめが周りを見回していた。
「まあ、この身体の便利さはなったもんにしかわからねえな。それより、他の連中……年末寄席の芸人共はどうしたんだ?さっきから姿が見えねえじゃねえか」
かなめの一言に再びサラが乱れた赤い髪を整えながら起き上がった。
「ああ、他のみんなは射撃訓練場よ。今月分の射撃訓練の消化弾薬量が月初のネタ作りの会議の影響でかなり足りなかったみたいだから。あと一時間は射撃場で撃ちっぱなし。良い気分展開になるんじゃないの、あの子たちにとっては」
パーラはそう言ってため息をついた。アメリアに付き合わされてゲーム作りを強制させられている彼女達に誠は同情していた。アメリアはサラの言葉に何度か頷くと、そのまま部屋の置くの端末を使って器用に着ぐるみを縫う作業をしている技術部整備班班長、島田正人准尉のところに向かった。
「ああ、クラウゼ中佐……少佐?あれ?はあー……」
島田は精魂尽き果てて薄ら笑いを浮かべている。本来『不死人』であり、疲れを知らない男である島田の目の下の隈が彼がいかに酷使されてきたかと言うことを誠にも知らせてくれていた。
入り口で呆然としていた誠もさすがに手を貸そうとそのままサラの隣の席に向かおうとした。
「がんばったのねえ……あと一息じゃない。島田君もやればできる子なんだから……ちゃんと貸しの分だけ仕事はしてもらうからね」
島田が作り上げた巨大なホタテ貝の着ぐるみを見ながら感心したようにアメリアは声を上げた。それにうれしそうに顔を上げるルカだが彼女にはもう声を上げる余力も残っていなかった。
「あとは……これが出来れば……」
ルカがそう言うとアメリアから見えるように目の前の端末のモニターを指差した。
「がんばれば何とかなるものね。それが終わったらルカは寝ていいわよ」
その言葉に力ない笑みを浮かべるとルカはそのまま置いていたペンタブを握りなおした。
「それにしても……楽しみね、クリスマス。ゲームの完成、芸の完成、そしてカウラちゃんの誕生日。祝うことが一杯あって疲れちゃうくらい」
アメリアは満面の笑みでそう叫んだ。
「今ここで疲れてねえのはアメリアだけだな。今から疲れることをするか?とりあえず練習着に着替えてグラウンドに出てサードの守備に着け。千本ノックぐらい余裕だろ?そのまま以前の神前みたいに20キロ走れば完全にこいつ等と同じく疲労困憊する」
ここで突然かなめがアメリアに向けてそう言った。アメリアはかなめが監督を務める野球部の正サードである。アメリアを疲れさせるには一番の方法だとかなめは思いついたらしい。
「嫌よ、そんなの。まだキャンプは先じゃない。今は自主トレの時期よ。監督は静かに作業を続けてなさい」
アメリアはああいえばこういうと言ういつもの態度でかなめの無茶を軽くいなして見せた。誠はただアメリアのかなめのあしらい方をなんとか学ぶことが出来ればと思いつつ、これからさせられるであろう、原画の修正作業について考えると憂鬱な気分になっていた。