第12話 クリスマスの無い国で
「なによ……誠ちゃん、静かになっちゃって。私の昔話なんてどうでも良いの!誕生日よ!誕生日がクリスマスなのよ!」
切り替えの早いアメリアの機嫌はもう直っていた。
「そりゃあなあ。この遼州は地球とほとんど自転周期が変わらないし、一年もうるう年無しの365日。地球と似ている部分が多すぎるところだからな。そんな偶然に比べたらカウラの誕生日がクリスマスでも別に不思議なことじゃないだろ365分の一の確率じゃないか大したことじゃない」
かなめは興味無さそうにそう言ってアメリアの隣で伸びをした。
「うるさい!ボケナス!まったく貴族のくせにロマンと言うものが無いのね」
そう言ったアメリアのチョップがかなめの額に炸裂した。だが、かなめはサイボーグであり、頭蓋骨はチタン合金の骨格で出来ていた。アメリアは思い切り振り下ろした右手を押さえてそのまま後部座席にのけぞった。
「いてえじゃねえか!ロマンに身分が関係あるか!人それぞれだ!別にクリスマスがどうだろうがアタシは知ったこっちゃねえって言ったんだ!」
今度はかなめがそう言ってアメリアの足を蹴り上げた。
「貴様等、暴れるな!私の車なんだぞ!暴れるんなら降りてからにしろ!」
怒鳴るカウラの口元を見た誠は、そこに歌でも歌いだしそうな上機嫌な笑みを浮かべているのを見つけた。
「カウラさん。これまで気づかなかったんですか?誕生日がクリスマスだって」
そう言ってみた誠だが、カウラはまるで誠の言葉が聞こえないようでそのまま一気にアクセルを踏み込んで急な上り坂に車を進めた。
「クリスマスか……ここは東和だ。アメリア。そんなにクリスマスとやらがしたいならゲルパルトに戻ってクリスマスとやらをすればいいだろ!あそこはドイツ系のキリスト教国だ。立派で厳かなクリスマスが過ごせるだろうしな」
かなめはそう言うとアメリアをにらみつけた。
「いいじゃないの……ちょっとしたイベントよ。あやからない手は無いわ!それにあの体験はかえでちゃんとリンちゃんは大好物だから……でも、カウラちゃんは真似しちゃダメ。私の中の純情無垢なカウラちゃんのイメージが壊れるから」
「何が言いたいんだ貴様は。日野少佐が絡むといつも私は蚊帳の外だな」
そう言うアメリアの目がらんらんと輝くのを見ながら誠はろくなことにならないと大きくため息をついた。
「イベントねえ……興味ねえや。確かに甲武でもクリスマスに舞踏会とかしている貴族連中もいたけどあんなの、クリスマスを理由に犯ったの犯られたのの好き者が集まる変なパーティーだろ?なおさら興味ねえや」
かなめはそう言ってため息をついた。
「いいじゃないの!せっかくのカウラちゃんの誕生日よ!祝ってあげましょうよ!」
アメリアはゲームの製作の遅れの話題などは頭の中から消え去って、カウラの誕生日とクリスマスの話題で車内を染め上げた。
「素直にクリスマスがやりたいと言えばいいのに」
盛り上がるアメリアを見ながら誠はそう愚痴るがアメリアの糸目ににらまれて黙り込んだ。
「私の誕生日だ。私に選択権は無いのか?それに派手なイベントは私は好きではない。その点も考慮してほしい」
ハンドルを大きく切って高速道路に向かう道に車を乗り入れながらカウラはつぶやいた。
「良いじゃないの!せっかくなんだしお祝いしましょうよ。たまには派手なのも人生楽しくなるわよ!」
アメリアはすっかりやる気で細い目をさらに細めてほほ笑んだ。
「嫌な予感しかしないな……大体、アメリアさんが何かを言い出すとろくなことが起きないんだ」
誠はそう言って苦笑いを浮かべつつ外の雪景色を眺めていた。