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第9話 帰路の車中で

「かなめちゃん」 

 カウラの『スカイラインGTR』にたどり着いたアメリアが珍しくこめかみをひくつかせながらかなめをにらみつけていた。

「なんだよ。急いでいるんじゃねえのか?運航部の女芸人とゲームのデバック要員達のことだ。徹夜が続くとまた逃げ出すぞ……と言うか逃げたんだな」 

 助手席のドアを開けたかなめはシートを倒してすぐに後部座席にもぐりこんだ。アメリアも何も言えずに同じように乗り込んだ。

「一応言っておくが、アメリアは早期覚醒で実戦に投入されたわけだ。私やサラみたいに自然覚醒まで培養ポットで育った者より稼動時間が長いのは当然だろ」 

 気を利かせてのカウラの一言にアメリアは後部座席で少し寂しそうな笑みで答えた。誠にはその違いがよく分からなかった。すぐにガソリンエンジンの響きが車内を満たした。

「いいわよそんなフォロー。それより久しぶりだったらお茶くらいしていけばいいのに……どうせ逃げた子達が捕まらないと私が帰ってもどうにもならないもの」 

 アメリアの言葉にカウラはちょっとした笑みを浮かべた。車は駐車場を出て冬の気配の漂う落葉樹の森に挟まれた道に出た。

「今でもそう言うことには関心が持てないからな。アメリアほど実社会に対応した期間が長くは無い。まあ、パチンコだけは別だが」 

「何よ!カウラちゃんまでそんなこと言うの?」 

 アメリアの膨れっ面がバックミラーに映っている。誠は苦笑いを浮かべながら対向車もなく続く林道のを見渡していた。

「私が『ラスト・バタリオン』としてはいち早く実生活に順応できたのはちゃんとした趣味があったからよ!最初は落語。この東和に来る理由だって『女流落語家の弟子になりたい』と言うはっきりとした目的があったからなんだから。カウラちゃんもパチンコ以外にちゃんとした趣味を持てば実生活にいち早く順応できるわよ」

 強く力説するアメリアにカウラはただ苦笑いで答えた。

「オメエのはなじみすぎって言うんだよ。それと、気が変わるのが早すぎ。落語家の弟子も2年と続かなかったって話じゃねえか。その次はアニメだ、ゲームだ、漫画だ……どれも趣味と呼んだらクバルカの姐御からどやされるような代物ばかりだ」

 かなめは皮肉るようにそう言うと隣に座るアメリアの足を蹴り上げた。

「何よ!酒と銃が好きですなんて女の趣味?それこそ変じゃないの!ああ、かなめちゃんには虐めてくれって言い寄ってくる変態を『女王様』として虐める趣味が有ったわよね。これを忘れるとは私もうっかりしてたわ」

 反論するアメリアをかなめは完全無視と言う対応で迎えた。

 誠はこれから豊川の部隊までの道中でどんな騒ぎが起きるのかとそればかりが不安で、助手席でいつも通り小さくなっていた。

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