第8話 あくまで『特殊な部隊』と呼ばれて
「それにしても出世したものだな、お互い。貴様は大尉か、やるじゃないか。聞いてるぞ、『近藤事件』や『バルキスタン三日戦争』、そして『厚生局違法法術研究事件』凄いじゃないか、この半年余りで三つも大きな事件を解決している。我々の誇りだな、貴様は。調整無しでロールアウト可能な最後の世代のラスト・バタリオンである我々の中ではその活躍は群を抜いているぞ」
そう言うエルマのおかっぱに刈りそろえられたライトブルーの髪が揺れる。カウラは振り返って部下のかなめと誠、そしておまけのアメリアの方を見て困ったような表情で鈍い笑みを浮かべた。
「確かに。でもそちらは良い部下に恵まれているみたいじゃないか。礼儀正しく、上司を立てる。こうして上官が友人と話をしている時に黙って聞いていてくれると言うのは良い部下の証拠だ」
カウラはエルマの部下達の一糸乱れぬ整列したままの姿勢に感心したようにそう言った。
「そうすると何か?アタシ等は悪い部下だと言いてえわけだな。随分な言いようじゃねえか」
カウラにあてこするように振り返ったかなめが誠とアメリアを見つめた。アメリアは勤務服の襟の少佐の階級章を見せながら頬を膨らませた。誠も頭を掻きながらエルマを見つめていた。
「これは中佐……アメリア・クラウゼ中佐ですか?」
そう言うとエルマが厳しい表情に変わり直立不動の姿勢をとった。アメリアは戸惑ったようにごまかしの笑みを浮かべた。それをしばらくカウラは見比べていた。
「良いのよ、別に気なんて使わなくても」
「いえ……クラウゼ中佐の話は教育施設でも良く聞かされましたから。戦後直後にロールアウトして実戦参加をした数少ない『ラスト・バタリオン』と伺っています。私達最終期型にとっては永遠の憧れです」
目を輝かせるエルマにカウラは気おされていた。カウラもアメリアもゲルパルトの人造人間計画『ラスト・バタリオン』で製造された人造人間である。だが、ほとんどは製造中に終戦を迎え、それまでに育成ポッドの外にいたのは司法局では運用艦『ふさ』の艦長で運行部の部長アメリアただ一人だった。
「実戦ですか……」
「どんな活躍したのか教えてくださいよ!オバサン!」
誠の純粋な疑問にかぶせてかなめががなり立てた。握りこぶしを作りながらアメリアがじりじりとかなめに近づいていった。
「馬鹿をやっている暇は無いんじゃないのか?エルマ……ちょっと急ぎの用事があってな。いくぞ、西園寺!」
馬鹿騒ぎが起きることを察知したカウラがそう言ってかなめの手を引いた。カウラは唖然とするエルマを置いて駐車場の隅に向かった。
「そうね、急がないと。エルマちゃんまたね!」
全く人見知りと言うものをしないアメリアはそう言ってエルマに手を振った。誠はそのあまりの変わり身の早さに半分呆れていた。
エルマは部下達の前で足早に立ち去っていくカウラ達を呆然としたままで見送っていた。