第7話 久しぶりの再会
冬の弱々しい日差しが屋内戦闘訓練場を出た誠達に降り注いだ。次の訓練予定が入っている東都警察強襲機動隊の面々が寒空の中、マックスコーヒーを飲みながら駐車場で待機していた。
男性隊員の視線がかなめに集まる。かなめはその視線を心地よいとでも言うように強調された胸のラインを披露しながら中性的に見えるカウラの後に続いていた。しばらく歩いていたカウラだが、あからさまな視線に飽きてかなめを振り返った。
「あれ?隊長殿はそう言うことは気にはされないと思っていました……が?やはり隊長殿も女性的な体形になりたいと常々お考えなんですかね?残念ですね?盆地胸で」
そんな挑発的なかなめの言葉にカウラは一気に不機嫌になった。ようやくこの状況に気づいたように東都警察の部隊長の眼鏡をかけた女性指揮官が咳払いをしていた。
「あ……あ?」
エメラルドグリーンのポニーテールを降りながらカウラの視線は女性指揮官に注がれた。それは誠が初めて見るカウラの喜びに満ちた表情だった。
「エルマ……エルマじゃないか!」
そのままカウラはエルマと呼んだ女性警察官に向かって近づいていった。誠も良く見ればその警察官の髪がライトブルーでそれが遼州星系で起きた前の大戦の敗戦国ゲルパルトが製造した戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』のものであることに気がついた。
「なんだ……カウラか。久しぶりじゃないか。もう、最後に会ってから何年になるんだ」
女性隊長はそう言うと複雑な表情で近づいていたカウラの手を握った。
「おい、知り合いか?」
「まあな。知り合いと言うより姉妹と言った方が良いかもしれない」
そう言って二人は手を握り合った。だが誠にはその二人の表情はどこかぎこちなく見えた。エルマの部下達も少し怪訝な表情で二人を見つめていた。
「カウラ、少しぐらい気を使ってアタシ等に紹介ぐらいしろよ。オメエの社交性の無さが致命的なのは知ってるんだ。その少ない交友関係くらいちゃんと記憶してるだろ?」
かなめの声に後ろから駆けてきたアメリアが頷いた。それを見てカウラは驚いたようにエルマの手を離した。
「そうだな。エルマ……エルマ・ドラーゼ警部補。所属は東都警察だったな」
カウラはぎこちない調子でカウラの数少ない親友らしい女性警察官を紹介した。
「そうだが……カウラ。これが噂の『特殊な部隊』の人達か。一見普通なのだが……どこが『特殊』なんだ?『特殊部隊』の間違いじゃないのか?」
エルマの視線が誠達に向いた。かなめ、アメリア、誠。三人ともそれぞれの意味で警察や軍部では有名人と言うこともあり、エルマの部下達も囁きあっていた。
「エルマ。人は見かけで判断するものでは無いぞ。この長身の女性、アメリア・クラウゼ中佐は根っからのオタクで、隣のおかっぱのタレ目のサイボーグの西園寺かなめは産まれついての犯罪者すれすれのサディストで銃を常日頃持ち歩いている。そして、この男が野球以外能の無い乗り物に酔うと何もかもを吐き出す男の神前誠だ」
カウラには悪意は無いようだったが、その紹介内容はあまりにひどすぎた。
「おい、銃を持ち歩いて何が悪いんだ?アタシ等は警察官だろ?銃は職務上持ち歩いているだけだ。別に銃フェチって訳じゃねえ!」
「そうよ!オタクって一言で片づけられても不愉快よね。私は『多趣味』を自称してるんだからそんな簡単に紹介されたら不愉快だわ!もっと具体的に、細かく、細部にわたってカウラちゃんが知っていることを丁寧にエルマさんに教えなさい」
かなめとアメリアは怒りに震えてそう叫んだ。誠は二人の怒る論点はズレていると思ったが巻き込まれるのは面倒なのでいつも通り黙って笑顔を浮かべていた。
「じゃあ、彼があの『近藤事件』の英雄、神前誠か?あの『光の剣(つるぎ)』テレビの映像でも繰り返し見たがあれほどの威力の法術を展開するとは……凄い才能がベルガーの部下には居るんだな」
エルマの関心はかなめ達では無く、むしろ誠に向いていた。
「ええ、まあ、なんと言うか……あれは05式の『法術増幅装置』のなせる業でして……」
深い青色の瞳で見つめられた誠は照れながらどう答えるべきか迷っていた。
「君の活躍は聞いている。今後も頑張ってくれ。ああ、私の紹介がまだだったな。私はエルマ・ドラーゼ。階級は警部補だ。東都警察の機動隊に勤務している。同じ司法執行機関に身を置く身だ。きっと一緒に働く機会もあるだろう。その際はよろしく」
そう言うとエルマは姿勢を正して誠達に敬意を込めた敬礼をした。