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第2話 奇襲作戦を受けて

「いつまでもここに居ても敵に場所を特定されるだけだ。とりあえずこのまま通路を進むぞ」 

 凛と響く声でカウラがささやいた。もう一人の上司である西園寺かなめ大尉はいつもどおり単独で先行して嵯峨の奇襲を受け反応が消えていた。同じところに留まることをしない閉所戦のプロである嵯峨に、かなめがやられた場所の近辺を捜索するなど無意味なことだった。

 通路が分かれる地点でカウラが手を上げて続いて進んでいる誠に止まるように指示を出した。彼女は額に落ちてくるエメラルドグリーンの鮮やかな前髪を払うとポケットからファイバースコープを取り出して閉所戦のマニュアル通りに通路に人影を探した。しばらくの沈黙がその場を支配した。誠は銃の引き金に指をかけたまま緊張感に耐えながらカウラの索敵の様子を見つめていた。

 カウラの手が上がった。そのままわき道を通過しろと言うハンドサインに誠はそのまま立ちあがって続こうとした。

「ピコ」 

 間抜けなハンマーの音が誠の後頭部で炸裂した。驚いて振り向くカウラだが、すでに嵯峨の姿は無かった。ピコピコハンマーでの攻撃を受けて死亡状態となった誠はそのまま銃を掲げて静々と訓練場の通路を歩いて行った。舌打ちして走り出すカウラに誠を盾に隠れていた嵯峨の存在を告げることは訓練の規則として許されないことだった。

 訓練場の建て付けの悪い扉を開き、そのままとってつけたような作業現場の足場のような階段を登り、打ちっ放しのコンクリートの壁の通路を抜け、重い鉄製の扉を開くと重装備の身体には暑すぎるほどに熱せられた待機室にたどり着いた。

 訓練場にはただ一人、カウラが残されていた。

 性格の悪い嵯峨の事である。あっさりと勝負を決めるようなことはしないだろうと誠は思った。

 おそらくはカウラが恐慌状態に陥るまで付近をわざと自分の位置を誤認させるような音を立てながら移動し、恐怖心をあおって正常な判断が出来なくなったところで初めて止めを刺すのがいつもの嵯峨のやり方だった。

 先ほどの第二小隊の時も孤立したかえでの副官、渡辺リン大尉をそんな状態にまで追い込んで、十分いたぶった後に止めを刺した。ただ、マゾであるリンにはそれが快感だったらしく、訓練終了後に愛人であるかえでと火照った顔で熱い抱擁を交わしていた。

「隊長……そんなだから性格悪いって言われるんですよ。勝てるって分かってるなら一気に決めちゃえばいいのに」

 誠は苦笑いを浮かべながらそんな独り言を話していた。誠は自分の部隊『特殊な部隊』がその異名を持つ原因の一つに嵯峨の性格の悪さがあることだけははっきりと理解することが出来た。

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