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裏切りの結末

玄助は冷静に詰みである事を深雪に話す。

「いつも横にいて観察してたよ。深雪を倒すために」

攻撃しても手ごたえがない。誰も当てることができない。
深雪はそこに見えて、そこに居ない。

「そのブローチが本体なんだ。でもこれで終わり」

本当の深雪を玄助は知っている。近寄る。

「きちゃ駄目……」

声が漏れる。深雪の不安なのか。玄助への心配なのか。
だが何を言われようと玄助は止まらない。脳には殺せと指令が来ている。

「は……?」

髪に残ったブローチの残片が鈍い光を放つ。立ち止まるには遅すぎる。

「駄目って言ってるのに!!!!!」

怒りは止め度なく(あふ)れ、感情は力になる。
深雪の髪が逆立ち氷の龍となって周囲に(ほとばし)る。
氷は玄助を串刺しにし、玄助の腕も深雪に突き刺さる。

 白蝋王は同士討ちの結果を、哂いを堪えられない顔で見つめる。
愚かな者共には自ら手を下すまでもない。だが、違和感がある。

「おかしい……」

空中に精霊(しょうろう)の門が開く。深雪は力を失っていない。
虚ろな表情で玄助を抱える。二人は瞬く間に中に吸い込まれた。

 灰色の風景、無の空間。
玄助への攻撃は幻。さっき起きた現実は仮想でしかない。
横には項垂(うなだ)れた玄助がいる。

「ゴメン」

操られていたのは分かっている。こちらも攻撃し返した事実を謝る。
少しだけ聞きたいことがあると玄助に伝える。

「何でも言って」

そう言ってくれたので、どこまで意思を支配されていたかを聞く。
意思がはっきりしていて言わなかったら裏切られた気持ちになる。
はっきりしていなくても問題だ。祭りの時のように、大切に思う気持ちを形にしたなんて信じられない。

「支配されているつもりはなかったんだ。白蝋王が近いと駄目みたいだね」

半ば予想した誰も傷つけたくない答えが返ってくる。

「何かされた後、分かっていても言いにくいことがあるのでしょうね……」

言いにくくても玄助が話せる深雪であったならば。
心の壁は全ての行動から生じる。深雪の行動から変えなければいけない。
 時の螺旋が巡り始める。

「輪廻無きあなたはこの空間を繰り返す」

記憶が投影されて人影が語りかけてくる。輪郭は(いつき)
時間に巻き戻しがかかる。深雪の姿が段々と昔の姿に変わっていく。玄助が呟く。

「この瞬間は嫌だよね」

傷は癒され、記憶は新しい情報に塗り替えられる。
光に包まれ――

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