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第十二話_大好き。

「……ん…」
薄い、朦朧とした意識の中、雅は目を覚ます。
「あら、起きたのね」
…あれ、なんで目の前に美少女の顔が?俺、何してたんだっけ。確か得意属性の事をフィレイと話してたら…。
「あっ!」
「(そうだ、あの後キレて彼女に八つ当たりをしてしまったんだ。)」
思い出すと急に恥ずかしくなる。
「ふふ…」
だが、なぜ美少女が目の前にいるのだろう。全く繋がらない。
「(ん?俺は横たわっている?)」
……だんだんと状況が理解できてきたぞ。
もしや、これは
「俺、美少女膝枕を体験しちゃってる?」
「びっ、美少女…」
そういわれた美少女(フィレイ)は顔を赤らめる。
「いや、恥ずかしがるのはそこじゃなくて普通は膝枕の方が恥ずかしいだろ」
「う、うるさいわね!」

「……落ち着いた?」
「ああ…今何時?」
「午前11時ね」
「…あぁ、俺は…」
「(急に取り乱してひどいこと言ってしまったな)」
「…すまんな。関係ないのに。わがままなことしちまって」
「いいの。貴方の事をもっと知れた感じがしたわ。そして、貴方の事をもっと好きになった」
「っ」
「その様子だと心から信頼しているのは本当にごく少数みたいね」
小さく可愛らしい手で俺の涙を拭ってくれる。
「でも、びっくりしたのよ?急に怒りだしたと思ったらかなりバイオレンスな出来事だったんだから」
フィレイは微笑んで雅に話しかける。
「ああ、ごめん。どうかしてた。いや、実を言うと今も結構どうかしてるのかもしれない。だって俺は独りでこの世界にいるんだぜ?怖いよ。でも、それを強引に隠して生きてる。今もそうだ。いっその事自殺すればいいのに。って思ってる。でもできない。それすらも怖いから。馬鹿みたいな話だな。うん」
「ううん、そんなことない。貴方は気づいているはずよ。自分が死んだら悲しむ人も出てくることを」

「……」
「(誰のことを指してるんだ?翔か?お姉ちゃんか?家族?)」
「少なくとも翔は悲しむだろうな…」
「貴方のお友達?」
「親友だな。あいつがいたから俺は今まで生きてこれた。でも、こっちに飛ばされるときに途中まで一緒だったんだけど急にいなくなったんだ」
「大丈夫なの?って、わかるはずないわよね。ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。あいつはしぶとい。絶対にどこかで生きている」
そして自分の手のひらを見つめる
「そうだな…。とりあえず、翔を探そう。それを目標にしよう」
そうでもしないとまた現実を見てしまいそうだ。

「私の…話も聞いてくれる?」
「……ああ」
「私の生まれはね。クローズワールドなの」
「………」
予想はついていた。無言で続きを促す。
「私のおじいちゃんとおばあちゃんが若い頃に皇帝が即位して、クローズワールドは平和主義から戦争主義になったの。この時の皇帝が、今の魔王よ。寿命という概念を軽くあしらって生きてるらしいわ。
戦争主義になったら当然、祖父母はワイドワールドに移住したわ。クローズワールドのときはアシュベル家は第1貴族で祖父母が学者をしていたの。
でも、クローズワールドの移住者は皆差別されたわ。向こうはワイドワールドからの刺客とでも思ったのでしょうね。身分を証明できないものは殺されるか奴隷にされるかスラムに暮らすしか道はなかったの」
「アシュベル家は無事だったのか?」
「ええ、一応は。でも階級が第六貴族だったから生活がとても厳しかったらしいわ。なんとか今は第五貴族にとどまってるけど、状況はあまり変わらないわ。
私のお母さんはとても美しくて困っている人を見ると必ず助けようとする。超お人よしだったの。だから、クローズワールドだろうがワイドワールドだろうがすべての人のために力を注いだわ。特にスラムの人たちにはね」
「……」
「でも、スラムの人たちを救う行いが上級貴族に知られたの。彼らはスラムの女の人たちを侍らせて性行為を行うのが趣味だったらしいわ。その楽しみが減った彼らはお母さんを殺したの。私がまだ2歳の時よ。だから私はお母さんを知らない。そしてお父さんは上級貴族に対してとてつもない怨念を持っているわ」
雅の頬にいくつもの涙が零れ落ち、彼女はそれを拭うことなく話を続ける。

「私のお父さんは今も階級を上げるために一生懸命研究を行っているはずだわ。君がここに住めるのもお父さんが上層部にかけあって交渉してくれたからよ。…話がそれちゃったわね。ふふ、もう何を話しているのかわからなくなってきたわ」
とても悲しい笑みだった。
雅みたいに怒鳴ってはいないが、これが彼女の壊れているサインだというのは雰囲気で伝わった。
雅は頭を上げ、彼女を抱きしめる。
「お前も、大変だったんだな。多分学校でも差別をされてきたんだろう。でも、大丈夫だ。
これからは俺が守ってやる。だから安心しろ」
精一杯力を込めて言う。
その言葉に彼女は微笑んで
「…ええ、ありがとう。大好き」
そう、言ってくれた。
「(表面上だけでもいい。俺たちはこういう関係が欲しかったのかもしれない)」



ーーーー一方、その様子をドアの隙間から覗いていたクレハとスミルというとーーーー


「きゃー!!ねぇねぇ!大好きだって!きいたスミル!!」
「う、うん。アハハ」
スミルはフィレイと光流を見て、

「(フィレイ様と位置を変えてもらいたい)」

そう必死に思うのであった。

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