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第十一話_基礎知識を学んじゃおう3

「もう、どうして夜遅く、っていうか朝まで得意属性調べてるのよ!!あんな体力使う事しなきゃいいのに!!」

とある屋敷の一室に甲高い声が鳴り響く。

「すまんすまん。雅君の魔力量が大賢者様と同等と聞いたものだからつい熱が入ってしまって」
笑いながらゲン・アシュベルは娘に向かって頭をさげる。
「まったく…。あ、起きたのねミヤビ。大丈夫?もう少し寝てる?」
「(うう、眠い。けど今日はフィレイに特訓してもらうんだからしっかりやらないとな)」
「ああ、短い睡眠だけど意外と目が覚めてるし行けるかも。ふぅぁああ」
大きな口を開けてあくびをする。
「そう、んで。お父さんは昨日の研究で何かわかったの?」
「ああ、この資料に書いてある…私はもう少し寝ることにするよ。明日から仕事だからね…すぅ」
ゲンさんは雅のベッドに顔を埋めると1秒後に寝息を立てた。

「全く。ごめんね、うちのお父さん本当に魔術好きだから」
そう言って彼女はペラペラと資料のページをめくって確認する。
「気にしないで。俺も結構楽しかったし」
「そうは言っても…へ?」
資料を見ていたフィレイの手が止まる。
「どうした?」
「噓でしょ…?得意属性が雷?第2が風?他は全部不得意……???」
「え、何?やばいの?すごいの?」
「やばいってものじゃないわよ。貴方、攻撃系の魔法が圧倒的に不得意よ」
「うそだろ…?え、じゃあ限界値?だっけ。それ測ったときに使った炎魔法はどうなるの?」
「あれは普通に制御ができていなかったってことだわ。確かにおかしいもの。あんな炎の燃え方」


「どうぞ。ディンブラです」
「えぇ、ありがとう…」
「…ズズ」
これで何杯目だろうか。先ほどからずっとソファに座って資料と睨めっこしている。
「はぁ…」
「なぁ、結局のところ雷と風は使えるのか?それだけ教えてくれないか?」
「……ぇない」
「…え?」
「使えないわよ」
そう言うと心底悲しい様子で肩を落とす。
「得意属性って言うのはね自分の体のMP。マナって呼ばれる魔法精霊が得意とする魔術の事で第一属性、第二属性までアクアに登録することができるのね」
「ふむ。ってことは一般的には炎属性の方が出やすいってことか」
「正確には光も含まれるけどね。風はまだあり得るとしても雷が第一属性なんてありえないわ。今までで見たことないわよ」
「属性は何種類あるんだ?」

「そうね、まずはそこからよね。まずうちの学校で4割ずつ占めている炎、光の属性。私は第一属性に光が置いてあるわ。次に第二属性に選ばれやすい氷と土の属性。私は氷を第二属性においてあるわ。闇属性もあるんだけどこの属性は人間じゃ手に入れられない。クローズワールドの住人が持っているわ」
「クローズワールド……」
住人とオブラートに包んでいたが、実際は蛮族たちで詳しくゲンさんに聞いたら人ではなくゴブリンなどのラノベに出てくる敵と完全に一致していた。
「そして、この世界でも確認されているのでも2人しかいないとされている雷属性」
「なぁ、それって不得意な属性を練習すれば得意になるんじゃないのか?」
そう言うと彼女は顔をぐいっと近づけて俺をにらんだ。

「(……近い近い。怖い怖い。可愛いなぁ…へへ)」

「そんな簡単な問題じゃないの!マナはその人の根幹をなす存在だからそうそう変えられないのよ」
「分かったから顔をどけてくれ…」
指摘すると彼女は顔を赤らめて飛び退く。
「ごっ、ごめんなさい!!…こほん。話を戻すわよ。雷属性の重要性だけど得意属性に選ばれる確率が少ないからって強いわけじゃなくて攻撃系統魔法がないのよ。その代り補助魔法が充実してるけど普通に魔力消費が激しいし、ましてやそれを抑えようとすると何年もの修業が必要になるのよ。この情報も本からだから実際のところはどうしようするかは後2人の適正の人を探すか自己流にアレンジするしかないわ。風魔法は雷とほぼ同じで防御系統魔法と補助魔法が充実してるけど攻撃魔法が一切ないのよ…だから雷よ相性がいいかと言われればそうでもないのよ…。まぁ、サポート能力に長けてる人材だったら十分でしょうけどね」
「そうか、でも選んでしまったものは仕方がない。とりあえずトレーニングしようぜ」
雅の言葉に彼女は少し驚いた様子で聞いてくる。
「…貴方、悔しくないの?これじゃあ、戦えないのかもしれないのよ。クラスのみんなにだって笑われるかもしれない。それでもいいの?」
その言葉に雅は笑って答える。
「お前は人に賞賛されるために入学したのか?努力を誉めてほしいからか?」
「っ違う!!私はそんな甘い気持ちで入学したわけじゃない!!!いい加減なこと言わないで!!」
彼女は眉間にしわを寄せて怒鳴った。
「私はあんたみたいに成り行きでこの学校に通ってるんじゃないの!ちゃんとした目標があるの!あんたみたいな…」

「俺は人を殺したことがある」

そして雅の言葉で一気に目力がなくなり驚きの顔へと変貌する。
「嘘よ。お父さんから聞いたわ。貴方の元いた世界では人を殺すことはかなりの罪に問われるって」
「ああ、でもな。俺は無罪だったんだ。なぜだか分かるか?少年法と同情が存在していたからだ!!」
雅の中の何かが切れて心から洪水のように痛みが流れ出す。
「最初は女の子を助ける為だけに動いていた!!だって彼女苦しそうにしてたから!今にも死にそうだったから!俺は力を持っていたから!!助けないとって思うのは当然だろ!?でも結果的に残ったのは達成感ではなくて人を殺したという事実と彼女の怪物を見るような眼だ!!おかしいだろ!!!
なんでだよ!!俺はあんたを助けたんだぞ!!感謝こそされ恨まれることはないはずだろ!?…わがっでんだよ!!俺は一人の首を木の枝で突き刺してもう二人の首の骨を折ったんだもんな!!
次は自分の番かと思ったんだよな!?怖かったんだよな!!俺の事怖いよな!!??
でも、なんで罪を償えないんだよ!!死刑にすればいいだろ!?
少年法?同情?
ふざけんなよ!!俺は罪を償いたいんだよ!!なんでこんなに訴えているのに聞いてくれないんだよ!!
なんでみんな俺の事そんな目で見るんだよ!!やめろよ!俺はみんなと仲良く暮らしたいだけなんだよ!!
それでさ!?しまいには異世界に召喚されるし!なんなんだよ!!
ワイドワールドとクローズワールドは戦ってる??知るかよ!!そんなのに俺を巻き込むな!巻き込むんだったら俺は真っ先に死ぬぞ!!いっそのこと死んだ方がましなんだよ!!こんな世界!そうすればあの3人も許してくれるんじゃないのか!?地獄でもなんでも行ってやる!!
だがら…おねがいだがら…許し…てよ…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

なぜ、ここまで彼は一気に崩れてしまったのか。それは今は本人にもわからないだろう。
雅の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっており、見るのも辛い表情になっていた。
「……」
そんな顔をフィレイは驚き半分、落ち着き半分で見ていた。
そうして、彼女は雅の頭を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「ごめんね、本当はすごく感謝してるんだ。ありがとう、あんな顔をしちゃってごめんね。本当はお礼を言うつもりだったのに、足が震えて言えなかったよ。でも、君が責任を感じることは無いよ。だから改めて言うね。ありがとう…私を助けてくれて」
少しでも助けた女の子になって彼の罪の意識を和らげてあげたい。そう思いながら彼女は言葉を続ける。
「ミヤビ。貴方は間違っていたのかもしれない。力をふるって人を殺した。でも、
貴方が力をふるわなければ彼女は傷ついていたかもしれない。ひどければ死んでいたかもしれない。
それにあなたがふるったのは『暴力』ではなくて『力』よ
あなたは、
3つの命を助けるか。
1つの命を助けるか。
この二つの選択を迫られただけにすぎないわ」
「お、俺は…ただ、みんなに仲良くなってもらいたいだけだった。本当にただそれだけなんだ…。なのになんで暴力ばかり…」
「うん、分かるよ。君は優しい。さっきはごめんね。急にあんなこと言って。君になら本音を言ってもいいのかなって思って言っちゃったんだ。だってミヤビのマナは他の人とは暖かさが違うもの…。
私にはわかる。不可抗力だったって。でも、あなたは責任を負うことにした。だから今に至る…違う?」
「うるさいうるさい!!!お前に何が分かるんだ!!俺は人殺しだ!責任を負うのは当然の事だろ!!なんでみんな俺にやさしくするんだよ!!俺を殴れよ!人殺しって言いながら!!そうすれば少しは楽になったのに!!」
雅はフィレイを払おうと腕に力を入れる。しかし、その腕は動く気配がなかった。
「辛かったのね。みんなの優しさが棘になってあなたを刺していたのよね。ごめんなさい。辛かったよね。こちらの世界に召喚されるだけでも相当なストレスだったでしょうに。気づいてあげられなくてごめんね。一人で心細かったでしょう。でも、大丈夫だよ。私がそばにいてあげる。だから泣かないで?ね?」
「うるさいうるさい…俺…は…」
ひとしきり泣いたのか雅は顔に鼻水と涙を浮かべながらフィレイの胸で心地よい吐息を立てて寝ている。
「やっぱり…眠かったのね…」
そう言って彼女は雅の髪を撫でながら子守歌を暫く歌っていた。

そのドアの隙間から2つの影が浮かんでいた。
2人のメイドは彼女の顔に浮かぶ悲しげな表情になんとも言えない気持ちになっていた。

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