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第14話 死で得た一手

第1章 死に戻り地獄の序章

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 カチ。

 視界が歪む。
 火の粉のようなノイズが世界に散らばり、
色のない空間からゆっくりと現実が浮かび上がる。

 タタルは、村の裏手にある倉庫の屋根で目を覚ました。

 「……戻ったな」

 指を握る。まだある。
 腹も穿たれていない。肺も動く。

 けれど、脳は確かに“死んだ”ことを知っていた。

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 (あの魔物……)

 細長い四肢。
 骨を変形させて刃に変える腕。
 動きは速いが、踏み込みは極端に直線的。
 そして、跳躍時に膝を必ず曲げるクセがある。

(死の直前、奴の爪は右から来た。
俺は避けようとして左へ跳んだが――地面に“罠”があった)

 そう。あの場所には、村の木製防壁の杭が埋まっていた。
 タタルは自分で避けたはずの方向に“殺される誘導”があったことを理解した。

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 つまり、次にすべきことは――

「避けるふりをして、誘導させ、逆に刺す」。

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 タタルは剣を抜いた。
 前のルートで拾った、ライエルの細剣。
 軽く、鋭く、何より“殺す”ために造られた剣。

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 再び村の裏森へ。
 魔物たちは同じ位置から現れるはず。

 なぜなら、この世界はロードされた“その時点”までは再現性を持っている。

 それが【ランダムセーブ】の性質だ。

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 風。木の揺れ。
 そこに、空気を裂く音。

 来た。

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 魔物の跳躍。
 5体。先頭の1体がタタルを狙って一直線に突っ込んでくる。

 右から爪。
 前回、それにやられた。
 だから、今回は――同じ方向へ“飛び込む”。

 「あえて殺せ、俺を!」

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 魔物の爪が伸びる。

 その刹那、タタルは地面を転がってその腕の内側へ入り込む。
 爪は空を裂き、魔物の体が回避不能の姿勢に固定される。

「そこが、隙だ!!」

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 ズバッ!!

 タタルの剣が、魔物の喉を貫いた。
 断裂音。
 血ではなく、黒く粘ついた液体が吹き出す。

 魔物の身体がビクンと跳ねて、崩れた。

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 他の4体が次々と動き出す。
 だが、タタルはすでに「行動順」と「個体差」を見抜いている。

 2体目――右肩が異様に張っている。利き腕の切り込みが一瞬遅れる。
 3体目――動きは速いが、ジャンプの着地が必ず“2歩ブレーキ”を挟む。

 全部、前回の死で見た。

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 タタルは“未来の死体から得た情報”を武器にして戦った。

 1体ずつ、確実に。
 見切り、刺し、裂き、潰し。

 3分。
 5体の魔物は、すべて地に伏した。

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 「……勝った、な」

 タタルの剣が血に濡れている。
 呼吸は荒い。左腕は爪で裂かれ、骨が見えていた。

 それでも、生きている。
 死んで、勝った。

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 (このスキル……)

 タタルは空を見上げた。

 (戦いを“やり直せる”ことより、死ぬことで敵を理解できる。それが本質だ)

 ただ死ぬだけなら、意味はない。
 記憶して、積み上げて、読み切って、“次で殺す”。

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 タタルはそうやって、
 “死を一つの選択肢”として、戦いの中に組み込み始めた。

 それは、正義でも英雄譚でもない。
 ただ――「戦いの効率化」。

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 誰かが言った。
 「お前は死なずに、勝ちたいとは思わないのか?」

 タタルはこう答える。

 > 「思うよ。でも……死んだほうが、手っ取り早いこともある」


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