第13話 変わった未来、変わらぬ死
第1章:死に戻り地獄の序章
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村は、静かだった。
あの地獄のような夜――
村人に裏切られ、炎に焼かれ、仲間に斬られ、子どもたちに笑われて死んだ、
“あの夜”は、もう来なかった。
なぜなら、
タタルがすべてを変えたからだ。
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老いたスパイ・ハンゾは、首を斬られて死亡。
娘ミーナは、裏切りの前に処断された。
隊長ダルクは、裏切りの剣を抜く前に返り討ちにされた。
彼らが“未来で裏切るはずだった記憶”は、タタルの中にしかない。
世界は、静かに“狂いを修正”した。
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「タタルさん……あの、ありがとう。私たち、守ってくれて」
村の若い娘が声をかけてくる。
警戒心も、疑いもない目。
前の世界線では、
彼女も最後にはタタルを「魔物と同じ」と言って石を投げたはずだった。
だが、今回は――彼女は笑った。
「よかった……誰も、死ななかった」
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(死ななかった? いや――**俺は何度も死んでる。**)
タタルは、思う。
自分が払った死の記憶を、誰も知らない。
ライエルの剣。トグスの鉈。焼けた肺。失った指。潰された眼球。
それらの“代償”によって変えた未来は、
誰にも見えない。
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夜。
タタルは焚き火の前で、手のひらを見つめていた。
指は全部揃っている。
でも、自分では気づいている。“この手は一度、吹き飛ばされた”ことを。
彼は静かに剣を研ぐ。
死んで、戻って、また殺して、それでも――また、次の死が待っている。
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そのとき、警鐘が鳴った。
「魔物だ!! 西の森から、群れが来ている!!」
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立ち上がる。
剣を手に取り、タタルは走る。
背筋に、死の気配が走る。
(結局、“裏切り者”を消しても、次の死は必ず来る)
でも、それでもいい。
誰かが生き残る未来を手にしたのなら――
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森の中。
闇から現れた魔物は、人型の異形だった。
牙が骨から飛び出し、腕は人間のものをねじ曲げたように歪んでいる。
数体。
だが、タタルはすでに知っている。
(こいつらに殺された未来は、まだ一度もない)
つまり――
これは“初手”だ。情報も、パターンもない。
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「なら、一度くらいは――死んでやる」
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剣を構える。
その姿は、もはや“生きるための戦士”ではなかった。
死ぬことで、次の勝利を掴む者。
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魔物が跳ぶ。
タタルも跳ぶ。
交差――
刃が振るわれ、肉が裂け、骨が砕け、血が舞う。
視界が、崩れる。
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(……この感覚、もう慣れたはずなのに――)
身体が、地に倒れる。
腹を穿たれた。肺が潰れた。脳が、酸欠で痺れる。
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カチ。
ロード音。
次のループへ。
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