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第7話 首は、刈り取られるために

第1章 死に戻り地獄の序章 

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 空気が張りつめている。
 まるで空間ごと、何かが“殺意”で染め上げられていた。

 ここは平原。
 盗賊団の移動ルートであり、“狩りの場”でもあった。

 タタルはその中央に立つ黒衣の男を見つめていた。

 名前はライエル。
 元は王国の近衛剣士。今は盗賊団に雇われ、裏切り者の抹殺専門として動いている。

「命乞いは? あるなら聞いてやるが」

「ない。お前の剣がどれほど速いか、知ってる」

「なら話は早い」

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 タタルは剣を構えた。
 が、身体が震えていた。
 それは恐怖じゃない。条件反射だ。

 なぜなら――
 この敵に、タタルは“すでに四度”首を落とされて死んでいる。

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 ライエルが、動いた。

 "瞬き一つの間に"――間合いを詰めてくる。

 その動きに、理屈は通じない。
 正確に言えば、“理解できた瞬間には、もう身体が斬られている”。

 タタルは咄嗟に上体をひねって回避しようとするが、間に合わない。

「くっ──!」

 音がしない。
 それほどに、ライエルの一撃は“滑らか”だった。

 次の瞬間、視界が斜めになった。

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 (ああ、また……やられた)

 首元に“何かが触れる”感覚。
 それが、刃だと気づくには遅すぎた。

 ヌルッ。

 首の筋が切れる。
 皮膚よりも、筋肉よりも、動脈のほうが先に気づいていた。

 温かいものが噴き出す。

 だが、タタルの目はまだ開いている。
 音が消えた。
 世界が遠ざかる。
 視界が灰色に落ちていく。

 (息が、できない……声が……)

 口を開こうとしたが、顎が動かない。
 当然だ。首は、もうつながっていない。

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 タタルの頭部は、地面を転がった。

 重力に引かれ、草の上を滑る。
 遠ざかる地面の景色。
 ひとつ、ふたつ、回転した先に見えたのは――

 自分の身体が、首のないまま膝をつく姿だった。

 「……俺……」

 最後の意識が、そこでぷつりと消えた。

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 カチ。

 ロード音。視界が反転。

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 次に目を開けたとき、タタルは平原の入り口に立っていた。
 ライエルがまだ現れる前。
 つまり、また戦える。

 彼は喉元に手を当て、首があることを確認する。

「……この死、五度目。……もう、同じパターンには乗らない」

 ライエルの剣筋。初動。接近の角度。風の流れ。

 すべてを“記憶”している。
 五度殺された痛みを、“戦術”に変える。

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 その目は、かつての人間のものではない。
 五度死んでなお剣を構えるその意志は――

 死に勝る、戦意。

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