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第20話 共鳴 Resonance

翌日 ドンラグエ 近くの草原
「俺は訓練担当のエクエスだ。そいつがあんたの獲物か。」
昨日一緒に宿酒場にいた坊主頭の男が銃剣型の魔具<ガイスト>を構える。
訓練用に剣の部分は刃がないものになっているが。
「インドラとアシュヴァルだ。
インドラは電撃を出して、アシュヴァルは魔素を散らしたり集めたりできる。」
俺はインドラとアシュヴァルを見せる。
「かなり特殊な魔具<ガイスト>だな。
共鳴させるならまずは理解をすることだ。」
「――えぇ。
それは声と対話するような感じですよね。」
「対話か、まぁ出来るならそうだな。
通常の魔具であれば、己の呼吸、脈拍、手の型、代謝
一番代表的なものは音、つまり言葉だな。」
「――なるほど。」
(小僧、1つ言っておくと滅侭杵は共鳴ではないからな。
あれは我の力の制限を外して本来の力を発揮しているだけだ。)
分かってるよ。めちゃくちゃ燃費悪いしな。
「まぁ、聞くよりやってみる方が身につく。
構えろ。戦いながら感覚を掴め。」
ドッとエクエスが本気で剣を振り下ろす。
それと同時に炎と風が剣に纏われ、ドッドッ!と増大してく。
「ヴァジュラっ!」
俺はインドラの呼吸を感じるようにして、雷を放つ。
剣にぶつかり、炎が消え去る。
「もう1回!」
エクエスの剣が再び炎と風を今度は腕まで纏わせて斬りかかってくる。
「ヴァジュラ、アシュヴァル!」
アシュヴァルで魔素を吸収し、ヴァジュラの雷を剣に向かって放出する。
バチッ!!!
俺の雷撃が剣とぶつかり、激しく雷が飛び散る。
「今のは少し掴めて来たな。」
だが炎を少しくらった。
「くっ
何となくですけどインドラの場合は魔素が大量に必要な気がします。」
「そうだな。だがそれだけじゃねぇ。
今のは共鳴が不完全だ。」
複数の条件があるんだな。インドラもアシュヴァルも教えてくれよ。
(楽をするな、小僧!
というよりお前の肉体と我等の力がどういう条件で共鳴するのか分からん。)
(そうだぞ、小僧!
むしろ我等とて貴様と波長を会わせたいのじゃ!)
何か2本に怒られてしまった。
「色々試してみたまえ!」
ゴッと激しく剣を振り払われ、俺はアシュヴァルで受け止める。
一瞬だけ何かが伝わってきたような感覚がある。
「アシュヴァル!」
ゴッ!!と炎をアシュヴァルが一瞬で無効化した。
「今のだな。半分ぐらいは共鳴現象が起きてたな。」
「教官は生ぬるいんだよ。」
ブルガンが俺にめがけて銃を向ける。
ブルガンが銃の引き金を絞った瞬間に
「ヴァジュラ!」
俺はインドラの電撃をブルガンの銃口めがけて放つ。
ドッ!と雷撃と銃弾がぶつかり、
銃弾が完全に砕け散る。
「流石に今のは当たったら危なかったぞ。」
エクエスがブルガンの銃を取り上げる。
「――教官、こいつは戦った方が上達が早いし、
何より気に食わねぇ。」
「お前の私怨だろ それ」
「戦いの中で追い込まれた方が強くなれるってタイプもいるんだよ。
才能のある人には分からないだろうけど」
「――そうか、だが実弾は禁止だ。
ゴム弾で行うといい。」
「そういうわけだ。俺が相手だぜ。転生者!!」
「ブルガン少尉だったか、助かるよ。」
「ゴム弾とはいえ頭にあたりゃ死ぬこともあるんだよなぁ!!!」
ドドドッ!!ブルガンが銃を俺の頭部めがけて連射する。
「ヴァジュラ!」
俺はインドラの雷撃でゴム弾を弾こうとするが
「しまっ!」
ゴム弾なので電撃が通らない。
俺はぎりぎりで上体を反らして銃弾を避けつつ
後ろにバク転して下がる。
「このゴム弾なら共鳴した魔具の威力以外じゃ迎撃できないぜ。」
ドドドッ!とブルガンが執拗に俺の頭部を狙って発射する。
アシュヴァルで頭部に当たる銃弾を弾きつつ、インドラの電撃で撃ち落そうとして
俺の肩にドッ!と激しい衝撃が伝わる。
「っ」
「こっちの方が身が入るだろ。死ぬかもしれねぇがな!!」
ダダッ!!とブルガンが銃を乱射する。
リロードが速い!
ドドッ!!と俺の胴体にゴム弾がめり込む。
「がっ」
痛みのあまり膝をついてしまった。
痛ってぇ、あの野郎 共鳴が使いこなせるからかは分からないが
弾の威力が上がっていってる。
「いい射撃訓練になりそうだ!」

俺とブルガンの半ば戦いの訓練は4日ほど続き、
俺も3回に1回ぐらいは共鳴を発動させれるようになった。
俺の場合は今まで通り、戦いの覚悟であった。

ドンクリフの滞在最終日
俺達はエヴァネスさん達に別れを告げ
俺とエルとヴィヴはエヴァネスさんの転移魔術で連邦の西部に転移した。

アスター・ヴェルドリア連邦国 フォンス森林地域
俺達は連邦西部にあると言うコルプガイスト一族の街へと進んでいく。
「結局、サトーは完全に共鳴は出来ないか。」
「えぇ。俺にはまだ覚悟が足りないと。インドラとアシュヴァルに言われてます。」
「――きっかけはつかめたのか。」
「ゆっくりやっていけばいいじゃない。
当分は私達が転生者と戦うことはないでしょうし。」
「作戦が1カ月だったか。」
「インドラもアシュヴァルも特殊な魔具<ガイスト>だからコルプガイスト一族が何か知ってるかもしれないわ。
インドラの言う覚悟ってどういうものなのか分からないし。」
「その魔具は特殊だろうから
ムハバラト産だろ。
あっこは一切書を残さない文化だしなぁ。」
「ともかく次の目的地はコルプガイスト一族の街ね。
外界からの一切の干渉を断った一族と接触する方法も考えないといけないし。」
「それだけじゃねぇぜ。帝国の資料にはコルプガイストの接触方法は
北の王国の血縁者を連れていく必要あり とか書いてるし。」
厄介すぎるな。
北の王国は既に滅びている。
王族を探そうにも手がかりが一切ない。

俺達は謎を抱えたまま連邦を横断し、西部にあると言われるコルプガイスト達の地域に入った。
道中でインドラとアシュヴァルの共鳴は何度か起こせた。

連邦西部 スピリツ山岳地帯
いくえにも入り組んだ地形が人の侵入を拒む山岳地帯だ。
「はぁ~。山登りかよ。」
「ヴィヴ 先に言っておくけどその斧は誰も持って運べないわ。」
「分かってるよ。」
ヴィヴの斧は推計でも10キロ近くある。
それだけで重装備を持って山を上るようなものだ。
「しっかりそろそろ付かねぇのか
何日歩いたんだよ。」
「合計で20日ね。
途中で休憩もはさんだけれど
平均的な旅程だと思うわ。
この辺りからは周辺を散策しながら進みましょう。
帝国の地図だとこの辺りなのは間違いなさそうだし。」
「まぁ 道中で魔獣相手に肩ならしが出来たのは良かったけどな。」
ヴィヴの場合はどっちかというと魔獣の肉が目当てだろうな、
大体は一撃で倒してたし、肩ならしにもなってないだろう。
「サトー 共鳴はつかめたか。」
「えぇ ここ2日でインドラは少しずつですが。」
「へぇ 見せてくれよ。」
ヴィヴがブンっと遠くの魔獣に石をぶつける。
ぎりぎり俺でも見えるが、大型の鹿のような魔獣だな。
角がやたらとでかい。
「インドラ 頼む。」
(少しぐらいは力を貸してやる。)
インドラからいつもより大きな放電が起こり、それが俺の右腕の周りを纏うように続いている。
「へぇ。早朝にこそこそ練習してたやつか。」
「はは バレてましたか。」
魔獣がこちらに気づいて角を向けて突進してくる。
「アル・セヴェル 角から出る分泌液は爆発するから気を付けて。」
「あぁ。」
ドッと一気に距離を詰める。
インドラの力で俺の袖に仕込んでおいた銀貨が飛び出す。
ドゥッ!と電磁力の力で打ち出された銀貨がアル・セヴェルの角を砕き。
ぐもっ!!!と鳴きながら突進を続ける
「ヴァジュ」
「ヴァジュラは使うな!!」
ヴィヴが叫んだ瞬間に俺はとっさにたまっていた電荷を空に向けて雷撃を撃つ
「どういうこと!?
もうっ!」
エルが暴風魔術で俺の足元で上昇気流を発生させ、
それに合わせて俺は飛び上がる。
ドッと アル・セヴェルが足元を走り抜ける。
「っ!」
俺は何とか着地し、アシュヴァルを構える。
「どういうことですか?」
「・・・しょうがねぇんだ。
インドラの雷で魔獣を殺せば肉がまずくなるっ!!!」
ヴィヴが本気でしょうがないという顔をする。
そういえばヴィヴはここずっと首を一撃で落として仕留めてたな。
「そ そんなこと!?」
「いや 旅が長くなるほど、飯の旨さは大事になってくる。
エルリーフには分からねぇかもしれねぇが。」
「でも今のはサトーが危なかったわよ!?」
「大丈夫です。」
アル・セヴェルが残った角から分泌液をふりまく。
「爆発が来るわ!」
ドドドドッ!!!!
アル・セヴェルの通った道が全て順番に誘爆し、
俺は間一髪で飛び下がる。
「ほら! やっぱりさっきインドラで留めをさしておけば!」
「ならあたしがやる!」
「いえ 俺に任せてください。
そろそろ掴めそうなんです。
アシュヴァルに必要な覚悟が。」
「! それは」
アシュヴァルを鳴らす。
そう、インドラの力は解放すると俺の体が持っていかれるが、
アシュヴァルの力は解放しても。
(我の力は集散 魔素<エレメント>を散らし、集める力
敵は魔素<エレメント>が散り、小僧の魔素<エレメント>を凝集する)
そう魔素だけではなく周囲にある全てを受け入れる覚悟。
「マハ・プラナ」
アシュヴァルの鈴の音があらゆる物質に反射し、拡大していき。
音が届く範囲の魔素<エレメント>が全て俺の元へと集合していく。
そしてアル・セヴェルの元にあった魔素<エレメント>がなくなり
カチッとアル・セヴェルが爆発させようとしても不発に終わる。
「――なるほど。
アル・セヴェルの分泌液の魔素<エレメント>が消えたから爆発が起きないのね。」
「へー 便利な能力だな。
だが」
「ぐっ!!!」
周囲の魔素<エレメント>を集めすぎたせいで全身がとんでもなく重く感じる。
(我の片側の力しか使えぬとは やはりまだ完全解放とはいかぬか。)
「どういうことだよ。」
「魔素<エレメント>中毒よ!
何か放出をして!」
アル・セヴェルが突進してくる。
俺は辛うじて横に転がって躱す。
(インドラを使え、あやつは大食いだ。)
「ヴァジュラっ!!!」
ドッとアル・セヴェルの足元に電撃を放つ。
「へぇ 電撃を直撃じゃなくて足止めに使うとはね。」
数発アル・セヴェルの周囲に雷を無駄撃ちして周囲の魔素<エレメント>を減らす。
そして足止めしたアル・セヴェルにとびかかり
「安らかに。ちゃんと食べるからな。」
アル・セヴェルの首元にアシュヴァルを突き立てる。
アル・セヴェルが完全に息を止めて倒れる。
「へー やるじゃねぇか。」
「共鳴現象が起きてるみたいね。
インドラからも、アシュヴァルからも魔素<エレメント>の鼓動が聞こえる。」
「いやー うまくヴァジュラを当てずに倒せたな。」
ヴィヴがバシバシ俺の背中を叩く。
「別に雷が当たっても食べれるわ。」
「エルはバカ舌だからな。」
「そ そんなことないわ!!
ねぇ サトー」
俺は目を反らす。
「サトーだって最初に私の家でごちそうした時おいしそうに食べてたし。」
「よっぽど腹が減ってたんじゃねぇか。
ともかく捌くのは分担するとして味付けはあたしがやる。
いいな サトー?」
「はい。異論なしです。」
「ちょっと!?」
「エルリーフは薄味が好きなのは分かるがな。
一日中歩きっぱなしなんだ 味は濃くなきゃな。」
「うぅ そうなのね。サトー」
「そういう人もいますね。俺とか。」
「覚えておくわ。」
エルがへこみながら手を止める。
魔獣は体重の割りに可食部が少なく、他の家畜と違って味付けが濃くないと臭みが強すぎるんだ。
「魔獣の肉は向き不向きがありますよ。
あの時作ったもらった鍋ものはおいしかったですし。」
「そう。良かった。精進する。」
エルが少し嬉しそうに肉を捌いていく。
「ここらで野宿にするか。
川もあるし。」
「って あれ?」
川から何かが流れてきている。
黒い形状の箱、恐らく魔具<ガイスト>だろう。
「ヴィヴ 拾える?」
「余裕だぜ。」
ヴィヴが斧の反対側につけた縄を箱にひっかけて。箱を引き上げる。
「んー こりゃ特殊な魔具<ガイスト>だな。
つまり」
「えぇ。この川の上流にコルプガイストの街があるのは間違いなさそうね。」
意外なところで見つかったな手掛かり、王族が見つかってないから入れるか分からんが。

月明かりが川の水に映り揺らめいていた。

しおり