19話 魔具ノ使い方 Way to use gaist
数日後
ドンクリフ 郊外 孤児院ユーソムニア
狭い渓谷に作られた街だからか建物が全て高く作られているらしく
孤児院も3階建ての石造りの建物だ。
「わーい おにーちゃんの髪くろーい」
「へんなのー」
俺は帝国の大地主が設立したらしい孤児院の番を任されていた。
「――どうしてこうなったんだ。」
「サトー 頑張ってね。」
「案外似合ってるじゃねぇか。」
エルとヴィヴは孤児院の外から見守っていた。
「にーちゃん ルーのおむつ変えてくれ。」
遠くでスキンヘッドの大男が俺に声をかける。
ボバァス・ロッキング 元軍人の男でなぜか孤児院の先生をやっているらしい。
「はい」
エヴァネスから教えてもらった魔具<ガイスト>の力を使いこなすため、その方法を知る人物の紹介された住所がここだったのだ。
「しっかし助かったぜ。
今日1日はカミさんが遠出しててな。
俺1人じゃきつかったところだ。
あっちの姉ちゃん達は物騒だし」
「それはどうも」
インドラとアシュヴァルは現在修復中のため俺は手ぶらで来たのが原因だった。
2人は戦闘用の魔具<ガイスト>を持っているからか立ち入ることが出来ない。
結果として俺は1人で手伝う代わりに魔具<ガイスト>の使いかたを教えてもらうことになっていた。
「ま 落ち着いたら1時間ぐらい教えてやるよ。
魔具<ガイスト>の使いかたってやつをな。」
「はい」
数時間後 夕方
孤児院の近くにある森で俺とエル、ヴィヴにボヴァスさんが魔具の使いかたってやつを教えてくれるらしい。
俺はインドラがいったん修復が終わったので持ってきたが、アシュヴァルは修理中のままだ。
「この森なら邪魔も入らねぇ。」
ボヴァスさんがサングラスをかける。
「それで魔具<ガイスト>の使いかたって」
「お前等も戦闘中に魔具<ガイスト>を使ってるだろう。
だがその力を本当の意味で引き出すには特殊な訓練が必要ってことだ。
エルリーフの姉さんは魔具<ガイスト>が魔術を発生させる機構については知ってるよな。」
「――魔具<ガイスト>は世界の様々な事象を結晶回路に刻んだもの。
魔素<エレメント>を注ぎこむことで駆動する。」
「そんなことはわーってるよ。」
ヴィヴが早く知りたいらしく小言をいいつつ口をとがらせる。
「この結晶回路ってやつはな。他の物質とは異なり生き物に近い挙動を示すことがある。」
「人と魔具<ガイスト>の共鳴現象」
「流石は博識だな。エルリーフの女は。」
「でも共鳴現象の発生確率なんてほぼ0に近いでしょう。
私もほとんど見たことないし。
発生すると本来のエネルギー効率が1.2倍近くになるらしいけれど。」
「そうだ。でもその確率を高める方法がある。
それが魔具<ガイスト>の正しい使いかたってやつだ。」
「? 共鳴現象って?」
何も分からん。
「兄ちゃんは異世界人だったか。
まずは共鳴現象ってのを説明した方がよさそうだな。」
「――えぇ。」
俺はまだ出身を名乗ってないはずだが、異世界人だとばれてるな。
「サトーは転生者だけど悪い人じゃないわ。」
「あぁ。子供達の接し方を見りゃ分かるよ。
そんじゃ共鳴について見せながら説明するぜ。」
ボヴァスさんが魔具<ガイスト>を構える。
狙撃銃のような口径のデカく砲身の長い銃だ。
連邦の兵士が持っていたお手頃な銃のような魔具<ガイスト>とは一線を画す圧倒的な殺意を体現したような魔具<ガイスト>だ。
「まずは共鳴現象なしで攻撃するぜ。」
遠くにあった石をスコープも見ずに撃つ。
石に深く銃弾が突き刺さる。
「うわぁ 戦いたくねぇ。」
遠距離戦は苦手なヴィヴが苦い顔をする。
「そりゃ 最高の誉め言葉だぜ。姉さんよ」
「――次は共鳴を意図的に起こす。
兄ちゃんよく見とけよ。」
「すーー
ふーーー
よし。」
狙撃銃に魔素<エレメント>が集約されていき、鼓動を始める。
とんでもない集中力だ。
トットットットッ
そして鼓動が徐々に大きくなっていき
「一発の銃弾は大地を穿つ<テッラ・ブル>」
「っ!」
鼓動が一瞬だけとんでもなく膨れ上がり
大砲のような勢いで銃弾が放たれる。
そしてドォォォォッと石を貫通し、その後ろにあった岩を貫通し、地面に激しく突き刺さる。
「―――これが 共鳴現象」
凄いな 威力が1.2倍、いや2倍にはなってるぞ。
この力をインドラで使えたら転生者とも戦えるかもしれない。
「まぁ 一朝一夕じゃこうはいかねぇだろうが。」
「何かコツのようなものはあるんですか。」
「あぁ やらなきゃいけないことはシンプルだ。
魔具<ガイスト>と共にあり、己を同一化させること。
雑念を全て捨てて魔具<ガイスト>と呼吸を合わせる。
結晶回路がわずかに魔素を吸いたがっている瞬間に自分の魔素<エレメント>を注ぎ、
吐きたがっている瞬間に魔素<エレメント>の注入を止める。」
「雑念を捨てる。」
「捨てるのは雑念だけだぜ。信念は捨てちゃいけねぇ。
大事なものを守るために力があるんだからな。」
「俺の大事なもの。」
「私も」「あたしも」
エルとヴィヴが魔具<ガイスト>を取り出すと集中を始める。
俺もインドラでやってみるか。
「うぉっ 姉ちゃん達は化け物レベルだな。」
エルとヴィヴは魔具<ガイスト>との呼吸が合っていき
徐々に高まっていくのが分かる。
「す すごい」
「うん 感覚はちょっと掴めてきたわ。」
エルが矢を放つ豪風を纏い石をゴォッと貫通する。
ヴィヴは斧に纏っているエネルギーがチェーンソーのように激しく回転している。
「共鳴現象は連鎖する。
本当だったのね。」
「あたしのだけしょぼくねぇか。」
「いいえ、威力は数段上がっているはずよ。」
「そりゃ面白れぇ。」
「兄ちゃんはまだ少しかかりそうだな。
まだ魔具<ガイスト>と会って短いんだろ。
時間をかけてじっくり慣らしていくしかねぇな。」
「サトーならまぁすぐいけんだろ。」
「必ず掴んで見せます。」
「共鳴現象は死闘の中で起きやすいと聞くわ。
きっと極限状態で魔具<ガイスト>を使い続ける。それが鍵なのかも。」
「さすがエルリーフだけあって博識だな。
俺も、仲間も戦争の中でこいつを身に着けた。
人ってのは案外生きるためなら何でもできるもんだぜ。」
「あたしはこいつので魔獣を狩りてぇ。
ボヴァスの旦那、いい相手しらねぇか。」
「そーだな。ここらだと崖を登って森の方に行かなきゃいけねぇな。
だが人ならいる。
血の気が多い奴と戦ってみちゃどうだ。
今なら帝国軍の部隊が1個来てるみたいだしな。」
「あぁ そこからあんたを紹介してもらったしな。」
「――なるほどな。そいつはピンク髪の女か。」
「えぇ エヴァネスさんよ。」
「あいつと戦うのはやめとけ。あの力は人の修行には向かねぇ。」
「そう言うと思った。相変わらずね。ボブ」
「っ ひぃいいいっ!!!」
ボヴァスさんが女のような悲鳴をあげた。
「相変わらず新兵みたいね。気配の察知が子供より弱い。」
「エヴァ大佐 私は急用で失礼するであります!!」
ボヴァスさんが腹を抑えて全力で逃げていく。
「――はぁ。最終階級は准将だし、もう軍はやめたのに。
ってもう聞いてないか。」
ボヴァスさんは既に姿が完全に消えていた。
とんでもない走力だ。
流石は元兵士だよ。戦場で足の速さは命に関わるだろうしな。
「エヴァネスさん どうしてここに。」
「あなたが戻ってこないから。探しに来ただけ。
無事なら良かった。
それじゃあ、お家に戻りましょ。
そっちの2人は収穫があったみたいね。」
「――どうしてそれを。」
「ふふっ 共鳴した魔具<ガイスト>特有の魔素<エレメント>の反応だから。
昔は良く見たし。」
「すげぇな あんた。」
「これでも長く生きてるから。エル あなたと同い年ぐらいかしら。」
「そうなの? 血鬼の女性はいいわね。
肌もきれいだし。」
エルがしみじみとうらやましそうにエヴァネスさんを眺める。
「そう?」
エヴァネスさんは嬉しそうにポーズを取ったりしている。
「へー 帝国もおもしれー奴がいるんだな。」
「ヴィヴ?」
「エヴァネス あたしと勝負しねぇか。」
「断るわ。私は婿探しに忙しい。
年下で優しくて一途な男の子を求めてはや10年」
10年て失敗してないか それ。
「ここにいるサトーを賭けてやる。」
「だめ!!!だめよ!絶対!」エルがヴィヴに掴みかかる。
「――確かに。
あなた強さはいまいちだけど、東洋人っぽい優しい顔立ち、それに年下だし
はっ!!!
――いいわ。いいでしょう。
サトーを賭けて戦いましょう。」
「よし。」
「へ? いや俺の意志は。」
「諦めなさい 昔の帝国じゃよくあったこと。
実際に初代女帝の創醒の魔女は20年下の少年を婿入りさせたという。
家を継いだのは弟の子供で男系らしいけれど。」
「1000年以上も前じゃない!!!
サトーは私の」
「なんだ」
「私は」
「エル 諦めな
お前はサトーをお気に入りの男認定してねぇ。」
「じゃあ 今するわ!」
「良かろう。ならば2人して相手してやる。」
何か良く分からないノリのまま
エヴァネスさんがだんだんと魔素<エレメント>を高めていく。
「流石に3人が戦ったらただじゃすまないでしょう。
戦うんじゃなくて別の勝負にした方が。」
「いいや。女にはひけない戦いがあるのさ。」
「待っていろ 我が婿よ。」
「いや まだ婿入りしてませんけど。」
「さぁ魔具<ガイスト>を取れ つわものよ。」
エルとヴィヴが魔具<ガイスト>を共鳴させる。
さっき覚えたばかりなのにとんでもない才能だ。
「ゆくぞっ!!!」
エヴァネスさんが背中から大剣を取り出す。
そして共鳴を起こす。
ドッドッと大剣そのものが呼吸をしているかのような巨大な鼓動だ。
そして禍々しい黒い血を纏って反応し真紅に染まっていく。
「血を使って戦うのは血鬼の特徴よ。
私がサポートするから思いっきりぶった切ってきなさい。」
「りょーかいっ!!!」
ヴィヴが斧を構えて突進する。
斧の効果か身体能力自体も上がってるな。
2段、3段と斧が魔素<エレメント>を吸い込むごとにスピードが上がっていく。
「いい動きだな。」
ギィアガァァッ!!!
大剣と斧が激しくぶつかる。
激しい衝撃がびりびりと伝わってくる。
「近づきすぎよ。血ノ鉄人形<ハイマ・アクス>」
エヴァネスさんの大剣に纏っていた血が針として飛び出す。
「ぐっ」
ヴィヴの体に針が何本も突き刺さる。
「身動きは封じた。
これで1人終わり。」
斧を保持できなくなったヴィヴの顎にエヴァネスさんが掌底を繰り出す。
「ヴィヴ! 頭伏せて」
回り込んでいたエルが弓に貯え切った暴風と共に矢を解き放つ。
ドォウッ!!
とんでもない風が辺りを包み
「うぉあっ」
ヴィヴが風で吹き飛び、地面に転がる。
それとほぼ同時に二の矢がエヴァネスさんの大剣にぶつかる。
「爆風<ラフォル>」
エルの矢に付与されていた風が爆発する。
「っ!」
ヴィヴが斧で風を受け止める。
「全く、味方ごとこんな暴風に巻き込むとは。」
風を割いて現れたのは
「!?」
エヴァネスさんの全身を真っ赤な甲冑が纏っている。
「血杯ノ雫<クルオール・アルミアム>」
「――っ
思い出したぜ。
10年前 姿を消した帝国の血ノ女王
率いた軍が通った後には敵の死体がミイラのように血がなくなって転がっているってな
こんなところで会えるとはな。」
「皇帝のいる国で女王という敬称は不遜よ。
血濡将軍とは呼ばれていたけど。」
「こまけぇ話はどうでもいいんだよっ!!!」
ヴィヴが斧にまとった紫のオーラを3連で撃ち放つ。
巨岩で出来た巨人すら一撃で首を落とせるその一撃を
真紅の鎧がギィィィッと音をたてながら弾き、
エヴァネスさんがぐっと押し進むとオーラがねじ曲がって霧散していく。
とんでもない強度なのが分かる。
「かっこいい
いやそれだけじゃなく美しいフォルムだ」
思わずおれがつぶやくと
「え? ほんと?」
エヴァネスさんが俺の方を見ると同時に真紅の鎧を頭部だけ解いてしまった。
「後ろ!!!」
俺がエヴァネスさんに叫んだよりも早く
ゴチンッ!!
エヴァネスさんの後頭部にエルの訓練用の矢がヒットした。
「っつ~~~~~~!!」
エヴァネスさんは痛みをこらえながら構えを崩さない。
「―――なぁ これあたしらの勝ちじゃね。」
「なっ!!わ 私は負けてないぞ!
そうだろ サトー!!!」
「いや勝負ありでしょう。」
「は は
ああああああああっ~~~~
婿がーーー」
エヴァネスさんが膝から崩れ落ちる。
「私達の勝ちね。」
「あぁ なんか釈然としねぇけどな。」
エルとヴィヴがこんっと拳を重ねる。
「サトー かっこいい?」
エヴァネスさんがまた真紅の鎧を頭まで纏って俺の真ん前に立っていた。
「はい かっこいいし美しいフォルムですよね。
かなり細部にこだわってるし
それだけじゃない魔素<エレメント>が高密度に練りこまれている。」
「えへへ そうかー分かってくれるかー。
実はこの鎧は500年前の100年戦争で英雄であった北の戦士の被っていた兜のデザインと
東のサムライが使っていた鎧の意匠を参考にしてな」
エヴァネスさんの早口が加速していき
人の認識速度で捕らえられなくなってしまった。
そうなんですか しか返事が出来ない。
だが10分ほど全部話してすっきりしたらしく
「今日はよき男と巡り会えた。
これはまさに運命の出会いだ。
だが私は敗れてしまった。
これが運命の悲哀」
とか何とかいいながら肌がつやつやして満足げだった。
翌日 早朝 エヴァネスの家
「サトー いい修練相手を紹介しよう。」
「ん?って どうして俺の部屋に」
エヴァネスさんが俺のベッドに腰かけていた。
なんか距離感がおかしくなってないか。
「エヴァネスさーん
何なんですかー朝っぱらから。」
うっすらと赤い髪の長身の男が部屋に入ってくる。
「帝国軍の戦闘訓練は最近はぬるいそうだし
転生者と戦ってみるのもいい経験になるとは思わないか。」
「――相変わらずとんでもないことを言ってきますね。」
「君たちは若いんだし、後は仲良く戦いなさい。」
そんな戦闘民族みたいなことをいいながらエヴァネスさんが部屋を出る。
出る前になぜか下手なウィンクをしていったがどういう意味だ。
片目閉じるときにもう片方の目が閉じかかっちゃってるし
案外 戦闘以外は抜けてる人なのかもしれない。
「あんたホントに転生者なのか。
俺はブルガン・ヴァンパガスタだ
あんたは?」
「沼鹿 悟士 サトーでいい。
転生者だが敵意はない。」
「そうか
こっちは敵意があるぜ。
帝国じゃ転生者は殺しても法律が適用されない。
軍事訓練の相手にもってこいだ。」
「――それは」
隣の部屋でエルとヴィヴが寝てるはずだ。
――2人がいれば、確実に倒せる。
だが1人じゃ危ういな。
「ここじゃ軍事訓練は出来ないからな。
俺たちの部隊の訓練地に来い。」
ブルガンの殺気がびりびりと俺に刺さる。
「――」
断れる雰囲気じゃなさそうだな。
エヴァネスさん達が特別だったんだ。
これが本来の転生者の扱いなんだろう。
ゴトッ
隣の部屋で音がした。
どうやらエルとヴィヴが気づいたらしい。
「分かった。
あくまで訓練として参加しよう。」
「延命出来て良かったな。」
ブルガンが殺気を解く。
本気の訓練ということらしい。
「あんたは寿命を縮めてるぜ。」
俺はインドラとアシュヴァルを持ちブルガンに付いていく。
ドンクリフ郊外 渓谷の上の台地にある小さな村 ドンラグエ
宿酒場 マルゲ
「また会いましたね。サトー」
ブルガンに連れてこられた宿酒場で俺と軍人3人がいる。
「? 人違いでは?」
「ははは 気を失ってましたね。
心停止して。」
「――あ エヴァネスさんと俺達を助けてくれた。」
「私はマクス・ローインガル
しがない軍人をやってるよ。」
「マクス少尉!何朗らかにやってんですか!
こいつは転生者ですよ!異世界の敵! 敵です!!」
ブルガンが机を叩いて抗議し始める。
「そーだね。だが彼が君に殺気を放ったことはあったか?」
「――それはなかったです。」
「うん、それに彼は転生者が本来持っているはずの
エスキートを持っていない。
持ってれば脳に異界の魔素<エレメント>が作用して人並外れた思考をするようになるからね。
世界征服とか、何かこだわりが強すぎて現在の世界を破壊したくなるような欲望を強く持つようになる。」
「で、でも」
ブルガンが反論する暇を与えてもらえずおろおろし始める。
「ちなみにエスキートというのは転生者が固有に持っている超常現象を起こす力だよ。
転生者の肉体に多量に取り込まれている魔素<エレメント>が脳に作用して神経回路を」
「少尉 もう意味わかんないっす。」
確かに今までの転生者はやたら何かにこだわってる奴が多かった。
最初の村を襲撃した男は炎、次に村を征服した男は愛や神、あの大男は恐らく世界征服、赤いドレスの女は美しさとか美的なものだろう。
あれが脳に作用しているものだとは思わなかったがな。力の代償ってやつか。
「――何か腑に落ちたようだね。」
「えぇ。転生者がなぜあんな風になるのかようやく分かりました。」
「少尉 喋っちまっていいんですかい。
転生者の情報は軍事上の情報ですぜ。」
坊主頭の男が身を乗り出す。
「かまわない。彼には協力してらうんだからね。」
マクスが不適に笑う。
「――どういうことですか。」
「エヴァネスさんから作戦領域には入らないように言われているだろうが、
君をここで手持無沙汰にさせるつもりはない。
下手をすれば君を殺しに奴らの仲間が帝国領に進入してくるかもしれない。
あの2人はやたらと転生者とその一派を殺したがっているようだからね。」
「確かに!大変じゃないですか!!」
ブルガンがガッツポーズで俺にざまぁみろ的な顔をしてくる。
「数日中には君たちを連邦領に送還させてもらうし、
ついでに連邦内である一族に接触してほしい。」
「――なるほど 俺達を使いにしようと。」
「そうだね。君のお連れも来てるみたいだし一緒に話そうか。」
どうやらエルとヴィヴが俺の後を付けて来たのはバレてたらしいな。
エルとヴィヴが俺の横に座り改めて宿酒場で今後について話合うことになった。
「はぁ?
コルプガイストに接触してほしい?
もう50年以上も引きこもってるような一族だぞ。」
ヴィヴが嫌そうな顔をしながら肉をほおばる。
「いいえ、ちょうどいいわ。
私達もドヴェルグと接触の道が断たれた以上はコルプガイストの街と同盟を結ぶ必要がある。」
「ほぉむ。肉はうまいな。
でもどうやって会いに行きゃいいんだよ。」
「それについてはこちらの資料を提供しよう。
その見返りとして我々に魔具<ガイスト>の研究協力を取り付けてほしい。」
「私達はコルプガイストと同盟を結ぶ機会を得られて
あなた達は軍事力の強化の見返りがあると。」
「ごくっ 敵国の軍を強化するなんていいのかよ。」
ヴィヴが肉を食い終わる。
「かまわないよ。」
隣にいた黒髪、日焼けした中年の男がこちらのテーブルに映る。
「誰だ。あんた」
「私は旅人 ただの旅人さ。」
中年の男がどこからかバラを取り出してくわえる。
「カイゼル首相 相変わらず悪趣味ですね。」
「はは 手厳しいね。
どうだい?妻にはひどく言われてしまったが。」
カイゼルと呼ばれた男がバラを今度は手に持ってウィンクする。
「いい奥方をお持ちですね。
それよりアルテニアとの交渉はまとまりましたか。」
「あぁ。おかげ様でね。」
「―――あなたが元首相 カイゼル」
「そうだよ。コルプガイスト一族との同盟は君たちに任せよう。
それでは。」
カイゼルは俺達の分の銀貨を置いて立ち去る。
「やれやれ。
そういう訳です。
それとサトーには部隊で特訓を付けてもいいですよ。
数日ですが、ごくまれに共鳴を起こせるぐらいにはなるでしょう。」
「――お願いします。」
やるしかないな。どっちにしろあの2人の転生者と戦う可能性がある以上は戦力の増強は必要だ。
出来ればもう1人、仲間がほしいな。
「それともう1つ、エヴァネスさんはあなた達の旅には同行できません。
彼女にはうちの部隊と連携して転生者を国境ラインであるこの街で食い止めてもらう必要があるからね。」
「――そうですか。」
エヴァネスさんが仲間に加われば心強かったが、そうはいかないか。
「ったく帝国の奴らは抜け目がねぇな。
そんじゃあサトーを頼む。あたしとエルは情報を集めてくるぜ。」
「ちょっとヴィヴ?」
ヴィヴとエルが酒場を出ていく。
「さぁ、それでは特訓の時間です。」
マクスがにやりとサディスティックな笑みを浮かべた。